1 【演習 13】 《問 1》次の 2-fluoro-3

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【演習 13】
《問 1》次の 2-fluoro-3-iodobutane のすべての立体異性体を Fischer 投影式(主鎖を
縦線、立体中心を水平線で書く)で示せ。また、不斉炭素の右横に立体配置 R,S も明
記せよ。さらに、それぞれの異性体について、エナンチオマーの関係とジアステレオマ
ーの関係を示せ。
F I
H3C C* C* CH3
HH
《解説》
Fischer 投影式は三次元的立体異性体を二次元的平面で表現する投影法である。す
なわち、波線-くさび形表記法で描いた立体異性体を平面で表記する方法である。しか
し、二次元で表現しても、三次元的意味を持つ。すなわち、主鎖を縦線(背骨)として
書き、不斉炭素*を含む結合を横に両手(あばら骨)として書く。このとき、頭と足に
相当する炭素は紙面の向こう側に、両手(あばら骨の先端)は紙面の手前に突き出
ているという意味を持つ。
まず、2-fluoro-3-iodobutane の適当な立体異性体を、波線-くさび形表記法で描く。例
えば、次の図の I のように。
H
CH3
* *
I
H3C
H
F
I
H
H
CH3
F
H3CCH3
CH3
III
IV
A
HF
I
CH3
II
CH3
CH3
* F S
* H S
CH3
I
H
H C
I C
F
H
H
I
次に、立体異性体 I を右側(ピンク矢印の方向)から見た Newman 投影式を描くと、
ねじれ型 II となる。Fischer 投影式の決まりとして、両手(不斉炭素を含むあばら骨)に
なる置換基は紙面の手前に来るから、両手に当たる置換基は Newman 投影式では重なり
型立体配座となる。また、頭と足に相当するメチル基は Fischer 投影式では紙面の向こう
側に来るので、Newman 投影式ではどちらも下に来る。よって、II の手前の炭素を 180
回転(赤矢印)させて重なり型の Newman 投影式に直すと III になる。この重なり型
Newman 投影式を真上から見る(ピンク矢印の方向)と IV の波線-くさび形表記法とな
り、この IV を上から紙面に押さえつけて平面に書いたものが A である。すなわち、この
A こそが立体異性体 I の Fischer 投影式である。
Fischer 投影式 A には不斉炭素が 2 つあり、順位則に従い優先順位を付ける。上の不斉
炭素では原子番号の一番大きい F が順位 1 位、次ぎに下に結合した原子団が順位 2 位、メ
チル基が順位 3 位、そして最下位が水素である。よって、順位 4 位の水素は紙面の手前に
出ているので、1 位→2 位→3 位と回る方向は時計回りとなり、裏側から見れば(=優先
順位の一番小さい水素を一番奥に持って行くと)、それは反時計回りである。よって、立
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体配置はSである。下の不斉炭素では I(ヨウ素)が順位 1 位、次ぎに上に結合した原子団
が順位 2 位、メチル基が順位 3 位、そして最下位が水素である。こちらも、水素が紙面の
手前に出ているので、上の炭素と同じ原理で、1 位→2 位→3 位と回る方向は時計回りに
なり、裏側から見れば、それは反時計回りなので、立体配置は S である。以上より、立体
異性体 A の不斉炭素の立体化学は(S,S)立体配置となる。
立体異性体 A を鏡に映せば、立体異性体 B となり(下図)、不斉炭素の立体配置は(R,R)
である。立体異性体 A と立体異性体 B は鏡像異性体であり、お互いにエナンチオマー
(enantiomer)の関係である。
enantiomer
mirror
S
S
H
I
R
F
H
H
H
CH3
* F
* I
CH3
C
CH3
* H
* I
CH3
R
R
B
A
diastereomer
S
CH3
* F
* H
CH3
F
I
mirror
CH3
* H
* H
CH3
diastereomer
R
S
D
enantiomer
立体異性体 A の下の不斉炭素の立体化学を逆にすると、(S,R)立体配置の立体異性体 C
が得られ、その鏡像異性体の不斉炭素は(R,S)立体配置の立体異性体 D となる。当然、立
体異性体 C と立体異性体 D は鏡像異性体なので、お互いに enantiomer の関係である。
しかし、立体異性体 A と立体異性体 C、立体異性体 A と立体異性体 D、また、立体異性
体 B と立体異性体 C、立体異性体 B と立体異性体 D は鏡像異性体(enantiomer)では
ないが、お互いに立体異性体の関係にある。このように、鏡像異性体 enantiomer ではな
いが、立体異性体の関係にある化合物同士をジアステレオマー(diastereomer)と呼
ぶ。Enantiomer と diastereomer は物理的、化学的性質が異なるので、それぞれを単離
することができる。
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《問 2》上記立体異性体のうち、R,R 体について破線­くさび形表記法で構造式を示せ。ま
た、それを Newman 投影式のねじれ形立体配座で描け。
《解説》
立体異性体 B の不斉炭素が(R,R)立体配置を持った異性体である。この Fischer 投影式
をそのまま破線­くさび形表記法で描くと V となる。これを下(ピンク矢印の方向)から
見た Newman 投影式に直すと、エネルギー準位の最も高い不安定な重なり型立体配座 VI
となる。最後にこの VI をエネルギー準位の最も低い立体配座であるねじれ型立体配座
VII に直す(赤 矢 印 のように手前の炭素を 180 回転する)と出来上がり。ちなみに、
Newman 投影式で描いた上記 II と下記 VII は鏡像になっていることがわかる。
CH3
F * H
H * I
CH3
B
CH3
R
R
F C
H C
H
I
CH3
V
H
F
IH
F
I
CH3
H
H
H
H3C
H3CCH3
CH3
VI
VII
F
CH3
I
H