気づきの共有に基づくケアの重点課題の明確化

4-第2-A⑳-1 一般演題
9月4日(金) 11:00∼12:00 第2会場 パシフィコ横浜 会議センター3階 303
全般的なケア⑳ [座長]横地 正之(介護老人保健施設マロニエ苑)
第1群:101 入所
第2群:206 データのある「効果」の提示
第3群:A3303 全般的なケア ケアの質の向上
気づきの共有に基づくケアの重点課題の明確化
1
介護老人保健施設 なんぶ幸朋苑 介護老人福祉施設 よなご幸朋苑
2
社会福祉法人こうほうえん 教育研修人財部
上田 紀行1、福田 亮子2
介護士の気づきをデータとして記録し、その可視化による気づきの共有がケアの質の向上に繋がるかどうかを、日々
の生活記録との比較分析も交えて検証したので報告する。
はじめに
日々のケアにおいては、個々の介護士の経験や勘、気づきの共有がユニット全体のケアの質の向上において重要であ
ると考えられる。そこで本研究では、介護士の気づきをデータとして記録し、その可視化による気づきの共有がケア
の質の向上に繋がるかどうかを、日々の生活記録との比較分析も交えて検証した。
研究方法
対象:社会福祉法人こうほうえん 1施設 1ユニットのスタッフ6名
期間:平成26年4月∼平成27年1月
方法:下記を毎月繰り返して実施した。
1 ユニットスタッフ全員で11名の利用者を対象に、スマートフォンを使用した「気づきデータ」の入力と日々の生活
記録の記入を行った。気づきデータは、利用者の行動や様子などを表す21個の項目と、その時の利用者の状態に関す
る5段階評価に、入力した介護者の名前と対象の利用者の名前、場所、時刻を組み合わせたものである。
2 気づきデータ・生活記録ともに月単位で利用者ごとに各項目の評価値の内訳をグラフの形で可視化した。 生活記
録については記述内容から利用者の状態を読み取り、「良い」「普通」「悪い」の3段階で評価し項目ごとに集計した。
3 ユニット会において、2のデータを見ながら議論を行い、ユニット全体で気づきを深めるとともにケア内容を検討
した。
4 3で検討したケアを実践し、気づきデータの入力と生活記録の記入を行った。
結果
今回は利用者H様の「介助」の項目に関する検討結果を報告する。
平成26年8月は、生活記録では「悪い」の割合が多いのに対して、気づきデータでは「普通」の割合が多かった(図1)
この差は、生活記録では1日の中で最も重要な事項が記載されるのに対し、気づきデータでは利用者の普段の何気ない
様子でも、スタッフが何か気づいた場合にはそれが記録されることによると推測される。そこでユニット会において、
介助の「悪い」と評価された内容について普段の様子もふまえて議論したところ、以前から車椅子で過ごされている
際に多く見られるずり落ちそうな姿勢について、個々の認識のズレがあることに気付いた。ここから、姿勢の悪化が
仙骨部の表皮剥離に繋がったのではないかとの気づきを共有し、ポジショニングの検討を行い、実践することとした。
その結果、平成26年9月には生活記録と気づきデータの両方において「普通」が占める割合が増えた(図2)
これは、全員での表皮剥離への取り組みによって状態が改善し、「悪い」の占める割合が減ったことによると考えら
れる。記録件数については、生活記録の件数が減っている一方で、気づきデータの入力件数はほぼ倍増している。気
づきデータの入力が増えたのは、表皮剥離の治癒に向けた取り組みを行う中でH様と関わる時間も増えたためであると
考えられる。
考察
今回の事例では、気づきデータの充実と具体的ケアの展開を図ることで表皮剥離の治癒に繋がった。
従来は伝達や種々の記録類をもとにした情報共有をし、利用者と関わりながら得た気づきをもとにケアの質を向上さ
せてきたが、今回は可視化した気づきデータによる情報共有も行うことで、予めケアの重点ポイントを把握した取り
組みが可能となった。関わる前に持つことのできる情報量が増え、気づきを得て行動に移せること、ケア提供の際の
着眼点を明確にできることが、ケアの質の向上を促進すると考えられる。
このように気づきデータの可視化による情報共有は有意義であることがわかったが、データを見て理解するのに時間
がかかった点は、今後の課題として挙げられる。
まとめ
本研究により、気づきデータを活用することで情報共有が促進され、個々の利用者に提供するケアの重点を明確にす
ることができ、ケアの質の向上に繋がることが示された。
今後もデータに基づいて気づきを得、問題解決の糸口にしていきたい。
謝辞
本研究は(独)科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)による研究成果の一部である。