⑤知的障害者の心理 - 日本知的障害者福祉協会

知的障害援助専門員養成通信教育優秀レポート
40 期生
⑤知的障害者の心理
誯 題:家族への心理的 支援 をする際には、それぞれの障害 の受容 過程を支える必要がある。あなたが
実際に行なった家族支援を、障害の受容過程を支える視点から述べなさい。
障害受容の過程には、一般的な段階モデル
はあるとはいえ、家族形態の多様化が進む中
より複雑になってきており、その家族の数だけ
族生活はスタートしたが、継母にとっての R 君
はただでさえ育てにくい子どもである上、実
の子である弟を執拗にいじめる厄介な存在と
存在するといえる。私が勤務していた療育施
なり、良好な母子関係の構築は始めから困難
設では子供が障害児だと判った後両親の離
婚により父親か母親のどちらかに生活の負担
が突然のしかかり精神的・経済的に追いつめら
なものであった。家族関係を平穏に保つため、
軋轢関係にある母と子の接触時間を極力減ら
し R 君には療育施設でできるだけ長い時間過
れている、あるいは両親がいても家族の誮か
一人に負担がいき過剰なストレスとなっている
家族の状況が、少なからず常に見られていた。
ごしてもらい、継母が夜働きに出たのちは父
親が朝まで面倒を見るという努力がなされて
いた。しかし一年が経過する頃、父親が継母に
今回は R 君とその家族に行った家族支援につ
経済的負担をかけるようになり、家庭環境は
いて述べる。
R 君は4歳の時施設の利用を開始した。実
母は障害児を生んだことを受容できず R 君を
急激に悪化する。そして R 君には無断外出を
繰り返すという形での問題行動が現れ、継母
は児童相談所や養護学校の就学支援コーデ
ィネーターに「R 君に虐待をしてしまう」という
出産直後に離婚し家を出ていってしまったた
電話をかけるサインが外部に出たのである。
め、父親が主たる養育者となったが、丌規則
な形態の職業に就く父親のもとでの養育環境
は十分とは言い難く人格形成の基盤となる乳
私の職堲にも継母より電話が掛かってきた
ため彼女に対する支援を行う。継母は過度の
幼児期の安定した母子関係が欠如していたこ
とが、R 君の情緒面での問題行動として現れ
心的・肉体的ストレスにより精神的余裕がない
状態と推測されたため、本人の話しをとにかく
ていた。施設を利用する頃に父親が再婚した
傾聴することにする。施設に対するクレームか
女性(以下、継母と記す)は妊娠中であった。
ら始まり「精一杯やっているのに全て報われ
継母が障害児の親となるにあたっての受容過
程を考えると、通常の親が経験する「ショック」
「回復への期待」などの段階はない。後の継母
の言葉から伺えた当時の心境は「うまく障害
ない」「反発ばかりする R 君が憎い」と堰を切
ったように丌満を話していたが、一通り話すと
落ち着いてきて冷静な質問もでてきた。質問
には決して説教などせず、安心館を得られる
児を育てられないのは分かっているが、一緒
に生活する大人として最低限の努力はする」
よう回答し、本人が落ち着いて話を聞ける状
態になったタイミングを見計らい、「あなたは
という、あまりに前向きとも言えないが割り切
ったものであった。このような前提で新たな家
精一杯やっている」「今は無駄に見えても、長
い目で見れば R 君も自分に真剣に向き合って
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くれた大人を信頼するものでありいずれ感謝
入所施設に入所することとなり両親も離婚し
される日が来る」という肯定的なメッセージを
てしまった。家族関係は消滅する結果となり、
伝えた。幸いにして1時間半ほどの電話を切る
一見脱施設化の流れに逆らった丌幸な判断の
頃には明るい声で彼女の口から感謝の言葉を
聴くことができた。継母に必要だったのは、親
の会の役割にあるような「自分の思いを分か
ように見えるが、その後継母と話したところ R
君とは距離を置くことでお互い穏やかに話せ
るようになったとのことであった。
ってくれる人との遠慮ない語り合い」のより自
己肯定感を得ることであったが、そのニーズ
には応えることができたと思う。そして次の段
階で必要な支援を考えた結果、家族一人ひと
りが疲れを癒し心に余裕を持つことではない
今回の事例では「障害受容における螺旋形
モデル」における障害の「肯定」・「否定」段階
を繰り返す間もなく終結したように見えるが、
継母と R 君にとっては家庭でない新たな関係
かと判断された。継母の堲合、ナラティブアプ
が「肯定」段階のスタートとなったとも言える。
ローチにおけるドミナントストーリー、すなわち
「自分以外に家庭を守る人間はいない」とい
う支配的思考に捉われていることが抑うつ状
また事例を通じ、片親となった堲合に「生活上
の経済問題」が起こりやすいことを感じたが、
そのような親が自立し安定した生活を送れる
態を引き起こしたと考えられたため、レスパイ
トサービスなど関係機関の支援を利用してみ
てはという提案をした。その後様々な関係機
よう支援する社会の実現が大切であり、家族
支援でも具体的な提案のできる力量が現堲
のスタッフには今後より求められると考える。
関との相談を経た後、R 君は同法人内の児童
講評:テキストの文献についての内容を反映させながら、事例について述べられています。読み応
えのある素晴らしいレポートです。さらに考察を深められることを期待します。
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