真性多血症患者さん向け 疾患情報サイト 骨髄増殖性腫瘍 .net http://www.mpn-info.net 真性多血症と診断された方・ご家族の方へ 真性多血症 ハンドブック ̶病気の基礎から検査、 治療の話まで ̶ JAK00065GG0001 5AR 2015年9月作成 監修 桐戸 敬太先生 山梨大学医学部血液・腫瘍内科 は じ め に 目 次 真性多血症は、赤血球の過剰な増加を特徴とする血液の病気 Ⅰ 真性多血症とは です。病気の進行に伴い血液が濃くなるため、血液の流れが悪く 血液細胞の成り立ち …………………………………………… 4 なり、さまざまな症状がみられるようになります。心筋梗塞や脳卒中 といった重大な合併症を引き起こすこともあります。 また、体のだるさ、 真性多血症が起こるしくみ ……………………………………… 6 入浴後のかゆみといった全身の症状により、日々の生活に支障を来 真性多血症でよくみられる症状 ……………………………… 8 すようになります。 真性多血症によって起こる病気(合併症) ………………… 10 そのため、真性多血症の治療では、重大な合併症の発症を予防す Ⅱ 真性多血症の検査 るとともに、さまざまな症状を緩和することが目標となります。これ を達成するには、病気を正しく理解して、適切な治療を受けること 検査の種類と目的 …………………………………………… 12 が大切です。 Ⅲ 真性多血症の治療 そこで、真性多血症に関する基本的知識をまとめた 「真性多血症 治療の目標と方法 …………………………………………… 14 ハンドブック」 を作成しました。ご自身の病気への理解を深めるため Ⅳ 日常生活における注意点 に、本冊子をご活用いただければ幸いです。 日常生活で心がけること……………………………………… 16 参考 骨髄増殖性腫瘍 症状評価フォーム ………………………………… 18 Ⅰ 真性多血症とは 造 血 のしくみ 骨髄で造血幹細胞から血液細胞が造られることを 「造血」 といいます。 造血の過程では、骨髄中の造血幹細胞は、自分自身を複製して増殖し、 血液細胞の成り立ち また、血液細胞の性質をもつ若い細胞に変化します。血液細胞の性質をも こつ ずい つ若い細胞は、その後、血液細胞へと成熟し、血液中に放出されます。 赤血球、白血球、血小板などの血液細胞は、骨の中にある 「骨髄」 通常、血液中の血液細胞の数は、体のいろいろな仕組みにより、一定の範 という組織で造られています。また、骨髄で血液細胞を造りだ 囲になるように調節されています。 ぞうけつ すことを 「造血」 といいます。 ● 造血の流れ けっしょう 血液は、固形成分である 「血液細胞 (血球) 」 と、液体成分である 「血漿」 から 構成されています。血液細胞には、赤血球、白血球、血小板があり、血漿とあ 骨髄 造血幹細胞 複製 わせて、それぞれが体にとって重要な役割を果たしています。 赤血球、白血球、血小板などの血液細胞は、骨の中にある 「骨髄」 という 各血液細胞の 性質をもつ 若い細胞 組織で造られています。骨髄は、 ゼリー状の柔らかい組織であり、その組織中 ぞうけつかん さいぼう には血液細胞の源である造血幹細胞があります。この造血幹細胞が骨髄 で増殖・成熟することで、血液細胞になります。 ● 血液細胞、血漿の役割 主な働き 赤血球 白血球 血小板 血漿 全身の臓器に 酸素を運搬する 体内に侵入した 病原体などから 体を守る 傷ついた組織を 修復して 出血を止める 血液細胞や その他の栄養を 全身に運ぶ など ● 骨髄の構造 血管 (末梢血) 赤血球 白血球 血小板 骨髄 ぞうけつかんさいぼう 造血幹細胞 (血液細胞の源) 4 5 真 性 多 血 症 とは Ⅰ 真性多血症が起こるしくみ 血 液 が 濃くなることによる影 響 真性多血症は、造血幹細胞がもつ遺伝子に異常が生じ、赤血球な どの血液細胞が過剰に増殖することで起こります。 血液が濃くなると、血管内で血の塊 (血栓) ができやすくなるため、血栓症 を発症しやすくなります。心筋梗塞や脳卒中を発症して、初めて真性多血症 と診断されることもあります。そのため、真性多血症と診断された場合は、 ジャックツー 真性多血症の原因は、血液細胞の増殖に重要な役割を担っているJAK2 という酵素の遺伝子の異常であることが確認されています。 通常、血液細胞の増殖では、まず増殖の命令を伝える物質が受容体に結 合し、 その結果、 JAK2が活性化されて赤血球などの血液細胞が増殖します。 一方、真性多血症では、JAK2の遺伝子に異常が起きているため、増殖 の命令を伝える物質がない場合でも、増殖の命令が出し続けられ、赤血球 などの血液細胞が過剰に増殖し、血液が濃くなります。 症状の有無にかかわらず、血栓症の発症を抑えるための治療を行うことが 大切です。 ● 真性多血症の経過 造血幹細胞の異常 造血幹細胞の異常により、 血液細胞が過剰に増える ● 正常時と真性多血症における造血 正常 増殖の命令を伝え る物質が受容体に 結合する 造血幹細胞の細胞膜 増殖の命令がJAK2 を経 由して核に伝 わる 核 血液細胞が一時的 に増殖する 真性多血症の場合 受容体 JAK2 増殖の命令を伝え る物質がない場合 でも、増 殖 の 命 令 が出され続ける 血液細胞が過剰に 増殖する 遺伝子に異常 が起きたJAK2 血液細胞の増加により、 血液の流れが悪くなる 血管に血栓ができやすくなる 6 7 真 性 多 血 症 とは Ⅰ 真性多血症でよくみられる症状 真性多血症では、病気の進行により、 さまざまな症状がみられるようになります。 真 性 多 血 症 とは Ⅰ ● 真性多血症の主な症状 細い血管に血栓が 形成されることで 起こる症状 頭痛、めまい、赤ら顔、 目の結膜や口の中の 粘膜の充血 など 真性多血症では、病気の進行により、さまざまな症状が生じます。細い 血管に血栓が形成されると、頭痛、めまい、赤ら顔 (顔が赤くなる) 、目の結膜 や口の中の粘膜の充血などがみられます。 全身の症状 全身の症状としては、体がだるい、入浴後に全身がかゆくなるなどの症状 がみられるようになります。 体がだるい、 入浴後に全身がかゆくなる、 寝汗 など ひ ぞう また、増加した赤血球は脾臓で処理されるため、脾臓が大きく腫れて痛む ようになり、おなかの張り・不快感などが生じます。 脾臓や肝臓の 腫れに伴う症状 おなかの張り・不快感、 早期満腹感 など 真性多血症に伴う症状は、その症状の種類や程度によっては、治療を 行うことで日常生活への負担が軽減する場合がありますので、ご自身 の症状を定期的にチェックし、主治医に相談することをおすすめします。 ▲ P18-19 「参考 骨髄増殖性腫瘍 症状評価フォーム」 参照 8 9 真性多血症によって起こる病気(合併症) 病気の進行に伴い、心筋梗塞や脳卒中といった重大な合併症 こつ ずい せん い しょう を発症したり、骨髄線維症や白血病に移行することがあります。 真性多血症における過剰な赤血球の増加により、心筋梗塞や脳卒中と いった命に危険を及ぼす重大な合併症を発症する場合があります。最近 では、白血球の増加も血栓症を発症しやすくなる要因であることが確認さ れています。 骨髄線維症 原因はわかっていませんが、真性多血症に長期間かかっている患者さん の一部で、骨髄線維症に移行する場合があります。 骨髄線維症とは、骨髄内に線維質のコラーゲンができて骨髄が固く なり、骨髄の本来の働きである正常な血液を造ることができなくなる病気 です。骨髄の線維化が進むにつれて、貧血 (ふらつきなど) の症状や腹部の 症状 (おなかの張り・不快感など) がみられるようになり、さらに進行すると、 重篤な感染症や出血・白血病などの合併症が起こることがあります。 また、真性多血症に長期間かかっている患者さんの一部で、骨髄線維症 白血病 や白血病などに移行する場合があります。 骨髄線維症と同様に、患者さんの一部で白血病に移行する場合があり 心 筋 梗 塞・脳 卒 中 真性多血症では血栓が形成されやすくなっているため、血栓が大血管を 詰まらせることで、心筋梗塞や脳卒中を引き起こすことがあります。心筋梗 塞や脳卒中は命に危険を及ぼす重大な合併症です。 ます。 白血病は、白血球に成長するはずであった若い血液細胞が、成熟する途 中でがん化することにより発症し、骨髄内で、がん化した細胞がさらに増殖 するために正常な血液を造る場所が少なくなります。そのため、正常な血液 細胞が不足し、感染症、貧血、出血などがよくみられるとされています。 出血性症状 真性多血症では、血液中に異常な血小板が増えてしまうため、本来、出血 を止める役割である血小板がうまく機能することができなくなります。その ため、皮膚や粘膜などで出血が起こりやすくなります。 10 11 真 性 多 血 症 とは Ⅰ Ⅱ 真性多血症の検査 骨髄検査 骨髄に針をさして造血幹細胞を含む骨髄液を吸引し、顕微鏡で血液細 検査の種類と目的 胞に成長する過程にある若い細胞の成熟度や異常があるかどうかを確認 します。また、骨髄線維症への移行の有無を確認するために、骨髄の組織 を採取して、その状態をみる場合があります。 骨髄検査などがあります。 真 性 多 血 症の検 査 真性多血症の検査には、血液検査の他、遺伝子検査、 Ⅱ ● 骨髄液の吸引方法 血液検査 真性多血症では、赤血球の過剰な増加により、血液が濃くなります。血液 検査は、その血液の濃さを評価するための検査であり、血液細胞 (赤血球、 白血球、血小板) の数、血清エリスロポエチンの濃度などを調べます。 遺伝子検査 真性多血症の診断では、採取した血液を用いて遺伝子検査が行われ る場合があります。真性多血症の患者さんの大部分に、JAK2という酵素 の遺伝子に異常が認められているため、JAK2遺伝子に異常があるかどう かを調べます。 12 13 Ⅲ 真性多血症の治療 抗血栓療法 抗血栓療法では、血栓の元となる血小板に作用して血栓をできにくくす 治療の目標と方法 るお薬(アスピリンなど) を少量服用します。ただし、お薬に対してアレル 治療では、血栓症の発症を抑えること、症状を緩和すること ギーがある場合、消化性潰瘍がある場合は注意が必要です。 薬 物 療 法( 抗 がん剤など) が目標となります。 しゃ けつ 治療法には、瀉血療法、抗血栓療法、薬物療法、対症療法が あり、患者さん の 年齢や血栓症 の 既往などを総合的に検討 したうえで治療法を選択します。 真性多血症における治療の主な目的は、 球などの血液細胞が過剰に造られるのを抑えます。原則として、抗がん剤 の使用は年齢60歳以上の患者さん、または血栓症の既往歴のある患者さ ヘマトクリット値の指標 んに限られます。 Ⅲ 薬 物 療 法( J A K 阻 害 剤 ) す合併症の予防であり、主に赤血球などの血 液細胞の量を継続してコントロールする治療 真性多血症の原因であるJAK2の異常な働きを抑えるお薬を服用して を行います。真性多血症における血液細胞の 治療します。JAK阻害剤は 「分子標的薬」 とよばれ、病気の原因を分子レベル 量のコントロールの指標としては、全血液量 全血液量 に占める赤 血 球 の 量( ヘマトクリット値 )を 45%未満にコントロールすることとされてお り、患者さんの年齢や血栓症の既往などを総 赤血球の量 45% 未満 でとらえ、それを標的として効率よく作用するようにつくられたお薬です。 JAK阻害剤により、血液細胞の量の正常化がみられ、また、真性多血症 に伴う脾臓の腫れ (脾腫) をはじめとした症状を改善する効果が臨床試験 で認められています。 合的に検討したうえで治療法を選択します。 また、真性多血症に伴うさまざまな症状を軽減する治療を併せて行います。 対症療法 瀉血療法 真性多血症による症状には、頭痛やめまい、全身のかゆみなどさまざま な症状がありますが、症状に応じたお薬を使うことなどにより、 これらの症 真性多血症で最も一般的な治療法です。瀉血とは、献血と同じように静 状を軽減させることができます。また、入浴後のかゆみについては、湯の 脈から血液を抜き取ることであり、赤血球の数を減らすことで血栓をでき 温度を低くし、体を洗うときには皮膚を軽くなでる程度にすることで軽減 にくくします。また、赤血球に含まれる鉄を欠乏状態にすることで新たに赤 できる場合があります。 血球が造られるのを抑える効果もあります。 14 15 真 性 多 血 症の治 療 心筋梗塞や脳卒中といった予後に影響を及ぼ 抗がん剤などを使って造血幹細胞の異常な増殖を抑えることで、赤血 Ⅳ 日常生活における注意点 日常生活で心がけること 日常生活では以下のことを心がけましょう。 また、合併症の症状には十分に注意してください。 見 逃せない徴 候 真性多血症の患者さんの多くは、治療によって症状の緩和が みられ、通常の日常生活を送ることができます。 一方、患者さんの一部では、経過中に合併症を併発したり、他 の疾患に移行することがあります。そのため心筋梗塞や脳卒中 といった合併症の予兆を見逃さないことが大切です。以下のよ うな症状がみられた場合は、すぐに病院を受診してください。 血栓症の予防には、心血管危険因子を減らすことも大切です。心血管危 険因子とは高血圧症、肥満、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、喫煙のこ 合併症の症状 とです。とくに喫煙により、血栓症が発症するリスクはさらに高まるといわ れていますので、禁煙を心がけましょう。 心筋梗塞 ●日常生活で心がけること ・禁煙を心がけましょう。 出血性症状 脳卒中 ・適度な運動とバランスのよい食事を心がけましょう。 Ⅳ ・手術や抜歯などが必要な場合には、あらかじめ主治医に 相談しましょう。 日 常 生 活にお け る 注 意 点 ・ストレスをためないように心がけましょう。 ●締め付けられるような 激しい痛みが起こる ●上記の症状が ・体調がおかしいときは、すぐに主治医に相談しましょう。 15分以上続く ●片方の手足・顔半分のマヒ・ しびれが起こる ●ろれつが回らない、言葉がでない、 他人の言うことが理解できない ●力はあるのに立てない、 ●鼻血がでる ●胃が痛む ●黒い色の便(タール便)が みられる 歩けない、ふらふらする 16 17 参考 骨髄増殖性腫瘍 症状評価フォーム 1 この症状評価フォームは、骨髄増殖性腫瘍*の患者さん自らが症状の重症度を評 価するためのフォームです。それぞれの症状について、症状の程度を最もよく表 す数字1つに を付けてください。 2 該当の症状が 「なし」 の場合を 「0」 とし、考えられる 「最悪の状態」 を 「10」 とします。 全ての症状の程度を記入し、受診時に主治医に見せてください。 * 骨髄増殖性腫瘍とは、骨髄系細胞の著しい増殖を伴い、造血幹細胞レベルでの腫瘍化に よって発症する疾患の総称であり、真性多血症はその一つです。 記入日と次回受診日を記入してください。 1 可能な限り、次回受診日の直前から約1週間前までの間に感じ た症状の程度を評価してください。 症状の程度を最もよく表す数字1つに を付けてください。 2 例)・だるさ(倦怠感、疲労感) :これ以上考えられないだるさを「10」 としてください。数字で表せない場合は、下記の自由記入欄に記 載しておいてください。 ・発熱の場合は37.8℃以上の発熱が毎日あった場合を「10」とし てください。 全ての記載を確認したら点数を合計してください。 3 18 4 10項目の症状以外に頻繁に感じた症状や、その他気づいたこと などは、自由記入欄に記載しておいてください。 19 骨髄増殖性腫瘍 症状評価フォーム 4 参考 3
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