2015年10月 TPP関税交渉、けっこう守られた食料産品 関税削減率、他の 11 カ国平均は98.5%、日本は81%にとどまる 大筋合意した環太平洋経済連携協定 (TPP)交渉でのわが国の関税削減 率は全体で95%、農林水産品に限れ ば81%であることが10月20日、 内閣官房TPP対策本部によって明ら かにされた。 民主党の菅直人首相がTPP交渉参 加について検討すると表明したのは5 年前。やっとTPPの何たるかが判り かけていたその頃でも〝関税削減率9 9%を目指す〟との原則論に、「非現 実的」(当時の農水省幹部)との声が圧倒的だった。 ちょうどアジア太平洋経済協力(APEC)会合で集まっていた9カ国首脳の協議す る席に菅首相も出席したが、交渉参加とは口が裂けても言えるような状況ではなかった。 今回の合意を受けての農林水産品における参加国別の非撤廃率はどのくらいに落ち 着くのだろうか。アメリカ=1.2%、カナダ=5.9%、メキシコ=3.6%、マレーシア= 0.4%、チリ=0.5%、ペルー=4.0%、ベトナム=0.6%で、オーストラリア・シンガポ ール・ニュージーランド・ブルネイとなると 0.0%である。日本を除いた11カ国の平 均は 1.5%で、参考値(国ごとの物品分類が異なるため)とされているが日本は19% である。 数値だけをみれば、日本が不公平に得をしているようにしかみえない。だが、米国、 豪州など食料輸出国にしてみれば、やはり巨大マーケットの日本市場の「開放」を優先 したということだろう。 食料の国内自給率が40%に満たない(2014年度カロリーベースで39%)日 本を追い込むような策はとらなかったということだ。たとえば、オーストラリアと日本 の間ではTPPに先行して経済連携協定(EPA)が今年1月に発効している。すでに 市場は開放されていたわけだが、牛肉は緊急輸入制限措置の発動などはなかった。それ どころか、肉用牛生産者に影響を与えないよう、豪州産牛肉は「上手に消費者に浸透し ている」(農水省筋)というのが実態だ。人口が1億3千万、購買力も旺盛な日本市場 を摩擦なく手に入れることに、オーストラリア側も気を使ってきたということだ。 国内対策はどうなるのだろう。国内農業の現場ではこの5年間〝どうせやるんでし ょう〟とあきらめ半分の反応が多く見られたが、それでも大筋合意の報は〝やはりショ ックであった〟と将来への不安を隠せない。動揺を抑えようと国内対策の検討が始まっ ているが、どの時点での、何に対して講じるのか。 TPP参加の他の11カ国から農産物が流れ込んで来る関税の撤廃は「早くても2 年半後」(農水省筋)と、まだ時間がある。 今後の承認スケジュールをみてみよう。来年1月中に12カ国首脳が集まって調印 したとしても、各国での批准はそれから 2 年程度のうちにと定められている。そもそも、 本当に各国議会が承認するのか、一筋縄ではいかないと見る向きが少なくない。 最低で6カ国以上、国民総生産(GDP)の域内合計で85%がクリアされなければ 「その時点で判断する」というのだから、先はまだ判らない。最後に大筋合意に各国へ 圧力をかけまくった米国にしても連邦議会を通せるのか、難しい状況だ。 このため関税削減による輸入増大、それに伴う経済的損失の補てん策の策定は、もう 少し先になりそうだ。まずは、予算措置を必要としない対策に着手しようということに なる。ウルグアイ・ラウンド合意(1993年)を受け、それまでの食管法が現在の食 糧法に生まれ変わったように、法律・制度面から見直しが始まる。今回のTPP大筋合 意で影響が大きいと懸念される食肉・酪農分野が当面の制度改革の重点分野ということ になりそうだ。 (ニュースソクラ編集部 socra.net)
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