10. 生物の進化 (PDFファイル: 0.5MB)

10. 生物の進化
生物はつねに変わりつづける
10-1. 大規模解析によって変わる系統
「生物の分類」
現在の地球にはたくさんの生物が生きています。公式に記載されている
生物は約 170 万種ですが、未発見、未記載の生物も含めると、その総数は
300 万種とも 2 億種ともいわれています。生物は、類似性に基づいて分類さ
れ、その基本単位が種です。種の基準としては、現在マイアの定義した繁殖
可能性での区分が使われています。ウマとロバが交雑するとラバ※ 1 が生まれ
※ 1 雌のウマと雄のロバの交雑種です。雌の
ますが、ラバには生殖能力がないのでウマとロバは別の種です。しかし、有
ラバとケッティの表現型の違いはゲノムイ
性生殖を行わない生物や、絶滅して化石のみでしか確認できない生物にはこ
ロバと雄のウマの交雑種はケッティです。
ンプリンティングによると考えられていま
す。
の定義は適用できません。現在では、DNA の塩基配列の相違の程度が種の基
準として用いられてるようになっています。生命が誕生したのは約 38 億年
前といわれています。生物は、その誕生以来、様々な進化や適応を経て、生
命を繋いできています。
生物は形質の類似点や相違点に基づいて分類されていますが、分類の最高
階層である「界」の分け方は時代により変遷しています。リンネは運動性の
有無で、動物界と植物界に分けました(二界説)。その後、多細胞であるか、
核膜を持つか、光合成を行うかなどにより、五界説(動物界、菌界、植物界、
原生生物界、原核生物界)が提唱されました。
ゲノム解析が進み、多数の遺伝子の配列情報を用いた分子系統解析によっ
て、現在では、この五界説は崩れ、真核生物は 6 つか 8 つのスーパーグルー
プからなると考えられています。スーパーグループでは五界説で独立してい
※2
た動物と菌類が同じグループ
に属し、光合成を行う生物は、5 つのスーパー
※ 2 「オピストコント」というグループに属し
ます。動物と菌類は、いずれも、遊泳細
胞(動物では精子)が鞭毛を細胞後方で
運動して遊泳するという共通点がありま
す。オピストコントとは、後方で運動する
鞭毛をもつ生物という意味です。
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真正細菌
スピロヘータ
枯草菌
大腸菌
ラン藻類
古細菌
高度好塩
メタン生成 古細菌
古細菌
真核生物
動物
粘菌類
菌類
植物
好熱性
古細菌
繊毛中類
超好熱細菌
べん毛藻類
起原生物
3ドメイン説
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生殖補助医療(ART)関連試薬
GENOSEARCH™ AZF Deletion
Y染 色 体 上 の 無 精 子 症 因 子
(Azoospermia factor:AZF) 領 域
の微小欠失は、男性不妊の原因の一
グループに分散しています。これは、光合成が進化の過程で複数のグループで
つとして知られています。本製品は、
独立に獲得されたことを示します。
不妊外来を訪れた患者 2,015 例を
しかし、絶滅種の DNA の抽出は簡単ではなく、また分子系統学に使われる
遺伝子の変異の速度は一定ではありません。従来の分類の基礎となっている化
石は、今なお重要な情報を提供しています。
現在では、リボソーム RNA の塩基配列の相同性に基づいた 3 ドメイン体系
が主に使用されています。メタン菌の研究をしていたウーズは、全ての生物に
共通するリボソーム RNA の塩基配列を比較しているとき、メタン菌、超高熱
菌などの極限環境で生息できる細菌のほうが、一般的な細菌より真核生物に近
分析し、日本人特異的な多型を考慮
して開発された Y 染色体 AZF 領域
の微小欠失検出キットです。xMAP®
(Luminex®)テクノロジーを用いた
検出系により、迅速、客観的かつ高
精度な結果が得られます。
AMH Gen II ELISA
女性において、抗ミュラー管ホル
いことを発見し、これらの生物群を“古細菌”と名付けました。生命の起原では、
モ
極限環境で生息できる細菌がまず出現し、そこから、一般的な細菌である“真
AMH)、またはミュラー管抑制因子
正細菌”と“真核生物”に分かれていったと考えられます。古細菌、真正細菌、
(Müllerian Inhibiting Substance:
真核生物の分類が 3 ドメイン体系です。
10-2. ヒトに男女がある理由
「有性生殖と無性生殖」
からだがほぼ同じ大きさに分裂したり、からだの一部が新たに独立すること
ン(Anti-Müllerian Hormone:
MIS) は、卵巣の顆粒膜細胞で産生
されており、原始卵胞が発育し始め
ると AMH/MIS を分泌すると言われ
ています。発育卵胞、前胞状卵胞か
ら分泌されているので、発育卵胞の
数との相関が見られ、卵巣予備能の
推測に役立つと考えられます。
によって増殖する生殖を「無性生殖」といいます。単細胞生物で見られる「分裂」
や「出芽」、サツマイモなどの根の栄養器官から新しい個体をつくる「栄養生殖」
Inhibin B Gen II ELISA
がこれにあたります。一方、卵や精子などの配偶子の合体(受精もしくは接合)
インヒビン B は、男性では睾丸の
によって新しい個体を作ることを「有性生殖」といいます。無性生殖では、新
顆粒膜細胞で産生されます。卵胞
しい個体の遺伝的形質は親と全く同じです(クローン)。有性生殖では、配偶
刺激ホルモン(Folicle-stimulating
子が組み合わせの結果で親とは異なる様々な個体が生じます。
hormone: FSH)の産生のネガティ
無性生殖は受精にかかる時間がないため、有性生殖よりも早く増殖できま
す。しかし、有性生殖では遺伝的に多様な個体が生じるため、環境条件が変
化した場合に、変化した環境条件に適応できる個体が生き残ることによって、
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セルトリ細胞で、女性では卵巣の
ブフィードバックを介して、配偶子
形成の制御の役割を担っています。
インヒビン B の測定は男性不妊症
や女性の卵巣機能、小児科における
種が存続できる可能性が高くなります。また、有性生殖には片方の親の遺伝子
早熟・遅延思春期の評価などの研究
に有害な突然変異が生じても、もう片方の親の遺伝子が正常であれば補うこと
に利用されているとの報告がありま
が出来るというメリットもあります。
す。
10-3. ミトコンドリアが教えてくれる人類共通の祖先
「細胞小器官のゲノム」
真核細胞の細胞小器官の中でミトコンドリアと葉緑体は独自のゲノム
DNA を持ち、増殖します。これらの細胞小器官の起原をめぐっては、細
胞内で独自に形成されて進化したという説と、他の生物が細胞に寄生し
て細胞小器官となったとする細胞内共生説がありました。ミトコンドリ
アと葉緑体の DNA 配列を解析したところ、ミトコンドリアのゲノムと
高い相同性をもつものは、動物細胞内に寄生するリケッチアのゲノムで、
葉緑体ゲノムに高い相同性をもつものは光合成細菌のシノバクテリアの
ゲノムでした。これらの結果は、細胞内共生説を支持します。ミトコン
ドリアや葉緑体の DNA は、染色体外ゲノムと呼ばれ、細胞の核内 DNA
を染色体ゲノムといいます。
また、ミトコンドリアのハプロタイプは人類のルーツの研究に非常に
役立っています。同じ遺伝子を比較すると、共通の祖先から分かれてか
らの時間がたつほど、変化が大きくなります。世界中の人の同じ遺伝子
を比較することによって、変化の一番少ない遺伝子を持った人が人類の
祖先に近いと考えらます。ミトコンドリア DNA は環状で全塩基数が少
ないこと、変化速度が早いこと、また変化速度がわかっていることで、
比較するのに適しています。さまざまな人のミトコンドリア DNA を比
較したところ、ヨーロッパやアジアの人々は約 20 万年前にアフリカ系
の人から分かれて、それぞれ独自に進化したという結論になっています。
ミトコンドリアのハプロタイプから人類のルーツを探る情報については
http://www.mitomap.org/bin/view.pl/MITOMAP/MitomapFigures で 調
べることができます。
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ミトコンドリア DNA 多型検査
MBL ネ ッ ト ワ ー ク の G&G サ イ エ
ンス株式会社の 『ジェノマーカー』
は、肥満、メタボリックシンドロー
ム、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病、
心筋梗塞、脳梗塞、脳出血、くも膜
下出血の 9 項目の生活習慣病リスク
を評価する検査と、ミトコンドリア
DNAの遺伝子多型を検出する検査
があります。ミトコンドリア遺伝子
は母親から受け継がれますが、その
タイプが体質に関係しています。ミ
トコンドリア遺伝子の多型の組み合
わせを「ハプログループ」と呼びま
す。日本人で検出される主要なミト
コンドリア遺伝子の型を以下に示し
ます。 D:日本人に最も多く長寿に
関連するハプログループ(38%)、
M7:東アジア及び中央アジアに多
く分布するハプログループ(19%)、
B:シベリアを除くアジア全域に分
布するハプログループ(12%)、な
どです。さらにミトコンドリアの
ハプログループは、特定の疾患と
関係があることが研究されていま
す。例えば、F:糖尿病のリスクが
(特に女性において)高いグループ、
N9a:糖尿病のリスクが(特に女性
において)低いグループ、N9b:心
筋梗塞のリスクが(特に男性におい
て)低いグループなどです。
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