2015 年 11 月 13 日 セントラル短資株式会社 総合企画部 松尾 徹 マーケット・アイ 1.景況判断 ○ 内閣府が10月14日に公表した10月の月例経済報告では、景気の基調判断について、「緩やか な回復基調が続いている」との表現を維持したが、9月に「このところ一部に鈍い動きがみ られる」とした前文部分を、今回は「このところ一部に弱さもみられる」とさらに弱めの文 言に変更した。個別項目では、生産を「このところ横ばいとなっている」から「このところ 弱含んでいる」に下方修正した。景気の先行きの判断については、「緩やかに回復していく」 から「緩やかな回復に向かう」との表現に変更した。 ○ 総務省が10月30日に発表した9月の全国コアCPI(除く生鮮食品)は、前年同月比で△0.1% (8月同△0.1%)と引き続きマイナスとなった。教養娯楽用耐久財、生鮮食品を除く食料など の上昇幅が拡大したものの、電気代、ガソリン、都市ガス代などの下落幅が拡大したため、 コアCPIのマイナスが続いた。物価の基調をみるうえで参考となる食料(除く酒類)とエネ ルギーを除くいわゆる米国型のコアCPIは前年同月比+0.9%(8月同+0.8%)と伸びを引き 続き高めた。物価の先行きについて、市場では、今後も原油価格の大幅上昇が見込み難いこ とや、円安の影響が一巡しつつある中で企業の値上げの動きに一服感が出始めているとみら れていることもあって、コアの消費者物価の伸びも暫くはマイナスないしゼロ近傍での推移 に止まるとみられている。もっとも、内需の緩やかな持ち直しや労働需給の逼迫による賃上 げの継続等が物価の押上げに寄与する可能性があるとの見方もある。このため、原油安の影 響が一巡するにつれて、コアの消費者物価の伸びが高まる可能性も指摘されている。そうし た中、食料・エネルギーを除く消費者物価(米国型コア)については緩やかなプラスでの推 移が続くとみられている。 2.金融政策 ○ 日銀は、10月30日に開催した金融政策決定会合で、金融市場調節方針の現状維持と、資産の 買入れを現状の方針に沿って継続することを賛成多数(賛成8、反対1)で決めた。なお、 木内委員より、マネタリーベースおよび長期国債保有残高が、年間約45兆円に相当するペー スで増加するよう金融市場調節および資産買入れを行うなどの議案が提出されたが、反対多 数で否決された。 ○ また、同日発表された「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」では、景気見通しの判断 を維持した一方、物価については目標達成時期を先延ばしした。日本経済の展望については、 「2015年度から2016年度にかけて潜在成長率を上回る成長を続ける」とした。また、 「 2017 1 年度にかけては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動の影響を受けるとともに、 景気の循環的な動きを映じて、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しつつも、プラス成長を 維持する」と予想している。文言はいずれも前回展望レポートと同じとなった。実質GDPの 政策委員の中心見通し、については、2015年度は+1.2%(7月時点+1.7%) 、2016年度は+ 1.4%(7月時点+1.5%)とそれぞれ引き下げられ、2017年度は+0.3%(7月時点+0.2%) となった。一方、消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)に ついては、 「2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水 準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度後半頃になる」と、物価目標の達 成時期が前回の展望レポートで「2016年度前半頃になる」と後ずれさせたのをさらに先延ば しした。消費者物価指数(除く生鮮食品)の政策委員の中心見通しについては、2015年度は+ 0.1%(7月時点+0.7%)、2016年度は+1.4%(7月時点+1.9%)とそれぞれ引き下げられ た。なお、今回の展望レポートについて、佐藤委員および木内委員から、消費者物価が見通 し期間中には2%程度に達しないことを前提とする記述の案が提出されたが、否決された。 3.短期金利の動向 (1)インターバンク市場 ○ コール市場では、0.07%台後半の出合いが中心となっている。この間、11 月に入ってから は試し取りが散見されており、 大規模な試し取りが行われた 4 日には 0.085%まで上昇した。 (2)オープン市場 ○ レポ市場では、10月末絡みのGCレポレートが低下し、11月に入ってからも、レート水準が10 月に比べて若干低下している。 ○ 短国市場では、3M物が若干のマイナスで推移に止まっている一方、6M・1Y物は深いマイナス 圏での推移となっている。特に6M物は短国買入オペの関係もあって△0.15%の出合いもみら れた。 ○ CP市場では、10月末の残高は14兆8,143億円と前年の15兆1,552億円を下回った。発行残高が 伸び悩む中、レートは横ばいでの推移が続いている。 4.今後の見通し等 ○ ユーロ圏経済をみると、引き続き底堅い伸びを示しているが、ユーロ圏経済の先行きについ て、市場では、地域によって区々であるが、全体としてみれば、金融緩和策等が景気の下支 え要因として働いており、そうした中、個人消費が、物価上昇圧力の弱さもあって、底堅く 推移すると見込まれていることなどから、緩やかな回復が続くと予想されている。ただ、新 興国での成長の減速が見込まれている中、輸出に弱さがみられているなど、下振れリスクが 高まりつつあるともみられている。主要国別にみると、ドイツでは、良好な雇用・所得環境 を背景に個人消費が底堅さを維持する中、緩やかな回復基調が続くと見込まれている。一方、 2 フランスやイタリアでは、雇用・所得環境が依然として厳しく、回復感の乏しい状況が続い ている。こうした中、下振れリスクとしては、新興国経済の景気減速の長期化、フォルクス ワーゲン問題の景気への波及度合い等については留意する必要があり、ドイツ経済などを取 り巻く環境の悪化が心配されている。なお、難民問題については、先行きの不透明感を増す 混乱要因とみられているが、今のところ、景気の足を引っ張るような悪影響が出ているとの 見方は少ない。 ○ ユーロ圏の 10 月の消費者物価指数(速報値)は、前年比 0.0%(9 月同△0.1%)とマイナ スとはならなかったが、引き続き物価の伸びが低迷した状態が続いている。未加工食品(同 +3.0%)やサービス価格(同+1.3%)は上昇したものの、エネルギー価格(同△8.7%) の下落が続いている。エネルギー、食品、酒・タバコを除いたコア指数は前年比+1.0%(9 月同+0.9%)と前月をやや上回ったが、引き続き低水準で推移している。ユーロ圏の物価 の先行きについて、市場では、原油価格の再下落の影響のほか、景気の持ち直しが緩やかに 止まっていることや、ユーロ安によるこれまでの物価押上げ効果も弱まっていることなどか ら、暫くマイナスもみられるなどゼロ近傍での推移が続くとの見方が多い。その後、原油価 格の下落などの影響が一巡するにつれて、緩やかにプラス幅を取り戻していくとの予想もみ られるが、ECB の物価目標を大きく下回る水準での推移が続くと指摘されている。 ○ 欧州中央銀行(ECB)は10月22日に開催した定例理事会で、主要政策金利であるリファイナン ス金利を0.05%に据え置き、中銀預金金利(△0.20%)と限界貸出金利(0.30%)もそれぞ れ維持した。ドラギ総裁は理事会後の記者会見での声明文で、「資産買入は順調に進んでお り、企業や家計にプラスの効果をもたらし続けている」と評価した。そのうえで、「新興国 の景気動向や金融・商品市場の影響がユーロ圏の成長および物価の下振れリスクとなってい る」との懸念も示した。そのため、「今年12月の理事会で金融調節の度合いについて再検証 する」との意向を表明した。また、「理事会は責務の範囲内で利用可能な手段をすべて活用 し、とりわけ規模、構成、期間の調整において、資産買入プログラムを柔軟に運用する」方 針であり、「月額600億ユーロの資産買入を2016年9月まで完全実施し、それ以降も、物価目 標である2%弱に整合する水準までの持続的な調整がみられるまでは、必要であれば延長す る」と前回表明した内容を繰り返し述べた。さらに、記者との質疑応答の中で、数名のメン バーが今回の理事会での追加緩和を主張したこと、また、下限の政策金利である預金ファシ リティ金利(現在△0.20%)について今回の会合で引き下げの可能性を議論したこと、など を明らかにした。 ○ ECBの金融政策の先行きについて、市場では、現在の量的緩和を少なくとも予定されている 2016年9月末まで実施するとみられているほか、それまでに追加緩和もあり得るとの見方が 引き続き根強い。また、インフレ率が中期的な物価目標に達するのに時間を要するとみられ るため、2016年9月以降も量的緩和の継続を余儀なくされるとの予想もみられている。この 間の追加緩和観測については、ユーロ圏が緩やかな景気回復を続けているものの、新興国経 3 済の減速が下振れリスクとして強まっていること、また、原油価格の再下落のほか資源価格 の下落傾向もみられていることなどから、デフレ懸念が再燃しかねないとの声が出ており、 追加緩和により景気の失速とデフレを回避する必要があるのではないかと指摘されている。 こうした見方は、10月22日の理事会でドラギ総裁が「今年12月の理事会で金融調節の度合い について再検証する」と表明したことで一段と強まっており、12月3日の理事会への注目度 が高まっている。仮に、追加緩和に踏み切るとした場合の手段としては、市場では、資産買 入れ額の増額、社債を含めた資産買入れ対象の拡大、資産買入れ期間の延長、預金ファシリ ティ金利の引き下げ等が挙げられている。 ○ 英国経済をみると、2015年7~9月期の実質GDP(速報値)は前期比+0.5%と11四半期連続で 前期比プラス成長となったが、前期(同+0.7%)の伸びから鈍化した。サービス業では拡 大が続いているものの、製造業の生産活動が縮小したのに加え、建設業がマイナスに転じて 2012年以降で最大の落ち込みとなった。世界経済の減速が英国経済にも影響を与えている兆 候が出てきているのではないかと捉える向きもみられている。英国経済の先行きについて、 市場では、世界経済の減速等から2014年中の高めの成長からは減速しつつあるが、引き続き 堅調な回復が続くとの見通しが多い。個人消費が、良好な雇用・所得環境などを背景に、引 き続き堅調に推移するとみられている。また、住宅投資も持ち直しが続いている。さらに、 家計部門の需要拡大が引き続き見込まれている中、設備投資にも波及していくことが期待さ れている。そうした中、中国経済や新興国経済の失速懸念などのほか、2017年末までに実施 が予定されているEU離脱の是非を問う国民投票等が、景気の潜在的な下振れリスク要因とし て留意する必要があるとの指摘もみられている。 ○ 英国の9月の消費者物価指数は前年比△0.1%(8月同0.0%)と今年4月(同△0.1%)以来再 びマイナスに転じた。この要因として、燃料価格や衣料品価格が下落したことなどが挙げら れている。また、エネルギー・食品・酒類・たばこを除いたコア物価は前年比+1.0%(8 月+1.0%)と低めの水準に止まっている。英国の物価の先行きについて、市場では、原油 価格の再下落などの影響から低水準で推移するとみられている。ただ、良好な雇用・所得環 境による需要増や賃金の上昇等が物価の押し上げに作用して、プラス幅が徐々に拡大してい く可能性も指摘されている。 ○ BOEは11月5日に金融政策委員会の結果を発表し、政策金利を0.5%に据え置き、量的緩和の 規模(3,750億ポンド)についても現状維持を決定した。委員会は8対1で政策金利の据え置 きを決定したが、マカファーティー委員が0.75%への利上げを主張した。また、今回、政策 決定と同時に公表されたインフレーションレポートでは、主にエネルギー、食品などの輸入 品の価格低下などによりCPIの上昇率予想の中央値が引き下げられた(2015年10~12月期: 前回5月時点0.3%→今回8月時点0.1%、2016年10~12月期:同1.5%→1.2%) 。BOEの金融政 策の先行きについて、市場では、景気は堅調であるものの、原油価格のこれまでの下落やポ ンド高などもあって、物価の伸びが低めに止まっており、BOEのインフレ見通しも下方修正 4 されていることなどから、暫くは現行の緩和的な措置を維持するとの見方が多い。ただ、労 働需給の逼迫を背景とした賃金の上昇圧力や、住宅市場での価格上昇による過熱リスク等の 高まりが先行き推測できることなどを背景に、2016年になれば利上げ開始の可能性もあると の指摘も一部にみられている。 ○ 米国経済をみると、7~9月期の実質GDP(速報値)が前期比年率+1.5%と在庫の減少を主因 に前期(同+3.9%)の大幅な伸びを下回った。内容をみると、個人消費が同+3.2%(前期 同+3.6%)と引き続き高めの伸びとなったものの、在庫が製造業、卸売業、小売業の各段 階で減少し、GDPに対する在庫の寄与度は△1.4%と、2012年10~12月期以来の大きなマイナ スとなった。その他の項目をみると、設備投資が同+2.1%(前期同+4.1%)、住宅投資が 同+6.1%(前期同+9.3%)と前期の高めの伸びから鈍化した。また、輸出は同+1.9%(前 期同+5.1%)と、ドル高や海外経済の減速などの影響から伸び率が低下した。内需は同+ 2.9%と前期(同+3.7%)の伸びを下回ったものの、引き続き高めの伸びを維持しており、 個人消費を中心とした内需の堅調な成長が続いていると捉えられている。 ○ 米国の10月雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比+27.1万人(前月同+13.7万人)と 再び20万人を上回る大幅増となった。失業率は5.0%と2008年4月(+5.0%)以来の低水準 となった。労働参加率は62.4%と前月と同水準となり、1977年以降で最低水準となっている。 時間当たり賃金は前年比+2.5%(前月同+2.3%)と2009年7月(同+2.6%)以来の高い伸 びとなった。 ○ 米国経済の先行きについて、市場では、このところ減速感が窺われるものの、個人消費を中 心とした拡大基調が続くとの見通しがなお多い。個人消費については、足許の小売売上高の 減速などには留意する必要があるものの、基調としては、ガソリン価格が低水準で推移して いるうえ、労働需給の引き締まりが続いているなど雇用・所得環境の改善等を背景に、景気 の牽引役としての堅調な伸びが続くとみられている。住宅投資面では、雇用情勢の改善や低 金利状況の持続もあって、基調としての回復が見込まれている。一方、設備投資や輸出につ いては、海外経済の減速や、これまでの原油安・ドル高の影響などによる伸び悩みや下押し 懸念がみられている。最近の世界経済の減速などが米国景気の大幅な減速をもたらすまでに 至る可能性は今のところ低いとみられているが、先行きの不透明感等に伴う消費者マインド の後退を通じて個人消費が鈍化する下振れリスクもあることが指摘されている。今後、中国 経済の失速などにより海外経済が一段と減速する懸念が強まり、それに伴って金融・資本市 場がさらに不安定化することのリスクとその影響に留意する必要があるとみられている。 ○ 米国の物価動向をみると、9月のコア消費者物価指数(除く食品・エネルギー)は前月比+ 0.2%(8月同+0.1%)、前年比では+1.9%(8月同+1.8%)と前月をやや上回った。総合 では前月比で△0.2%(8月同△0.1%)とガソリン価格の低下等の影響から前月に続きマイ ナスとなった。前年比では0.0%(8月同+0.2%)となった。また、9月の個人消費支出価格 5 指数は前月比△+0.1%(8月同0.0%)と今年1月(△0.5%)以来のマイナスとなった。前 年比でも+0.2%(8月同+0.3%)の上昇に止まった。また、コア指数では前月比+0.1%(8 月同+0.1%)と引き続き同水準での低い伸びに止まり、前年比でも+1.3%(8月同+1.3%) と、今年に入り+1.3%程度での低めの伸びが続いている。米国の物価の先行きについて、 市場では、エネルギー価格の再下落に伴う下押し圧力が続くこと、賃金の上昇も緩やかなも のに止まっていることなどもあって、今後も大きな上昇を見込み難い状況が持続するとみら れている。もっとも、住宅やサービス価格などで物価上昇要因もみられていること、また、 今後とも内需が堅調に推移すると予想されていること、さらに、ドル高や一段の原油安に一 服感もみられていることなどから、物価の底堅さは維持されるとみられている。 ○ 10月27、28日に開催されたFOMCでは、FF金利の誘導目標を据え置き、保有する資産規模の維 持を決定した。決定は、前回に続き、賛成が9人、反対が1人であった。反対者はリッチモン ド連銀のラッカー総裁で、0.25%ポイントの利上げを主張した。委員会後に発表した声明文 をみると、情勢判断面で前回に比べ評価をやや引き上げている。景気については、「家計支 出と企業の設備投資は、ここ数カ月、着実なペースで増加した」と、9月の声明で示した「緩 やかに増加した」との判断を引き上げた。また、雇用面では、「就業者数の増加ペースは鈍 化した」が、それでも、「労働市場の指標は、総じて労働資源の活用不足が今年初め以降に 減少したことを示している」との判断を維持した。さらに、前回の声明で懸念事項として表 明された文言(「最近の世界的な経済・金融情勢は経済活動をいくらか抑制する可能性があ り、短期的にインフレに一層の下向き圧力をかける可能性がある」 )が削除され、 「世界経済 と金融市場の動向を注視している」との表明に止めた。そうした情勢判断の下、「目標誘導 レンジを次回(12月)の会合で引き上げることが適切かどうかを決めるに当たって、委員会 は最大雇用とインフレ率2%の目標に向けた進展について実績と予測の両方を評価する」と した。この中で、前回までは、「目標誘導レンジをどのくらいの期間維持するかを決めるに 当たって」としていた表現を今回はひとまず12月に限定して、これまでと同様に年内の利上 げ開始の可能性を排除しないと受け止められるメッセージを発信したとみられる。そのうえ で、 「委員会は、労働市場がさらにいくらか改善し、インフレ率が中期的に2%の目標に戻っ ていくと合理的に確信した場合は、FF金利の目標レンジを引き上げることが適切になると見 込んでいる」と、これまでの経済指標次第による「合理的な確信」に基づく利上げの決定姿 勢を堅持していることを繰り返した。 ○ 米国の金融政策の先行きについて、市場では、10月のFOMC声明文の内容で、利上げの判断に ついて、「目標誘導レンジを次回(12月)の会合で引き上げることが適切かどうかを決める に当たって、委員会は最大雇用とインフレ率2%の目標に向けた進展について実績と予測の 両方を評価する」とし、前段の表現が前回までの「目標誘導レンジをどのくらいの期間維持 するかを決めるに当たって」から変わったことなどから、12月の利上げ開始観測が再び高ま っている。また、イエレン議長が11月4日の米下院金融サービス委員会で行った証言も、デ ータ次第で12月に利上げの可能性があることを示唆したと受け止められている。こうした中、 6 10月の雇用統計が力強い内容であったことでさらに利上げの確度が高まったとの見方が一 段と増えている。今後、12月にかけて、雇用情勢に不安がなく、労働需給の引き締まりに伴 う賃金の伸びが続くこと、原油安・ドル高による物価の下押し圧力が緩和していくこと、さ らに、海外経済の減速等による米国経済への悪影響が限定的であることや、金融市場が安定 していること等の条件が確認されていけば、利上げの可能性がなお一層高まっていくとみら れている。ただ、景気面で非製造業は堅調に推移している一方、製造業の生産や業況感は後 退していること、物価面では上昇圧力が引き続き弱いことなどの利上げにネガティブな材料 もあり、雇用統計だけが利上げの決定要因ではないとの慎重な見方も残されている。 ○ 中国経済をみると、10 月 19 日に発表された 7~9 月期の実質 GDP が前年同期比+6.9%(4 ~6 月期同+7.0%、1~3 月期同+7.0%)とリーマン・ショックの影響を受けた 2009 年 1 ~3 月期(同+6.2%)以来の 7%割となった。製造業での生産や輸出の停滞や不動産市場で の調整等が伸び率の低下に繋がっていると指摘されているが、個人消費の底堅い伸びやこれ までの財政・金融政策による刺激等が成長をある程度下支えしたとみられている。市場では、 今後も、景気の下振れリスクが引き続き大きいとみられている。こうした中、かつてのよう な大規模な景気刺激策の発動は想定できないが、的を絞ったある程度の財政・金融両面によ る景気下支え策がさらにどの程度打ち出されるか、持続的な安定成長に向けたソフトランデ ィングができるかが注目されている。 ○ こうした中、中国人民銀行は、10月24日から、政策金利である貸出基準金利を0.25%ポイン ト引き下げて4.35%(期間1年)、預金基準金利を0.25%ポイント引き下げて1.50%(同) とした。最近の利下げとしては昨年11月、今年3月、5月、6月、8月に続き6回目となる。ま た、預金準備率についても0.50%ポイントの引き下げを決定し、10月24日から実施した(大 手行の場合、現行の18.0%から17.5%となる)。さらに、今回は同時に、預金金利の上限撤 廃も発表し、金利の自由化を進展させた。 ○ 10月26日~29日の共産党中央委員会第5回全体会議(5中全会)では、第13次5か年計画が採 択され、成長数値目標は示されなかったが、2020年の国内総生産と国民一人当たりの収入を 2010年対比で倍増するとの目標に向けて中高速度の経済成長を維持していくことが盛り込 まれた。 ○ 日本経済は、7~9月期もマイナス成長となる可能性を指摘する見方もあるが、先行きについ て、市場では、企業収益や雇用情勢などが好調であることから景気の腰折れや深刻な調整は 回避されるのではないかとみられている。ただ、景気の足踏み状態が続いている中、不透明 感が強まっており、その後持ち直すにしても、中国等の景気減速による影響、株価の下落や 先行きの不透明感等によるマインド低下、在庫調整に伴う下振れ圧力等が重石となり、持ち 直しのペースは緩やかなものに止まるともみられている。個別項目をみると、個人消費は、 良好な雇用・所得環境のもと、原油価格の低位安定に伴う物価の低水準での推移が実質所得 7 のプラスに作用していることもあって、底堅く推移するとみられている。また、住宅投資で は、住宅需要の本格回復は期待できないが、住宅着工件数の持ち直しがみられつつあり、小 幅の増加が続くと予想されている。さらに、設備投資については、堅調な企業収益や低金利 が続くなど良好な投資環境が維持されていること、企業の設備余剰感の解消や設備不足感の 強まりがみられていること、人手不足が顕在化しつつある中で機械化や省力化に向けた投資 も必要となってきているとみられていること等を背景に、9月短観でみられた前向きな計画 が実行に移されると期待されている。この間、輸出面では、中国をはじめとする新興国経済 の成長鈍化等により大きな伸びは期待し難いものの、為替が引き続き円安水準で推移してい ることや米国経済の堅調な回復が続いていることなどから、小幅ながら増加が見込まれてい る。 ただし、下振れリスクも多くみられており、景気の腰折れが顕現化するリスクなど予断を許 さない状況が続くともみられている。国内に起因するリスクとして、①生活防衛意識や先行 きの不透明感等の強まりに伴って消費者マインドが一段と冷え込むこと、②国内の生産活動 の停滞持続が、意図せざる在庫の積み上がりに繋がり、それに伴う設備稼働率の低下から設 備投資意欲が減退しかねないこと、などが心配されている。また、海外要因としては、①中 国経済の失速や新興国経済の混乱とそれに伴う世界的な景気のさらなる減速、②そうした景 気情勢の顕現化や地政学的リスク等に伴う世界的な株安、金融市場の混乱等、留意すべき懸 念材料が指摘されている。 ○ 黒田日銀総裁が行った10月30日の決定会合後の定例記者会見では、景気や物価に対する基調 判断や考え方を引き続き維持していることが強調され、こうした下で追加緩和は現状では必 要ないが、仮に物価の基調に変化が生じ場合には躊躇なく調整するというこれまでの考え方 を繰り返した。景気については、「輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるもの の、緩やかな回復を続けている」との現状判断を維持した。また、先行きについて、「緩や かな増加に転じる」との見通しを述べた。物価面では、 「2%の達成時期が『2016年度前半頃』 から『2016年度後半頃』に後ずれした」が、後ずれの理由は「主としてエネルギー価格の下 振れによるもの」であり、「物価の基調は着実に改善しており、先行きについても、原油価 格下落の影響が剥落するに伴って、2%を実現していく」とした。この間、「『2年程度』と いう表現は、物価安定目標の実現に関するこのコミットメントにおいて、『できるだけ早期 に』という際に念頭に置いている期間を示したもの」と説明した。また、「予想物価上昇率 はさほど変化なく、長期的にみれば予想物価上昇率は上昇するという傾向は維持されてい る」と強調した。そのため、「『量的・質的金融緩和』は所期の効果を発揮している、従っ て、今の政策を維持していくことによって、物価安定の目標が達成できる」状況であり、今 回の決定会合の中で、 「具体的に追加緩和の提案はなかった」と断言した。 ○ 日銀の金融政策の先行きについて、市場では、2%の物価目標の達成が先送りされたが、そ れでもその達成には依然として不透明感が強いとみられていることや、景気の減速懸念が強 まっていることなどから、各会合毎に追加緩和憶測が出る状況が続くとみられている。中に 8 は、補正予算で政府の景気対策が実施されるとの期待がある中、それに併せて追加緩和に踏 み切る可能性があるとの指摘もみられている。また、来年の春闘における賃金の動向を見極 めることや、来年4 月の展望レポートの時期を捉えて、2016年4月以降の追加緩和を展望す る向きもみられている。ただ、現状、日銀は、景気の総括判断として「輸出・生産面に新興 国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている」との評価を維持してい ること、「物価の基調は着実に高まってきている」との判断を強調していることなどから、 当面は現状維持の慎重な姿勢を続けるとの予想も多くみられている。また、追加緩和に踏み 切れない理由として、緩和の手段が限られてきていることから温存しておきたいのではない かといった憶測もみられている。さらに、物価目標の達成時期を後ずれさせたにも拘らず、 追加緩和がなかったことから、追加緩和にはもう動かない、ないしは、物価目標値を引き下 げるなど柔軟な運営に切り替えていくのではないかといった憶測も一部にみられている。 以 上 総合企画部 企画調査グループ 〒103-0021 東京都中央区日本橋本石町 3-3-14 Tel:03-3246-2651 Fax:03-3242-5012 当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、取引の勧誘を目的としたものではありません。こ こに記載されているデータ、意見などはセントラル短資が信頼に足り、且つ正確であると判断した情報に基づ き作成されたものではありますが、当社はその正確性、確実性を保証するものではありません。ここに記載さ れた内容が事前連絡無しに変更されることもあります。当資料に記載された条件などはあくまでも仮定的なも のであり、かかる取引に関するリスクを全て特定・示唆するものではありません。なお、本レポートに記述さ れた意見に関する部分は執筆者の個人的見解によるもので、当社の見解を示すものではありません。 金融商品のお取引には価格変動によるリスクがあります。金融商品のお取引には手数料等をご負担頂くものが あります。金融商品取引法に基づきお渡しする書面や目論見書をよくお読み下さい。 セントラル短資株式会社 登録金融機関 関東財務局長(登金)第 526 号 日本証券業協会加入 9
© Copyright 2024 ExpyDoc