Socinnov Vol 1 e8 2015.8.31 Series: 地域包括ケアの課題と未来 (8) 財政難の中での寄付の役割: 共感と資金を集める 鵜尾雅隆 特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会代表理事 地域の問題を解決するには、一定量のお金 とどうしても寄付行動を起こしません。自分 が必要です。しかし財政難の中、行政の提供 の消費満足だけを考えると、寄付行動は合理 する資金だけに依存すると、どうしても社会 的ではないので、大きく心を揺さぶられるこ 「この団体は信用で 課題の革新的な解決策が生まれにくいのです。 とが必要です。その次に、 これは世界共通の課題です。リスクのある新 きる」 「寄付したお金はちゃんと使われる」と しいチャレンジだと、企業の投資や行政の支 左脳的な、論理的な部分で納得すれば、寄付 援が出にくい現実があります。だからこそ、 しやすくなります。右脳から入って、左脳に 民間非営利法人による革新的な課題解決の試 落とすということなのです。 みが求められるのです。そしてその活動を応 ファンドレイジングの可能性は、まだあり 援する民間の「共感に基づく」資金が必要で ます。行政の補助金は縛りが多く、使える範 す。 囲も限定的で広がりを持ちません。しかし、 その資金をNPOなどが集める手段が「ファン ファンドレイジングは、共感が生まれる過程 ドレイジング」です。これは、単なる資金集 で新しい人が巻き込まれ、解決策が生まれ、 めではなく「共感に基づく組織マネジメント そこからまた新しい人や組織、サービスのつ のスキル」だと考えてください。共感を軸に、 ながりが生まれと、とても有機的でクリエイ 組織も事業も財源もマネジメントしていくこ ティブです。それ自体が、社会問題を解決に とで、採算の取りにくい事業を最大効率化さ 導くプロセスでもあるというわけです。 せることができます。そしてより多くの人た 日本には寄付文化がないと言う人がいます。 ちに社会課題の解決に参加していただくため 2005年の内閣府税制調査会資料によれば、 の方法でもあります。 2002年の個人の寄付は日本が2189億円、アメ ファンドレイジングの第1歩として大事な リカが22兆9920億円でした。確かに日本の寄 ことは、自分たちのことをどう伝えるかです。 付額はアメリカに比べれば少なく、特に個人 まず、社会の人たちに対して、支援を必要と の寄付額が非常に少ないです。ただ、私が思 する人たちの抱える問題を説明し、共感して うに、日本には寄付文化がないのではなくて もらいます。そして共感してもらった人たち 成功体験と習慣がないだけです。日本では「社 に対して、自分たちの団体の持っている解決 会の一員として何か社会のために役立ちた 策を説明して、納得してもらうことが大切で い」と思っている人が66.7%もいます(2012 す。この2つを繰り返すことがまず基本です。 年度内閣府社会意識に関する世論調査)。自分 単に「支援をお願いする」ということではあ が亡くなる時に資産を社会に役立つことで残 りません。 す遺産寄付に24.1%もの人が関心を持ってい 人間は、例えば「この子かわいそうだな」 ます。その NPOがあることで例えば地域の高 とか「素敵な夢だな」と、右脳で共感しない 齢者医療や介護サービスが良くなるなど、日 www.socinnov.org/journal/vol1/e8 1/2 本に合う形での寄付の成功体験を得られるよ 鵜尾雅隆: 財政難の中での寄付の役割: 共感と資金を集める. うになれば、確実に意識は変わります。 Socinnov, 1, e8, 2015. © 医療法人鉄蕉会, 社会福祉法人太陽会, Socinnov. www.socinnov.org/journal/vol1/e8 2/2
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