近年の医療経済研究論文数の推移

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2015年3月号 No.166
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政策研のページ
近年の医療経済研究論文数の推移
社会の高齢化や医薬品を含む高度な医療技術の導入もあり、わが国の医療費は毎年約1兆円のペースで増え続けて
います。医療費の増加は、導入から半世紀を超える国民皆保険制度の維持をも脅かすほどになってきており、限られ
た予算の中でより費用対効果に優れる医療が求められるようになってきています。また、こうした医療の必要性は、わ
が国に限ったことではなく、海外の国々でも同様な状況にあります。2016年2月、革新的な医薬品の保険適用の評価
を行う際に費用対効果の導入を検討することが、中央社会保険医療協議会(中医協)から付帯意見として報告されまし
た。これを機に、わが国において費用対効果をはじめとする医療経済研究が、より注目されるようになってきています。
そこで今回、最近の医療経済研究の動向を論文数の観点から調査しました。
調査対象のデータ
今回の調査では、Web of Science(Thomson Reuters)を使用しました[1]。また、調査期間は1999年〜2013年までの15
年間としました。なお、今回の調査では原著論文のみを対象とし、総説や学会発表記録については、集計から除外しました。
1999 年から15年間の論文数推移
はじめに、1999年から2013年までの論文数の推移を図1に示します。15年間に発表された医療経済研究の論文数は
60,100 報であり、2013年における論文数(6,279報)は、1999 年(2,766報)
と比べると2倍を超える数にまで増加していました。
図1 医療経済研究論文数の推移
7000
6000
5000
[論文数]
4000
3000
2000
1000
0
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013[年]
出所 : Web of Science
(Thomson Reuters)
を基に作成
[1]検索は「“Cost” and “Benefit”」、
「”Cost” and “Effectiveness”」、
「”Cost” and “Minimization”」、
「”Cost” and “Utility”」、
「”Cost” and “Medical”」、
「”Cost” and
“Drug”」、
「”Health” and “Economics”」、
「“Healthcare” and “Economics”」、
「Pharmacoeconomics」、
「QALY」の各キーワードを“or”で結び付けて実施しまし
た。また、タイトル、抄録、筆者キーワード、引用文献のタイトルに頻出した語句(Keyword Plus)を検索の対象としました。上記検索を実施した後、医
療には関係のない研究分野(例:「Engineering」、
「Plant Science」、
「Agriculture」、
「Mathematics」、
「Zoology」など)の論文を除外しました。なお、集計に
あたっては、1論文に対して複数の国の研究者が共同研究者として掲載されている場合は、それぞれの国のカウントに加えました。
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次に、1999年から2013年までの論文数を著者の所属機関の国籍別にみてみました。調査対象の国は15年間に発表され
た論文の総数を基準に上位15ヵ国を決定しました。集計した結果を表1に示します。
表1 国別医療経済研究論文数
国名
アメリカ
イギリス
カナダ
ドイツ
オーストラリア
オランダ
フランス
イタリア
スイス
スペイン
スウェーデン
ベルギー
中国
日本
インド
全世界
総数
論文数
1999年
27,468
7,768
4,110
3,763
2,897
2,773
2,459
2,227
1,780
1,717
1,431
1,104
1,071
969
880
60,100
1,418
311
188
157
82
82
136
92
80
53
57
57
8
26
11
2,766
2013年
2,626
881
426
379
421
382
227
253
185
221
165
127
193
116
111
6,279
出所 : Web of Science
(Thomson Reuters)
を基に作成
発表された論文数は、アメリカが圧倒的に多く、以下、実際に医療経済評価の結果を積極的に自国の医療制度などに応
用しているヨーロッパ諸国やカナダ、オーストラリアなどが続いていました。
また、各国とも2013年の論文数は1999年と比較して多くなっていましたが、特にアジア地域(中国、日本、インド)にお
ける論文数の増加が目立ちました。
アジア地域における論文数の推移
最後に日本を含めたアジア諸国に注目し、国・地域別に各年における論文数の推移を調査しました(図2)。なお、ここで
は日本、中国、インドに加え、すでに医療経済評価が政策導入されている台湾、韓国も調査の対象としました。
図2 アジア諸国・地域における医療経済研究の論文数推移
200
中国
180
インド
160
台湾
[論文数]
140
韓国
120
日本
100
80
60
40
20
0
1999
2001
2003
2005
2007
2009
2011
2013[年]
出所 : Web of Science
(Thomson Reuters)
を基に作成
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今回対象とした5ヵ国・地域とも多少の増減はあるものの全般的に論文数は年とともに増加する傾向がみられました。特
に、中国および韓国では、それぞれ2009年以降、2007年以降の増加が目立ちました。韓国では2006年に経済評価手法の
ガイドラインが作成され2007年から新薬に関して経済評価結果の提出が義務化されたこと、中国では2009年の新医療改革
や薬剤経済評価に関するガイドラインが作成されたことも、論文数増加の一因になっていると考えられます。
わが国においても、中医協 費用対効果評価専門部会において医療経済評価の活用法が検討され、さらに「医療経済評価
研究における分析手法に関するガイドライン」が作成されるなど、医療経済研究を取り巻く環境が変わってきています。こう
した中で、今後のわが国における医療経済研究の論文数の動向が気になるところです。
(医薬産業政策研究所 主任研究員 土屋 孝範)
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