鉄から見る世界経済

No.26
2015 年 8 月 27 日
鉄から見る世界経済
公益財団法人 国際通貨研究所
経済調査部 上席研究員 森川 央
中国発の株価乱高下が金融市場の動揺を誘っている。当局による買い支えや金融緩和によ
り沈静化が図られているが、依然として市場は不安定である。問題の本質は、過剰設備であ
り、これは金融緩和が一朝一夕に解決できるわけでないからだ。この問題を鉄鋼生産の現場
から見てみよう。
世界全体の鉄(粗鋼)の生産量は、2014 年 16.3 億トンであった。これは 10 年前(2004
年 10.4 億トン)の約 1.6 倍になっている。増加した総量は 5.9 億トンだが、このうち中国
による増加分は 5.4 億トン、実に 9 割に及ぶ。この 10 年はほぼ中国でのみ供給力が積み増
されたと考えてよい。
図1.世界の鉄鋼生産量
18
図2.過去10年間の増加内訳
(億トン)
9%
16
世界
14
中国
12
10
8
中国
6
その他
4
2
0
2004
2006
2008
2010
2012
91%
2014
(注)2015年は1-6月期を年率換算
(資料)Thomson Reuters
(資料)Thomson Reuters
もちろん一方で中国国内の需要も急増した。2004 年の国内需要は 2.8 億トン前後であっ
たが、2013 年には 7.4 億トンに達した後、2014 年にはやや減少し 7.1 億トンになった。し
かし、2014 年の中国の生産量は 8.2 億トンであり、1 億トン強の需給ギャップが生まれてい
る(次頁図 3)。これは日本の年間生産量(1.1 億トン、2014 年)に匹敵する量だ。
この余剰が輸出市場に流れてきている。中国の鉄製品輸出量は 2013 年の 0.6 億トンから
2014 年には 0.9 億トンに増加、2015 年 1-6 月期は 0.52 億トンになっており通年では 1 億
トンを超えてくる可能性がある(図 4)
。
中国国内の鉄鋼価格(棒鋼や板、H 型鋼などの総合指数)は現在、トン当たり 2300 元前
後となっており、これは今世紀に入ってから最低の水準といってよい。
鉄に限らず、銅も石油も価格が下落しているが、いずれも背景にあるのは過剰設備である。
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そして、世界的な過剰設備の解消には時間がかかる。資源ブームの後には長い資源価格低迷
期が続くという歴史の繰り返しが、今回も現実味を帯びてきている。
図4.中国の鉄鋼輸出量
図3.中国の鉄鋼需給
9
8
7
(億トン)
1.2
(億トン)
1.0
国内需要
生産
0.8
6
0.6
5
0.4
4
0.2
3
0.0
2
2004
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
2006
2008
2010
2012
2014
(注)2015年は1-6月期を年率換算
(資料)Thomson Reuters
(資料)Thomson Reuters
図5.鉄鋼価格(総合)
5500
(人民元/トン)
5000
4500
4000
3500
3000
2500
2000
2001
2003
2005
2007
2009
2011
2013
2015
(資料)Thomson Reuters
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