ある日 - 展景

あ る 日
大石久美 私も、あと二年程すると九十歳になる。目も少し悪いので、気をつけているつもりでも時々、失
敗をする。先日は、仏前でお経を読みながら、お経にこげ目をつけてしまった。嫁さんはひどく怒
り、「火事になったら、どう責任を取ってくれるの」と言い捨てた。
息子が出先から帰ってくると、その子細を大きな声で告げている。
こんなにも言わなくてもと少々やりきれなくなる。
私も年を取ったものだ。自分のした事ながら、
息子 は 終 始 黙 っ て い た 。
次の日、息子は一人でふらりと街へ出ていったが、電 気で点滅する線香の器を買ってきて、私の
机の 上 に そ っ と 置 い た 。
「こ れ な ら 大 丈 夫 だ よ 」
とにこにこしている。その息子の生ぬるさが嫁には腹立たしいらしい。まあまあしょうがない。
私が物を無くしたり、鍋を焦がしたりするのだから。
しかし、過去を省みても仕方がない。まあミスのないよう、これからも過していければいいなと
心を ひ き し め て い る 此 の 頃 で あ る 。
「清 紫 会 」だ よ り
◆第 回 平成二十七年五月二十一日(木)
、会場・文京シビックセンター三階和会議室
〈提出作品〉市川茂子・漬物の味/林博子・続・父の本棚(昭和三年刊『世界美術全集』)/松井淑子・
窓からの眺め
◆第 回 六月十八日(木)
、会場・文京シビックセンター三階C会議室
〈提出作品〉市川茂子・古い友人/大石久美・ある日/小野澤繁雄・小石川後楽園/林博子・牛にひかれ
て/松井淑子・記憶について
◆第 回 七月十六日(木)
、会場・文京シビックセンター三階C会議室
〈提出作品〉林博子・霧の中 (松井)
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