国語総合・現代文

平成 27 年度(2期) 入学試験問題
国語総合・現代文
(時間 60分 配点 100点)
【1】試験開始の合図があるまで、問題冊子を開いてはいけません。
【2】受験票、解答用紙(OCR・記述)及び机上の受験番号シールに印刷された受験番号及び氏名が
間違っていれば、速やかに監督者に知らせなさい。
【3】この問題冊子は、本文が 19 ページあります。
問題冊子の印刷が不鮮明であったり、ページが落丁・乱丁していたり、解答用紙(OCR・記述)
に汚れ等がある場合には、手を挙げて監督者に知らせなさい。
【4】机上には受験票・筆記用具及び時計以外は置いてはいけません。
【5】監督者の指示があるまで退室はできません。
【6】試験終了後、問題冊子は持ち帰りなさい。
【7】OCR 解答用紙はコンピュータで直接読み取るので、特に次の点に留意しなさい。
①記入にはHB(0.5㎜)のシャープペンシルを使用しなさい。
②解答用紙の 記入例 を参照して丁寧に記入しなさい。乱雑に記入したものは不利になります。
③折り曲げたり、汚したりしてはいけません。
④解答用紙には、答案に関係のない語句・記号を書いたり、落書きをしてはいけません。
】
(
問題冊子には書き込んでもよい。
)
⑤誤って記入した場合は、消しゴムできれいに消して書き直しなさい。
⑥解答が一桁の場合には右詰めで記入しなさい。(次の例を参照しなさい。)
】
[
例]解答番号1の解答が 4 である場合
】
[例]解答番号2の解答が 12 である場合
解答番号
1
2
解答欄
注意
特に間違えやすい記入例
正
誤
左側をあける
これらは7と判断する恐れが
あるので特に注意しなさい。
平成二十七年度 入学試験問題 (2期)
国語総合・現代文
一 次の文章を読んで、後の問(問一~問七)に答えよ。
音楽というのは聴覚に依存したパフォーマンスの一種であるけれども、音楽的であるということは、もっと広義な特性
であると思われる。とくに音に関係するとも限らないのではないだろうか。要は、
時間とともに進行する現象のパターン、
ア
み いだ
そしてそれが鑑賞に値するものであるなら、おしなべて「音楽的」と呼べる気がしてならない。
鑑賞に堪えるとは、そこに何らかの美しさを見出すというのと同義である。認知としてはそこには二つの要素が含ま
れている。一つは注意を喚起するということ。そしてもう一つはポジティヴな感情を喚起するということだろう。いくら
注意をかき立てたところで、不快な感情を引き起こすのでは何の足しにもならない。ハッとして、思わずそこにひきこま
れる――時間とともに推移するそうしたパターンならば、およそそれは音楽的と呼んでかまわないものである。
それを音に限定し、かつあえてパフォーマンスとしてやってみせたとき、音楽は誕生するのだとも表現できるだろう。
①
では、なぜ音楽的な現象が広く ルフするに至ったのかというと、時間とともに推移するパターンが知覚する立場のすべ
ての者の注意を喚起し、喚起するばかりかポジティヴな感情を、その場に居合わせた者すべてに「共有した」という意識
をもたらすからだろう。結果として「共有した」者同士に、連帯感がもたらされる。
ある場に居合わせた個人と個人が、ともに注意を呼びさまされたり、ともに同質のポジティヴな気持ちになったりする
きずな
ことで、双方の絆が強化されるという、 A 的機能が発揮されるのだ。そして A 的な絆が深められると、強く結
― ―
1
びついた個人と個人はますますその動きが音楽的となっていく。正の循環(スパイラル)へと入っていくのだ。
あげくのはてに人間は何がしかのことを達成するにあたって、できるだけ音楽的に(つまり美しく)やってみせようと
努めるようになり、音楽的な達成を評価する雰囲気がひろまっていったのだろう。
③
私たちは時に、他人のしぐさ・動作に華麗さや優美さのようなものを感じることがある。とりたてて奇異なことを行っ
②
ているわけではない。誰でもする何げない動きなのだけれども、 ミワクされてしまう――その際、そこには音楽性が秘
められていると表現してよいのだ。流れるような一連の動き、という表現が ガンイするように、例えばベテランのすし
職人が次々とすしをにぎっていく工程、あるいはベルトコンベアーでの単純作業においてさえ、熟練した動きを目にする
と、人間はそこに音楽の要素をかぎとるのである。
ひ
古来、音楽はそれがあるからといって、とくに個人の生存にとって重要な機能を果たすものではないと考えられてきた。
生活上の「盲腸」のような代物というわけである。
けれどもこの音楽観は非常に誤ったものであると、私には思えてならない。それどころか音楽性の高い流麗な運動に惹
きつけられることが、当の身体の動きをアピールすることを介して見る側に「教育効果」を発揮することは、文化伝達や
ほう が
行為の継承という目的を達成する上で、絶大な影響力を及ぼしていると思われる。
私たちは、この音楽的要素の教育機能の萌芽を、ニホンザルの近縁種でタイに生息するカニクイザルの行動のなかに確
認したことがある。首都のバンコクから北に一八〇キロメートルほど行ったところにあるロッブリーは、
「サルの街」と
して知られている。ちょうど日本における奈良公園のシカにあたるように、サルが神の使いと考えられ、それゆえ住民は
はいかい
サルがどんなに危害を加えても抵抗を許されないという状態で、数百年が経過してきたのだった。だから街中をサルが
徘徊している。
そうこうしているうちに、彼らはいつのまにか、何とも不可思議な行動を「発明」してしまったのだった。髪の長い人
間の女性の肩にのり、無抵抗をよいことに髪を一本抜きとって、それをまさにデンタルフロス(歯間ブラシ)よろしく利
― ―
2
用して自分の歯にはさまった食物の残りかすをとり除くのに利用しだしたのである。
でん ぱ
おそらく初めは群れのなかの一頭だけが B 的に始めたのだろう。けれどもやがて伝播していったらしく、今では
オトナのサルの多くが同じことをやってみせる。むろんロッブリー固有の「文化現象」にほかならない。
人間でもそうであるように、デンタルフロスはなかなか技術を要する行動である。だから、それを初心者のサルが目に
し た と し て( む ろ ん 最 初 は ど の サ ル も 初 心 者 な の だ が )
、熟達したサルからどのように習得していくのかが、問題となっ
てくる。こういう問題意識から、初心者を前にした熟達者の髪の毛による「歯みがき」を観察してみると、面白い事実が
④
判明したのだった。いまだ技を習得していないサルが歯みがきを見ているときと、仲間に見られることなく単独の状態で
歯みがきを行っているときとで行動を比べてみると、パターンが ニョジツに異なるのである。
どう違うかというと、端的にいえば子ザルが見ていると動作が誇張される。
(1)髪の毛を両方の手でピンとのばして持ち、
(2)口を大
そもそも髪の毛をデンタルフロスとして用いる場合には、
きくあけて奥に挿入し、(3)そののち口を開閉して髪の毛を歯間へ入れてやらねばならない。子ザルが面前にいると、
くぎ
このうち(3)にあたる動作が、いかにも相手に見せてやるといった大仰さを伴うようになる。さらに、口の開閉の頻度
め
そのものも増加することが明らかとなった。子ザルはというと、こうした動作に釘づけ状態で見入っている。
歯みがきをしている側が、見ている子ザルの「眼」を意識していることは明白だろう。すると結果として、歯みがき行
イ
動は 演技(パフォーマンス)性を帯びてくるのだ。食い入るように見ることの当の個体への効果は明白である。おそら
く、どのように髪の毛を扱えば歯みがきができるのか、学習の機会を提供していることだろう。かくして、行動は世代か
ら世代へと伝わっていくことが可能となっているらしい。
行動の文化伝達がなされるためには、オトナのサルと子ザルとが対面して注意を共有する場を持つことが不可欠である
ものの、それは人間だけにできることと従来は考えられてきた。人間以外の動物では、対面して目と目を合わすことは緊
張をもたらすことが不可避なので、どちらかが避けてしまって成立しないと言われてきた。けれども、カニクイザルに関
― ―
3
する限り、人間の成人︱子どもにかなり類似していることがうかがえる。それどころか、オトナのカニクイザルは子ザル
の興味をかきたてる方向へと、自分のしぐさを変化させている。
このように、仲間の目を意識するということもまた、従来の考えでは人間にのみ特有の心理とされてきたのだが、例外
ウ
のあることが判明したのである。 すると歯みがき行動の場合、しぐさは歯間のゴミを除去するための効率に関係しない
側面で変わってくる。効率という点からは「ムダ」も誇張されていくのだ。
一見、「ムダ」に見えるけれども、あえて擬人的に書くと、見ている側からするとエンターテインメント性が高くなっ
てきている。そして決してムダではなく、
しぐさが誇張されることで一つひとつの動きが見る側には「わかりやすく」なっ
ている。
ではわかりやすくなってどういう効用が生ずるかというと、見る側が同じ行動を自分でやってみる、つまり習得するこ
とを容易にしているのだと考えられるのである。
X
。
従来の動物行動学の理解に従えば、単に個体と個体が緊張せずに対面することが人間のみに固有であるばかりか、教育
すなわち特定の個体が誰であれ仲間に何がしかのことを教えるということも、人間固有の現象と考えられてきた。だが、
少なくともその萌芽となるような現象は人間以外の霊長類でも観察されることを、カニクイザルの歯みがき行動は示唆し
ている。
め
教育効果があるから歯みがきの動作が子どもの面前では誇張されるのか、それとも誇張するから教育効果が生まれるの
かはいまだわからない。いずれにせよ、行動をしている当の個体にとって、自分の生活上の直接のメリットにならない動
作の変化という、いわばムダをする余裕の派生と関係していることだけは確実だろう。
(正高信男著『音楽を愛でるサル』に基づく)
― ―
4
問一
筆者の言う「美しさ」
傍線部ア「鑑賞に堪えるとは、そこに何らかの美しさを見出すというのと同義である」とあるが、
にあてはまるものはどれか。最も適切なものを、
次の1~4の中から一つ選び、【OCR解答用紙】にその番号を記入せよ。
解答番号は、
1 精緻な模様を細かく刻んだ金細工の首飾り 2 流れるような一連の動きを舞台で演じる能役者
3 真冬の銀世界の中、池に反射してさん然と輝く金閣寺 4 満々と水をたたえた神秘的な湖を描いた絵画
問二 傍線部①~④のカタカナを漢字に直し、
【記述解答用紙】に記入せよ。
解答番号は、①〈1〉
・②〈2〉
・③〈3〉
・④〈4〉
3 A 社会 B 偶発
4 A 感情 B 閉鎖
1 A 集団 B 実験
2 A 恒常 B 一時
問三
・ B に入る最も適切な組み合わせを、次の1~4の中から一つ選び、
【OCR解答用紙】にその番号
空欄 A
を記入せよ。解答番号は、
問四
2
傍線部イ「演技(パフォーマンス)性を帯びてくる」と同じような意味で使われている言葉を、傍線部イよりも後の
部分から五字で抜き出し、【記述解答用紙】に記入せよ。解答番号は、
〈5〉
― ―
5
1
2
1
種の保存のために、歯間のゴミを除去するという点では効率は悪いが、対面による緊張をいとわず注意を共有する
場を作ろうとする動きに変わってくる。
歯間のゴミを除去する効率という点ではムダだとわかっているが、仲間の目を意識して、できるだけ美しく見せよ
うとする動きに変わってくる。
問五
しぐさは歯間のゴミを除去するための効率に関係しない側面で変わってくる」
傍線部ウ「すると歯みがき行動の場合、
とあるが、どのような動きに変わってくるのか。最も適切なものを、次の1~4の中から一つ選び、
【OCR解答用紙】
3
子どもの教育のために、自分の歯間のゴミを除去するという個人的な目的を犠牲にしてでも、子どもに強制的に学
習させようとする動きに変わってくる。
にその番号を記入せよ。解答番号は、
4
効率よく歯間のゴミを除去するという点では一見ムダな動きに見えるが、見る側にとってはわかりやすく、技術を
習得しやすい動きに変わってくる。
問六
【OCR解答用紙】にその番号を記入せよ。
空欄 X に入る最も適切な一文を、次の1~4の中から一つ選び、
解答番号は、
4
つまり「共有効果」が生じるのだ
― ―
6
3
2 つまり「教育効果」が生まれてくるのだ
3 つまり「仲間の絆」が強化されるのだ
1 つまり「ムダの効用」に気づくのだ
4
3
2
1
「 音楽的」であることは、異なる霊長類間で他者の目を自覚して伝達行動ができるかどうかだということを説明す
るために、カニクイザルの例を出している。
「 音楽的」であることは、人間固有の文化であるということを述べるために、カニクイザルの動物的行為を解説し
ている。
「 音楽的」であることは、必ずしも音を出すことに限定されないのだということを述べるために、カニクイザルの
親子の話に言及している。
問七
本文中において、「音楽的」であることとタイの「カニクイザル」の話とはどのような関係があるのか。最も適切な
ものを、次の1~4の中から一つ選び、
【OCR解答用紙】にその番号を記入せよ。解答番号は、
4
「 音楽的」であることは、人類に限らず文化伝達や行為の継承において教育機能を有するということを述べるために、
カニクイザルの話をしている。
― ―
7
5
二
次の文章は、一九七○年代までの日本と欧米の地下空間利用について述べた文章である。これを読んで、後の問(問
一~問六)に答えよ。
がんらい、日本は、地下空間利用の発達しない国であった。それは、日本の多湿度な風土と、たかい地下水位とによる。
一般に日本の国土はどこでも、地表面附近の湿度が異常にたかい。だから木造住宅などでは、一階の床の高さを地上から
四五センチメートル以上にとることが、法律で義務づけられている。そうしないと、木造の土台や柱がボロボロにくさっ
てくるからである。しかし、ほんとうはそれだけではたりないのだ。だいたい地表面から一―一・五メートルの範囲は、
よほど風とおしのよいところでないかぎり、
たんすのなかのきものでも、
すぐかびくさくなりやすいものである。したがっ
て、むかしの人は、湿気を吸ってはこまるような大事なものは、蔵にいれるか、または屋根裏に収納したものである。地
(注1)
表面ですらこうだから、地下となると湿度はいっそうひどくなる。地下の風とおしの悪さがそれに輪をかけるのだ。また
(注2)
よ
み
湿度がたかいだけでなく、稲作の関係から沖積地帯に立地しているわが国の都市は、いずれも地下水位がたかいので、地
下工事は事実上不可能であった。
そういう事情から、わが国では、むかしから、地下は黄泉の国、あるいは死者の国とする考えかたがあったといわれる。
すぐに物が腐敗するそういう場所には、生きている人間は、みだりにちかよってはならないのである。明治のころまで、
ち
か ろう
わが国に地下室をもった建築がほとんどなかったのは、そのためでもあろう。わずかな例外としては、中・近世の庶民の
家にもうけられた小さな穴倉と、江戸の地下牢ぐらいである。しかし前者は、火災のさいのたんなる荷物のなげこみばに
(注3)
すぎず、後者は、だいたい死刑囚の牢獄であった。
これに反して、ヨーロッパの気候は一般に高燥で、都市の地下水位もひくく、地下室をつくったからといって、とくに
かびくさくなる、というようなことはない。それどころか、そこは、夏冬を通じて気温が一定しているので、むかしから、
食糧の貯蔵庫として、庶民の生活に欠かせないものになっていた。それはいわば、日本の蔵にあたるものだとおもえばい
― ―
8
い。したがって、農家にも、また町のなかの住宅にも、地下室をもっている家が多いのは当然のことである。さらにぶど
ア
う酒の醸造場所としても、ひろく地下室がもちいられたことをかんがえると、地下空間は、ヨーロッパ文化に積極的に貢
献したとさえいえそうだ。
ところで、そのような自然条件のきびしい規制にもかかわらず、 明治以降、日本で地下室が発達したのは、鉄筋コン
クリート構造の出現と、それにともなう防水技術の進歩、および換気技術の発達とによる。まず鉄筋コンクリート構造の
出現によって、木造にかわって腐敗しない建築材料を地下室につかうことができるようになった。それに、アスファルト
等による防水技術がくわわれば、地下水位のたかい日本でも、地下工事がわりあいに楽におこなわれるようになる。そう
なると、少しでも空間をひろげたいという欲求から、ビルに地下室がつきものとなった。日本の軟弱な地盤も、工事をす
くい
るうえには、かえってプラスとなる。どのみち、鉄筋コンクリートの建物などでは、通常一〇―二〇メートルぐらい地下
にある固い支持層まで杭などを打って、建物を固定させなければならないから、そのあいだのやわらかい土を地下室にお
きかえることは、比較的容易なことである。そういう事情もてつだって、ビルの地下工事は異常に発達した。これは、か
つて地下を黄泉の国としたこととかんがえあわせると、コペルニクス的転回である。
しかし、そこにはまたひとつの誤算があった。なるほど地下の湿気から建物の腐敗をふせぐことができ、地下水の浸入
をくいとめることはできたかもしれないが、いぜんとして地下の湿った空気そのものの存在は解消しえていない。戦前つ
くられた地下室の大部分が、プーンとかびくさいにおいのただよった陰気な空間であるのも、そのためである。
戦後になると、機械換気のいちじるしい発達によって、地下室の気候を人工的にコントロールする技術が普及した。し
かし、機械換気による湿度除去も、あくまで程度問題である。二四時間、換気のつけっぱなしというわけにもいかないか
ら、地下を物置にしたところは、たいてい失敗した。そのなかにあって、地下空間利用に成功したひとつの例は、デパー
トの地下の食糧品売場であろう。デパートの地下が、どこでも食糧品売場になっているのは、回転のはやい生鮮食糧品や、
もちのいいカンヅメ食品など、あまり湿気の心配のないものをおけるからである。かつてデパートの地下にも、時計売場
― ―
9
や呉服売場をもってきた例があったが、それらはたいてい湿気のために失敗してしまった。結局、デパートの地下は、い
①
まではどこでも、食糧品売場か特売場という形にだいたい定着してしまっている。つづいて、最近のビルやホテルの地下
にみられる キッサ店や食堂街などがある。これらは、機械換気の進歩と電気冷蔵庫の発達にささえられて、地下空間利
②
用に成功した例である。しかし、これらのものはいずれも、ある一定時間、人間がいるあいだだけのことだから、換気や
冷暖房も成立するのであって、四六時中、機械換気を ヨウセイされたら、コスト高になってとても維持できなくなる。
③
そうすると、現状では湿度にあまり関係のない物以外の物置として利用することも、なおむずかしいということがわか
る。たとえば、最近流行の地下駐車場も、目下のところ、社会的試験段階にあるといえる。というのは、機械類は極端に
(注4)
湿度をきらうから、自動車といえども、長時間地下においておくことは望ましいことではないからである。その ショウ
コに、ビルの機械室すら、このごろは地下の湿気をきらって、屋上のペント・ハウスにうつる傾向がある。とすると、ま
して一般の家で、地下室をもうけて機械換気をするなどということはかんがえられない。わが国での地下空間利用は、こ
のほかに災害時の群衆避難等の問題をもふくめて、まだまだ困難な課題をかかえているのである。
(注5)
ところで、欧米のビルには、かならずしも地下室がない。これはかんがえてみると、ふしぎなことである。そのひとつ
の理由は、地下は太陽の光のおよばないところなので、人間の住むべきところではない、という考えかたが根づよいから
である。ゴーリキーの戯曲『どん底』のなかには、地下室での、社会の吹きだまりとなった人たちや、官憲の追及の手を
のがれた革命家たちの陰惨な生活が、詳細にのべられている。つまり、地下は要するに物置または蔵なのであって、人間
の生活空間ではない、という社会意識がつよいのである。それにもうひとつの理由は、欧米の都市の自然条件からくる制
約がある。すなわち、欧米の都市、とくに都心部が立地するようなところは、高みの岩盤地帯であることが多く、大規模
な地下工事は、一般に困難だからである。住宅の地下の壁も、ストックホルムでは、岩盤をそのまま露出させている穴倉
のようなところが少なくない。
さて、以上を要約すると、こういうことになる。もともと地下空間が人間の生活空間でない、ということについては、
― ―
10
そ の 理 由 が、 一 方 で は
X
の世界、他方では暗黒の世界というような差異があるにせよ、日本も欧米も、結果的には
見解をおなじくしていた。ただ欧米では、人間の生活空間としてでなく、物置としての利用はすすんだが、日本では、自
イ
然条件や建築条件等からそれができなかった。ところが、科学技術の進歩によって、自然条件等を克服して、地下空間利
用の可能性がでてくると、日本では早速いままでの タブーをやぶって、人間の生活空間として利用しはじめた。ところ
があいかわらず、物置としては利用することができない。
「物」は人間のように粗悪な環境への適応力がないからである。
その結果、現状では、地下空間は欧米ではあいかわらず「物置」として、日本では「人間の生活空間」としてつかわれて
いることのちがいが、両者の地下空間利用の社会的差異となって浮かびあがってきているのである。
(上田篤著『日本人とすまい』に基づく。ただし、一部中略あり。
)
(注)1 沖積地帯…… 河水の運搬によって土砂が積み重なり生じた地域。
2 黄泉の国…… 死後、その魂が行くとされている世界。
3 高燥…… 土地が高くて、湿気が少ないさま。
4 ペント・ハウス…… 建物の屋上に塔状に突き出した構造物。
一九三六)。
5 ゴーリキー…… ロシアの作家マクシム・ゴーリキー(一八六八 ‒
― ―
11
問一
【OC
傍線部ア「明治以降、日本で地下室が発達した」理由として不適切なものを、次の1~4の中から一つ選び、
R解答用紙】にその番号を記入せよ。解答番号は、
1 軟弱な地盤のおかげで、地下工事が比較的容易であったため。
2 科学技術の進歩と、空間を広げたいという欲求が結びついたため。
3 鉄筋コンクリート構造の出現により、地下室を低湿度の空間にすることが可能になったため。
4 アスファルト等の防水技術の進歩により、地下水の浸入を防ぐことができるようになったため。
問二 傍線部①~③のカタカナを漢字に直し、
【記述解答用紙】に記入せよ。解答番号は、①〈6〉
・②〈7〉・③〈8〉
問三 空欄 X には、日本の地下空間を表現した言葉が入る。最も適切な言葉を、次の1~4の中から一つ選び、その
番号を記入せよ。解答番号は、
問四 傍線部イ「タブー」とあるが、この内容を具体的に述べた一文を指摘せよ。該当する一文の最初の三字を抜き出し、【記
述解答用紙】に記入せよ。解答番号は、
〈9〉
問五
日本や欧米の地下空間利用についての説明として、最も適切なものを、次の1~4の中から一つ選び、【OCR解答
用紙】にその番号を記入せよ。解答番号は、
1 日本では、むかしの人は、湿気を嫌う大事なものを地下の蔵に入れていた。
2 日本では、戦後にいちじるしく発達した防水技術のおかげで、ビルに地下室がつきものとなった。
8
― ―
12
6
1 貯蔵 2 混乱 3 乾燥 4 腐敗 7
3 欧米では、地下空間は生活空間ではないという社会意識が強いため、住宅の地下空間は利用されていない。
4 欧米では、地下空間に対する社会意識に加えて都市の自然条件の特性により、ビルに地下室があるとは限らない。
問六 本文の内容に合致しないものを、次の1~4の中から一つ選び、
【OCR解答用紙】にその番号を記入せよ。
解答番号は、
1 地下空間利用をめぐる日本と欧米の差異は、気候や地質といった自然条件の違いに関係がある。
2 日本において、ビルの地下利用は限定的に発達したが、住宅での地下空間利用はまだまだ難しい。
3 住宅の地下空間を生活空間として利用することにおいて、日本と欧米は共通する問題を抱えている。
4 日本の地下空間利用が転機を迎えたのは、明治期と戦後における科学技術の進歩によるところが大きい。
― ―
13
9
三 次の各問(問一~問九)を読んで、それぞれの指示に従って答えよ。
【OCR
問一 次のA~Dの各群において、傍線部の漢字が正しいものはどれか。1~4の中からそれぞれ一つずつ選び、
解答用紙】にその番号を記入せよ。解答番号は、A
・B
・C
・D
12
13
1 習った技術は、すぐに実戦して確かめることで、しっかりと身に付くものだ。
2 一期一会とは、一生でただ一度の出会いという意味だ。
C 3 先週、ウサギとの競走で本当に亀が勝つという前代未問の珍事件が起きた。
4 報道によれば、今回の地震は地穀変動によってもたらされたようだ。
1 今日は、国語の時間に古事成語を習った。
2 おかげさまで母の病は快方に向かっています。
B 3 腕利きの職人たちは、わずか一週間で広島市の清細な地図を書き上げた。
4 予想もしていなかった激しい抵抗にあって、我が軍は撤退を余儀なくされた。
1 異境の地で働く夫との約束を守り、彼女は村長になってほしいという村民の頼みを固持し続けた。
2 今回の事業は、計画段階で予想していた以上に難向している。
A 3 よほど兄が帰ってくるのを期待していたらしく、父の落担は見ていて気の毒なほどだった。
11
4 外交辞例だとわかっていても、あれだけ褒めてもらえるとうれしいものだ。
― ―
14
10
問二
1 夏場は野菜の痛みが早いので、できるだけ早く食べて下さい。
2 努力しているだけあって、成績が延びているのが自分でもよくわかる。
D 3 髪を渇かしてから寝るようにしないと、風邪をひきやすい。
4 無事に縁談が調いましたので、明日公表することになりました。
・B
・C
・D
17
次のA~Dの各群において、漢字の読み方(カタカナで表記)が正しくないものはどれか。1~4の中からそれぞれ
一つずつ選び、【OCR解答用紙】にその番号を記入せよ。
解答番号は、A
16
A 1 示唆(シサ)
2 卑下(ヒカ)
3 甚大(ジンダイ)
4 捨象(シャショウ)
B 1 琴線(キンセン)
2 払拭(フッショク)
3 遊説(ユウセツ)
4 掌握(ショウアク)
15
C 1 安穏(アンノン)
2 派遣(ハケン)
3 破綻(ハジョウ)
4 漸進(ゼンシン)
D 1 執着(シッチャク)
2 哀悼(アイトウ)
3 薫陶(クントウ)
4 慶弔(ケイチョウ)
― ―
15
14
問三
・B
・C
・D
21
次のA~Dの各群において、傍線部の言葉が例文と同じ使われ方をしているものはどれか。1~4の中からそれぞれ
一つずつ選び、【OCR解答用紙】にその番号を記入せよ。
解答番号は、A
20
問四
次のA~Cの各群の熟語において、傍線部の漢字の意味が他と異なるものを、1~4の中からそれぞれ一つずつ選び、
【OCR解答用紙】にその番号を記入せよ。解答番号は、A
・B
・C
D 1 足が遠のく。 2 足を引っ張る。 3 足が出る。 4 足が地につく。
(例文)彼はその店に足しげく通っている。
C 1 打つ手がない。 2 手が足りない。 3 手に入れたい。 4 手に余る。
(例文)ぜひあなたの手を借りたい。
B 1 顔を洗う。 2 顔をしかめる。 3 顔に泥を塗る。 4 顔を出す。
(例文)いろいろあって、田中さんに合わせる顔がありません。
A 1 ひびが走る。 2 敵方に走る。 3 悪に走る。 4 ペンが走る。
(例文)彼の行動はときおり極端に走る。
19
23
A 1 統治 2 文治 3 治安 4 治療 B 1 過激 2 過敏 3 過失 4 過労
C 1 省察 2 省略 3 反省 4 猛省
22
24
― ―
16
18
後 B 騎
の勢い C 多岐亡
問五 次のA~Dは動物を表す漢字が入った成句である。A~Dの
に入らない動物を、1~7の中から二つ選び、
【O
CR解答用紙】にその番号を記入せよ。順序は問わない。解答番号は、
・
口
D 南船北
26
1 牛 2 馬 3 犬 4 虎 5 羊 6 鶏 7 猿
A 25
・B
・C
問六 次のA~Cの各群の( )には同じ動詞が入る。最も適切な語を、1~9の中からそれぞれ一つずつ選び、【OC
R解答用紙】にその番号を記入せよ。ただし、選択肢は一度しか使用できない。
解答番号は、A
29
B 波風を( )
顔を( )
身を( )
C 苦杯を( )
辛酸を( )
苦汁を( )
A たなごころを( )
きびすを( )
白紙に( )
28
1 みがく 2 なめる 3 決める 4 立てる 5 吐く
6 受ける 7 戻す 8 変える 9 返す
― ―
17
27
問七
次のA・Bの傍線部の意味として最も適切なものを、1~4の中からそれぞれ一つずつ選び、【OCR解答用紙】に
その番号を記入せよ。解答番号は、A
・B
問八
33
1 こんなに目をかけてもらったら、今晩からは田中さんに足を向けて寝られない。
2 どんな集団にも、一人は横車を押して足を引っ張る人がいるものだ。
B 3 大河ドラマの主役などという大役は、私のような未熟者では役不足です。
4 急な出来事に、部長も憮然とした表情をしていた。
1 両手を縛られていてさえ、彼女は昂然と顔を上げて目の前の王をにらみ据えていた。
2 およそ勝ち目のないことは誰の目にも明らかだったが、その弁護士は敢然と反論を試みた。
A 急に明日に変更になったので、僕は徹夜で泰然と報告書を作成した。
3 プレゼンテーションの日ぶ程ぜが
ん
こうぜん
次のA・Bの各群で、傍線部の語句の用法が正しくないものを、1~4の中からそれぞれ一つずつ選び、【OCR解
答用紙】にその番号を記入せよ。解答番号は、A
・B
B 彼女はのべつまくなしにしゃべった。
1 遠慮なく 2 恥じらいなく 3 途切れなく 4 ためらいなく
A 彼はおもむろに立ち上がると話し始めた。
1 急に 2 ゆっくりと 3 不意に 4 大げさに
31
32
4 微にいり細をうがって立てた計画だったが、犯人はあっけなく捕まってしまった。
― ―
18
30
問九
次の文章では、必要な表現が省略されているために、意味がわかりにくくなっている。1~7の中から適切な表現を
文章内に入れて、よりわかりやすい文章に書き改める時、使用しないものが一つだけある。
【OCR解答用紙】にその
番号を記入せよ。ただし、選択肢は一度しか使用できない。解答番号は、
発明者でもあるノーベルの遺言に基づき、
一九〇一年に創設された。
ノー
ノーベル賞は、スウェーデンの科学者であり、
ベルは、土木工事でも爆薬を使用できるようにと発明し、巨万の富を築いた。しかし、不幸なことに、それは戦争など
で人間を殺傷することも可能にしてしまった。そのことを憂えたノーベルは、最大の貢献をした人に自らの遺産を与え
るようにという遺言を残したのである。ノーベル賞の授賞式は、
命日である一二月一〇日にストックホルムで行われる。
二〇〇二年には日本人としては初めて小柴昌俊氏、田中耕一氏の二人が同時にノーベル賞を受賞し、話題になった。
1 安全に 2 ノーベルの 3 大量に 4 ノーベル賞を 5 ダイナマイトを 6 人類に 7 ダイナマイトの 〔国語の問題は以上です。
〕
― ―
19
34
平成 27 年度(2期) 入学試験問題
数学Ⅰ・A
(時間 60分 配点 100点)
【1】試験開始の合図があるまで、問題冊子を開いてはいけません。
【2】受験票、解答用紙及び机上の受験番号シールに印刷された受験番号及び氏名が間違っていれば、
速やかに監督者に知らせなさい。
【3】この問題冊子は、本文が 6 ページあります。
問題冊子の印刷が不鮮明であったり、ページが落丁・乱丁していたり、解答用紙に汚れ等がある
場合には、手を挙げて監督者に知らせなさい。
【4】机上には受験票・筆記用具及び時計以外は置いてはいけません。
【5】監督者の指示があるまで退室はできません。
【6】試験終了後、問題冊子は持ち帰りなさい。
【7】解答用紙はコンピュータで直接読み取るので、特に次の点に留意しなさい。
①記入にはHB(0.5㎜)のシャープペンシルを使用しなさい。
②解答用紙の 記入例 を参照して丁寧に記入しなさい。乱雑に記入したものは不利になります。
③折り曲げたり、汚したりしてはいけません。
④解答用紙には、答案に関係のない語句・記号を書いたり、落書きをしてはいけません。
】
(
問題冊子には書き込んでもよい。
)
⑤誤って記入した場合は、消しゴムできれいに消して書き直しなさい。
⑥解答が一桁の場合には右詰めで記入しなさい。(次の例を参照しなさい。)
】
[
例]解答番号1の解答が 4 である場合
】
[例]解答番号2の解答が 12 である場合
解答番号
1
2
解答欄
注意
特に間違えやすい記入例
正
誤
左側をあける
これらは7と判断する恐れが
あるので特に注意しなさい。
平成 27 年度(2期)数学Ⅰ・A入試問題
・解答は 1 ~ 99 までの数字を解答欄に直接記入せよ。
・分数形で解答する場合は既約分数で答えよ。
・根号を含む形で解答する場合は,根号の中に現れる自然数が最小となる形で答えよ。
― ―
1
Ⅰ 次の各問の空欄に当てはまる最も適切な数値を記入せよ。
問1 18⎝2n−4⎠ ≦ 48n−400 を満たす最小の自然数 n は n=
問2 √ 10 の整数部分を a,小数部分を b とする。このとき ,
a=
a
b
2
= 5
,b=
√ ̄
3 −
6 +
√ ̄
7
4
であり
である。
問3 次の式を計算せよ。
√ 5 +√ 3
√ 5 −√ 3
−
=
√ 15 −√ 3
√ 15 +√ 3
√ ̄
8 +
9
11
問4 720 の正の約数の個数は 12 個である。
― ―
2
√ ̄
10
1
である。
Ⅱ 次の図はある地域の道を直線で示したものである。下の各問の空欄に当てはま
る最も適切な数値を記入せよ。
B
D
C
E
A
問1 A から B に行く最短の道順が n 通りあるとき,n−100= 13 である。
問2 A から B に行く最短の道順の中で,C を通る道順は 14 通りある。
問3 A から B に行く最短の道順の中で,C と D の両方を通る道順は 15 通
りある。
問4 A から B に行く最短の道順の中で,C または D を通る道順は 16 通り
ある。
問5 A から B に行く最短の道順の中で,E と D の間の道(線分 ED)を通ら
ない道順は 17 通りある。
― ―
3
Ⅲ 放物線 y=2x2 を平行移動して得られる放物線について次の各問の空欄に当て
はまる最も適切な数値を記入せよ。
問1 x 軸方向に−3,y 軸方向に−5 平行移動した放物線の方程式は
y= 18 x2+ 19 x+ 20 である。
問2 頂点が点(2,3)である放物線の方程式は
y= 21 x2− 22 x+ 23 である。
問3 x 軸との交点の x 座標が−2 と 4 である放物線の方程式は
y= 24 x2− 25 x− 26 である。
(
問4 点 0,−
1
2
)
を通り,頂点が直線 y=2x 上にある放物線の方程式は
y= 27 x2+ 28 x−
29
30
である。
問5 放物線の軸は直線 x=3 であり,この放物線を表す関数の 1 ≦ x ≦ 4 におけ
る最大値は 5 であるとする。このとき,放物線の方程式は
y= 31 x2− 32 x+ 33 である。
― ―
4
選択問題 IV と V のうち,いずれか1題を選んで解答せよ。
Ⅳ AB=2,BC=1+√ 2 ,∠B=60°の三角形 ABC の外接円を O とする。頂点 A
を通り辺 BC に垂直な直線が円 O と交わる点(A と異なる点)を D とする。次
の各問の空欄に当てはまる最も適切な数値を記入せよ。
√ ̄
34 である。
問1 AC=
問2 円 O の半径は
問3 cos ∠CAD=
問4 AD=
39
√ ̄
35
36
√ ̄
37
38
である。
である。
 ̄
√ ̄
40 +√ 41
42
問5 三角形 ACD の面積は
43
である。
√ ̄
44 +
47
但し 44 < 46 とする。
― ―
5
45
√ ̄
46
である。
選択問題 IV と V のうち,いずれか1題を選んで解答せよ。
Ⅴ 次の各問の空欄に当てはまる最も適切な数値を記入せよ。
√
問1 n を自然数とする。
 ̄
540
n
は n= 48 のとき最大の自然数 49 になる。
問2 積が 640,最大公約数が 8 である 2 つの自然数の和は 50 または 51
である。但し 50 < 51 とする。
問3 3x+7y=49 を 満 た す 自 然 数 x と y の 組(x,y) は( 52 , 53 ) と
( 54 , 55 )である。但し 52 < 54 とする。
問4 3 進数 1221⎝3⎠ を 10 進数で表すと 56 である。また,3 進数 0.1221⎝3⎠ を
10 進数で表すと
57
58
である。
〔数学の問題は以上です。
〕
― ―
6