☆ トピックス 水素社会の実現に向けて 作成者 渡辺洋一郎 水素・燃料電池関連の市場規模は 2050 年に約 8 兆円と予測 昨年の 6 月に経済産業省から「水素・燃料電 池戦略ロードマップ」が発表されたことや、ト ヨタ自動車の燃料電池車「ミライ」が昨年 12 月に発売されたことで、水素社会関連企業が株 式市場でも注目されている。現在は水素社会の 実現に向けた入り口の段階であり、官民の関係 者は 2040 年頃までの実現に向け、超長期で取 り組むようだ。水素利活用技術にはコスト面を 含めた多くの課題が存在しており、関連企業の 収益化もかなり先になる見通しだが、水素・燃 料電池関連の市場規模は日本だけでも 2050 年 に約 8 兆円が予測されているなど巨大(図表 1 参照)。また、海外に先駆けて水素社会を構築 できれば、多数の関連特許も持つ日系の関連企 業は世界においても主導権をとれるだろう。 図表1:水素・燃料電池関連の市場規模予測 出所:経済産業省「水素・燃料電池戦略ロードマップ」より 水素社会の意義と課題 「水素・燃料電池戦略ロードマップ」で述べられている、水素社会実現をめざす意義は、幅広い分野で水素 の利活用を拡大することで、①省エネルギー(高効率な燃料電池の普及で実現)、②エネルギーセキュリティ の向上(水素は様々な資源から製造可能なため、地政学リスク等が減少)③環境負荷低減(二酸化炭素排出を 削減)などを達成できること。一方、水素利活用技術には、技術面、コスト面、制度面、インフラ面で多くの 課題が存在しており、これら課題を一体的に解決できるかが実現の鍵となろう。関係者は技術的課題の克服と 経済性の確保に要する期間の長短に着目し、フェーズ 1~フェーズ 3 の期間を踏まえ、水素社会の実現をめざ す(図表 2 参照) 。 図表2:水素・燃料電池戦略ロードマップ 出所:経済産業省「水素・燃料電池戦略ロードマップ」より このレポートは投資の判断となる情報の提供を目的としたものです。銘柄の選択、投資の最終決定は、ご自身の判断でなさるようにお願い致し ます。なお、株式は値動きのある商品であるため、元本を保証するものではありません。 ☆ トピックス フェーズ 1(水素利用の飛躍的拡大) フェーズ 1 では、2017 年に業務・産業用燃料 電池の市場投入や、ユーザーに受け入れられるよ うな水素価格(2020 年頃) 、燃料電池車の車両価 格(2025 年頃)の実現をめざす。 定置用燃料電池では、家庭用燃料電池(エネフ ァーム)を 2020 年に 140 万台、2030 年に 530 万 台へ普及させることなどが主な目標。現在、家庭 用燃料電池のエンドユーザーの負担額は概ね 150 万円程度(図表 3 参照)で、4 人世帯で年間 5~6 万円程度の光熱費削減が可能。本格普及に は、エンドユーザーの投資回収期間の短縮が重要 となるが、2020 年に 7、8 年程度、2030 年に 5 年 程度を回収期間の目標としている。 図表3:エネファームの価格・普及台数の推移 普及台数 (台) 90,000 80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 303 エネファーム販売価格 298 71,805 260 (万円) 76,780 210 37,525 165 149 19,282 2,550 9,998 350 300 250 200 150 100 50 0 燃料電池自動車の特徴は、CO2(二酸化炭素) 出所:経済産業省「水素・燃料電池戦略ロードマップ」より当社作成 が低減できることに加えて、実航続距離が 500km 超と長く、燃料充填時間が 3 分程度と短いことなど。燃料電池自動車の普及には、燃料電池システム等のコ スト低減や、水素価格がガソリン車並みの燃料代となることが求められている。燃料電池システムの価格は、 2000 年頃の 1 億円超から 2015 年に 500 万円程度まで低減する見通しだが、依然としてユーザーの許容額を 超過していると考えられている。また、燃料電池自動車向け水素コストの約 6 割を水素ステーションの整備・ 運営費が占めており、現在の水素ステーションの整備費は一般的なガソリンスタンドの 1 億円に対し 4~5 億 円程度と非常に高額となっている。一方、整備費及び運営費を現在の半額程度まで低減できれば、商用展開す ることが可能なようだ。 フェーズ 2~3(水素発電の本格導入/大規模な水素供給システムの確立、トータルでの CO2 フ リー水素供給システムの確立) フェーズ 2~3 では、2030 年頃に水素発電の本格導入、2040 年頃に CO2 フリー水素の製造、輸送・貯蔵シス テムの確立をめざす。 水素発電は CO2 を排出しないため、水素製造時に CCS(CO2 の 回収・貯留)等の活用をすることなどで CO2 排出量を低減できれば、クリーンな発電が可能となる。また、海外の副生水素、原油随伴ガス、褐炭等の未利 用エネルギーを水素源とすることが可能であり、電源構成の新たな選択肢の広がりが期待される。 関連企業 銘柄名(コード) 大陽日酸(4091) コメント 移動式水素ステーションを開発。導入費を2~3億円に抑えられる。 JXホールディングス(5020) 15年度中に水素ステーションを40カ所整備する計画。 千代田化工建設(6366) 水素を常温常圧で液体にできる技術を持つ。輸送は既存タンカーを利用。 川崎重工業(7012) 安価な褐炭から水素を製造、極低温で液化する技術を持つ。専用タンカーが必要。 トヨタ自動車(7203) ミライは受注好調で、生産能力を17年頃に現在の4倍強の年3千台に増やす模様。 岩谷産業(8088) セブンイレブンと組み、コンビニに水素ステーションを設置する計画。 東京ガス(9531) 14年4月にエネファームが累計販売台数3万台へ。14年度の販売目標は1.6万台。 このレポートは投資の判断となる情報の提供を目的としたものです。銘柄の選択、投資の最終決定は、ご自身の判断でなさるようにお願い致し ます。なお、株式は値動きのある商品であるため、元本を保証するものではありません。
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