シェアエコノミー拡大は必然

シェアエコノミー拡大は必然
東レ経営研究所 産業経済調査部門
チーフエコノミスト 増田 貴司
人々の間で様々なモノの共有(シェア)を仲介するビジネスが台頭してきた。個人の空き部
屋をネットで仲介する米エアービーアンドビー、スマートフォン(スマホ)で好きな場所に一般ド
ライバーが運転する車を呼び目的地まで乗せてもらえる米ウーバーテクノロジーズなどのサ
ービスが、世界中で拡大している。
所有から共有に向かう消費行動が広がっている理由は、必ずしも人々が大量消費社会に
異を唱え、環境負荷低減につながるシェアを選ぶようになったからではない。背景には情報
技術の進歩がある。
インターネットとスマホの普及により、利用者の居場所の特定が容易になり、有効活用され
ていない資源(リソース)を共有して使う方法が編み出され、それを選択すればコストを削減で
きる仕組みができたことが大きな要因だ。つまり、価値観の変化というより、新たに登場した
魅力的な仕組みが合理的に選ばれた結果である。したがって、シェアエコノミーの成長は、一
過性のブームではなく、不可逆的な流れと考えられる。
シェアサービスが拡大し、空きリソースが活用されて稼働率が高まることは、社会全体の供
給力の増加につながる。人の空いている時間と使われていないモノを有効に活用することは、
人手不足問題の処方箋になりうる。五輪特需など短期的な需要急増に効率よく対処する手
段としても、シェアの活用は有望だ。
このようにシェアサービスは経済的メリットが大きく、米欧やアジアで普及しつつあるが、日
本では規制の壁が厚く、産業化が阻まれている。参入規制の緩和は、既得権益者との利害
衝突を引き起こすため簡単ではないが、新ビジネスの芽を摘むことのない、新たな規制の構
築が急務である。企業もシェアエコノミーの拡大に対応した事業戦略を練る必要があろう。
(本稿は、2015 年 9 月 2 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)
東レ経営研究所「エコノミスト・アナリストのコラム」