物流が競争力を決める時代 東レ経営研究所 産業経済調査部門 チーフエコノミスト 増田 貴司 企業経営における物流の重要性が高まっている。物流が単にモノを運ぶ作業ではなく、新 たな価値を生み出すものとして脚光を浴び始めた。市場が成熟し、商品自体での差別化が難 しくなる中、物流が競争優位を確立する切り札として注目されつつある。 大手家電量販店のヨドバシカメラは、大規模物流施設を持ち、自前の物流ネットワークでア マゾンよりも利便性の高い配送サービスを提供し、顧客の支持を集めている。 事業者向け工業用間接資材の通信販売会社 MonotaRO(モノタロウ)は、企業規模や購買 金額に関わらず、すべての顧客に同一価格で間接資材を販売する事業モデルで急成長して いるが、自前で構築した物流システムによる高速配送が同社の強みとなっている。 これらの事例は、必要なモノを、必要なだけ、必要な場所に、最適タイミングで正確に届け ることが、高い付加価値を生むことを示している。 あらゆるモノがネットにつながる IoT 時代の到来も、企業が物流を戦略的に考える動きを後 押ししている。モノの流れに関する膨大なデータを収集・蓄積し、解析することにより、物流オ ペレーションの効率化のみならず、自社が持つ顧客との接点に潜む価値を発見し、その価値 を活用した新サービスを創造することが可能になった。 製造業では、製品にセンサーを埋め込み、顧客に納品した後も製品利用関連のデータを 継続的に収集・解析し、メンテナンスや予防保全、マーケティング、新事業展開等に活用する 動きが見られる。 こうした攻めの物流戦略の遂行には、物流部門だけでなく経営企画や情報システム、マー ケティング部署等を巻き込んだ全社的な取り組みが不可欠である。経営戦略の一環として物 流を考えることが何より重要だ。 (本稿は、2016 年 4 月 1 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました) 東レ経営研究所「エコノミスト・アナリストのコラム」
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