5月29日実施分

11.35 酸性または塩基性条件下で(R)-2-メチルシクロヘキサ
ンノンのエノール化が起こる。エノールの状態では、
左の図中で赤字で示した酸素と3つの炭素は同一平
面上に存在し、キラリティーをもたない化合物になる。
参 考 :次に何かが反応するとキラルになる可能性のある状態に
あり、このような化合物をプロキラルな化合物と呼ぶ。
生成したエノールがもう一度ケト型に戻るとき、上
記の平面のどちら側から水素が結合するかは 50:50
の確率で起こる。従って、生成する 2-メチルシクロ
ヘキサンノンは(R)体と(S)体の等モル混合物(ラ
セミ混合物)となる。
11.37 改 アルドール縮合が起こるためには、カルボニル基のα位に酸性度の高い水素が無ければならない。下
の図では、赤字で示した水素がそれにあたる。青字で示した「ホルミル基の水素」は酸性度の高い水
素ではないことに注意。(e)は酸性度の高い水素はもっているが、生成するエノラートアニオンが大き
な立体障害(二つのメチル基に挟まれいる)をもつために他の分子への求核攻撃が起こりにくくなり、
ほとんどアルドール反応は起こらない。
(a)
(b)
(c)
(d)
(e)
(b)アルドール反応ならびにそれに続く縮合反応のメカニズムは以下のとおり。 ①強塩基であるヒドロキシアニオンによりシクロブタノンのカルボニル基のα水素が引き抜かれて
エノラートアニオンになる。 ②エノラートアニオンがもう一分子のシクロ
OH
O
O
ブタノンのカルボニル炭素に求核攻撃し、
O
H OH
C
C
H
C H OH
O
O
正四面体中間体を与える。 O
C
C
C
H
C
+ OH
H
③正四面体中間体のアルコキシドイオンが水 H
からプロトンを奪い、アルドール反応の生
成物を与える。 アルドール反応の生成物からは、以下のメカニズムにより水が脱離しアルドール縮合の生成物になる。 ④強塩基であるヒドロキシアニオンがカルボニル基
OH
O
O
O
のα水素を引き抜いて水が生成すると共にエノラ
OH
C H OH
C
C
+ OH
C
C
ートアニオンができる。 C
⑤エノラートイオンが隣接するヒドロキシ基(-OH 基)をヒドロキシアニオンとして追い出し、縮合
生成物になる。 O
O
(d)
H O
H
C
C
C
H
H
H
H OH
H H
O
O
OH
C
C
H
H
H H
H H
OH
O
O
H
O
C
C
C
H
H
H
OH
OH
C
C
C
H
H
H H
H
H H
H H
11.38 この問題では、いずれの化合物もα,β-不飽和カルボニル化合物が生成している。アルドール縮合で
はβ-ヒドロキシカルボニル化合物からの脱水によりα,β-不飽和カルボニル化合物ができるはずな
ので、まずは前段階のヒドロキシ化合物を考えてみる。すると、求核攻撃を受けた側のカルボニル化
合物と求核攻撃をした(即ち求核試薬となった)エノレートアニオンの構造が見えてくるはずである。
O
a)
H
-H2O
O
OH H
H
O
b)
O
O
-H2O
H
CH2
O
O
O
OH H
CH2
c)
O
H
-H2O
OH
O
H
d)
O
-H2O
O
H
O
O
H
H
H
H
O
H
O
HO
したがって、a)アセトフェノン b)アセトン c)ブタナール d)2-メチルシクロペンタノンのそ
れぞれについて、アルコール溶媒中、水酸化ナトリウムで処理してアルドール縮合を起こさせればよ
い。
11.41 講義で述べたように、マロン酸エステル合成は「置換基を有する酢酸誘導体」の合成法であり、エス
テルを直接合成できるわけではない。従って、この問題では
1)目的物を加水分解した形を考え、どの部分が酢酸誘導体かを見つける
2)マロン酸エステル合成によって導入されている置換基は何かを見つける
という方針で考える。
(a) 目的物はペンタン酸エチルなので、これを加水分解したペンタ
ン酸をマロン酸エステル合成用いて合成する。酢酸の構造と比較す
ると、ペンタン酸は酢酸の水素を一つプロピル基で置換した構造を
もっていることがわかる。即ち、途中でハロゲン化プロピル(例え
ば臭化プロピル)による SN2 反応を経由すればよい。
(b) 目的化合物は 3-メチルブタン酸エチルであり、これは 3-メチルブ
タン酸とエタノールから合成できる。3-メチルブタン酸の構造と酢酸
のそれを比べると、酢酸の水素を一つイソプロピル基で置換した構造
になっており、このイソプロピル基を導入することになる。
したがって、マロン酸エステル合成の過程で臭化イソ
プロピルを用いればよい。
(c)目的物である 2-メチルブタン酸エチルを加水分解して得られるカルボン酸の構造を酢酸と比べる
と、メチル基とエチル基の両方が導入されていることがわかる。従って、
1)ナトリウムエトキシドによる酸性プロトンの引き抜き
2)ヨウ化メチル(CH3-I)との SN2 反応
3)ナトリウムエトキシドによる二つ目の酸性プロトンの引き抜き
4)臭化エチル(CH3CH2-Br)による 2 回目の SN2 反応
5)加水分解と脱炭酸
6)エステル化
の各ステップで合成できる。
O
O
H
Et
O
H
OH