下水道協会誌 H26 年 9 月号掲載 管路施設の予防保全に向けた包括的民間委託の推進 -「包括的民間委託導入ガイドライン」の策定について- 国土交通省水管理・国土保全局 下水道管理指導室長 藤川 眞行 1.はじめに 国土交通省では、下水道管路施設における包括的民間委託に関し、平成 21 年 3 月に、 「下水道管路施設の包括的民間委託に関する報告書」を取りまとめ、 導入に向けた課題の整理を行うとともに、平成 24 年 4 月には、 「下水道管路施 設の維持管理における包括的民間委託の導入に関する報告書」を取りまとめ、 推奨すべき包括的民間委託スキームの整理を行ってきた。 このようなこともあり、管路施設の包括的民間委託(以下、単に「包括的民 間委託」という。)の導入事例については、まだ少ないとはいえ徐々に増えてき ており、また、導入に向け検討を始められている自治体は相当数にのぼると聞 いている。 このような状況にあって、国土交通省では、包括的民間委託に関する知識の 普及と地方公共団体での導入に向けた検討に資するため、平成 25 年度、 「下水 道管路施設の管理業務における民間活用手法導入に関する検討会」(座長:長 岡裕東京都市大学工学部教授)を設置し、調査検討を行ってきたが、より実践 的に、包括的民間委託を導入しようと考えている自治体に活用してもらうこと を念頭において、包括的民間委託導入の基本的な考え方や、検討すべき留意事 項等について整理した「下水道管路施設の管理業務における包括的民間委託導 入ガイドライン」(平成 26 年 6 月)を取りまとめた。 以下においては、まず、直近のデータも用い、予防保全型維持管理の必要性 や、包括的民間委託の意義等を再確認した上で、本ガイドラインの概要の説明 を行うこととする。 2.予防保全型維持管理の必要性と包括的民間委託の意義 (1)予防保全型維持管理の必要性 平成 24 年度末現在、全国の下水道普及率は約 76%に達し、管路施設の延長 は約 45 万 km、そのうち建設後 50 年以上が経過する管路施設は、全国で約1万 1 km となっているが、管路施設は、全国的に高度成長期以降に急激な整備が行わ れたこともあり、今後、老朽化施設の急増による下水道施設機能への影響が懸 念されている(図1参照)。また、下水管路に起因する道路陥没件数は、近年お よそ 4,000 から 6,000 件で推移しており、その対策についても急務となってい る(図2参照)。 出典:国土交通省 図1 管路施設の布設年度別整備延長 出典:国土交通省 図2 管路施設に起因する道路陥没件数 このような状況の中で、下水道管理者としての責務を遂行し、将来増加する 2 恐れのある下水道施設の機能停止や事故の発生、それに伴う改修費の増加等を 予防・抑制するためには、事後対応型維持管理に変えて、予防保全型維持管理 への転換を図る必要がある。(予防保全型維持管理への転換により想定される 効果については、表1参照、予防保全型と事後対応型の管路施設の維持管理費 の推移イメージについては、表2参照) 表1 区 サ ー ビ ス 水 準 迅速性 経営面注2) 予防保全型維持管理への転換により想定される効果 分 予防保全型維持管理 現状の維持管理 事故発生の防 止 管路施設の全体を計画的に調査 および問題がある場合は速やか な対応を図るため、事故発生の 防止が期待される注1)。 事後対応型であるため、事故発 生 防止 は難し いこ とが想定 さ れ、施設の老朽化と共に事故が 漸増するものと想定される。 苦情件数 予防保全型維持管理を継続する 事で、減少が想定される。 基本的には事後対応なので、漸 増が想定される。 計 画的な 施設 の概況 調査に よ り、広範囲に管きょの劣化抑制 が期待される。 苦情・事故等の発生時に当該箇 所を補修・修繕するため部分的 な劣化抑制に留まることが想定 される。 調査データの集積とりまとめに よる不具合発見に合わせた補 修作業等の迅速化・適正化。 原則として、調査業務、補修作 業等を行う業者が異なるため作 業の迅速化は困難。 中長期的な視点を含めた業務提 案を求めることにより、トータ ルコストの縮減や事業費の平準 化による管路施設のマネジメン ト効果の向上が期待できる。 単年契約のため、管路施設のマ ネジメント効果の向上が低いも のと想定される。 下水道施設経 年 劣化の度合い 補修作業等の 迅速化 注1)事故発生の防止が期待されるが、予防保全型維持管理導入後も、突発的な不具合等の発生による事後対応がな くなることは想定しにくく、予算措置上の留意が必要である。 注2)事後対応型から予防保全型維持管理へと切り替えることで、調査量等が増え、初期投資額は増えることが想定 される。しかしながら、その増額はこれまでほとんど実施されていなかった予防保全型維持管理に切り替えた影響 である。 出典:「下水道管路施設の管理業務における包括的民間委託導入ガイドライン」 (平成 26 年 6 月) 3 表2 予防保全型と事後対応型の管路施設の維持管理費の推移イメージ 事後対応型は、費用の急激 な増加に伴い、予算確保が 困難となることが想定 予防保全型は年度ごとの 費用増加が比較的なだらか 1000m当り維持管理費の割合(1サイクル75年間)_当初より予防保全型の維持管理を実施 1.20 予防保全型(単年) 事後対応型(単年) 予防保全型(累計) 事後対応型(累計) 0.030 0.025 0.020 1.00 0.80 当初より予防保全型の維持管理を実施 0.60 0.015 0.40 0.010 累計維持管理費の比率※ 単年維持管理費の比率※ 0.035 0.20 0.005 0.000 0.00 1 5 9 13 17 21 25 29 33 37 41 45 49 53 57 61 65 69 73 経過年数 ※維持管理費の比率は1サイクル 75 年の累計額を1とする 中長期的な費用は、 「事後対応型」>「予防保全型」 となることが想定される。 初期投資額は、 「予防保全型」>「事後対応型」 となるが、 注)図は、 「下水道維持管理指針 前篇 2003 年版 (社)日本下水道協会」に示される点検、調査等の 頻度を参考として予防保全型の維持管理費をシミュレーションしたもの。なお、維持管理費単価は、 人口規模 100 千人程度の自治体実績や、 「管路施設の計画的維持管理と財政的効果に関する調査報告 書 平成 7 年3月 建設省都市局下水道部」等を用いた。 出典:「下水道管路施設の管理業務における包括的民間委託導入ガイドライン」 (平成 26 年 6 月) 4 (2)包括的民間委託の意義 予防保全型維持管理は、巡視・点検・調査を定期的に実施するとともに、計 画的な補修・修繕等を行っていくものであり、その前提として維持管理計画を 策定することが必要である。 しかしながら、以前の調査によると、維持管理計画の策定率は約3割にとど まっており(ただし、この調査は計画内容を問わないものとなっている。)、現 状においては、予防保全の取組はなかなか進んでいない実態がある。 このような背景としては、必要な管路延長が年々増加する一方で、地方公 共団体の財政面の制約により、下水道施設の維持管理費は横ばいあるいは減 少傾向にあること(図3参照)、下水道部局の職員の削減が進んでいること (図4、5参照)が考えられるが、このような背景に鑑みると、なかなか一朝 一夕で問題が解決できるという状況にはない。 (700,000 600,000 2,500 (箇所) 2,000 500,000 400,000 1,500 300,000 1,000 200,000 500 100,000 0 0 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 処理場維持管理費(百万円) 出典:下水道統計(公社 図3 職 員 数 ( 千 人 ) 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 11.5 処理場数、管路延長および維持管理費の推移 11.5 11.7 11.4 11.3 技術職員(維持) 技術職員(建設) 事務職員 その他職員 11.3 10.8 14.6 12.4 6.5 14.2 12.3 6.4 日本下水道協会) 13.8 12.1 6 13.8 12.1 6 13.5 12.9 11.4 10.9 11.2 10.6 10.3 10 9.8 9.5 10.1 10.8 10.5 10 9.7 10 9.4 11.7 11.3 10.5 10.2 9.9 9.6 9.2 9.1 9 8.9 5.5 5.5 4.9 4.7 4.5 4.3 4.1 3.6 3.7 3.6 出典:下水道統計(公社 図4 全国の下水道部署正規職員数の推移 5 日本下水道協会) 出典:平成 23 年度版下水道統計(公社 図5 日本下水道協会) 都市規模別の下水道部署平均職員数 現状を少しでも改善していくためには、予防保全の取組は中長期的に見てト ータルコストを削減するという観点から、これまで以上に維持管理費を確保す ることがまず何よりも重要となるが、これに加え、予防保全の取組についてでき るだけコストを削減し効率的に実施していく方策を講じることも重要となる。 この点、包括的民間委託は、これまで直営又は個別に委託していた管理業務 をできるだけまとめて、複数年契約により、民間に委託するものであり、下水道 管理者の責務の下で、民間の創意工夫を活かしつつ、できるだけコストを削減し 効率的に業務を実施できる手法として、予防保全の取組の有力なツールになる と考えられる。 また、包括的民間委託の導入により、これまで専ら事故対応等に当たってい た職員を、経営戦略の策定や、接続促進・料金徴収等の行政の固有事務に重点配 置することも可能となる(例えば、包括的民間委託を導入された河内長野市は、 そのような対応をされているとのことである)。 (包括的民間委託の導入に関する全般的な効果については、表3参照) 6 表3 区 サ ー 準ビ ス 水 効 率 性 ・ 迅 速 性 経営面 包括的民間委託導入により想定される効果 分 下水道事務全般・ 住民サービス の質的向上 民間ノウハウの 活用 補修作業等の 迅速化 包括的民間委託 (複数業務・複数年契約) 現状の維持管理 (単一業務・単年契約) 委託者の発注事務の負担緩和に 伴う他業務(特にマネジメント 等)への傾注による下水道事務 全般および住民サービスの質 的向上が図られる。 包括的民間委託と比較して質的 向 上は 難しい こと が想定さ れ る。 自由度を持たせた発注内容によ り、民間ノウハウの活用による 業務の効率化・迅速化が期待さ れる。 詳細な条件設定(仕様)に伴い、 民間ノウハウの活用は困難。単 一業務において詳細な条件設定 (仕様)を行うため民間のノウハ ウを活用することは困難。 調査データの集積とりまとめに よる不具合発見に合わせた補 修作業等の迅速化・適正化。 原則として、調査業務、補修作 業等を行う業者が異なるため作 業の迅速化は困難。 業務の包括化に伴う経費削減※、 単年契約のため、包括的民間委 複数年契約に伴う、常時配置人 託と比較して、コスト縮減余地 員や資機材の効率的配置、車両 は狭いことが想定される。 等機材の長期レンタル等民間ノ ウハウによるコスト縮減余地の 拡大が期待される。 ※業務の包括化に伴う経費削減の観点からは、下水道管路施設のみでなく、状況に応じて下水処理場、ポンプ場との パッケージ化によって、さらに効果は高まることが期待される。 出典:「下水道管路施設の管理業務における包括的民間委託導入ガイドライン」 (平成 26 年 6 月) (以下の表において、同じ。 ) 3.包括的民間委託導入ガイドラインの概要 本ガイドラインは、より実践的に、包括的民間委託導入の基本的な考え方や 検討すべき留意事項等について整理したものであり、ぜひ、包括的民間委託を 検討しようとしている地方公共団体にご一読して頂きたい内容となっている。 ガイドラインの構成は、表4のとおりであり、第1章で、改めて、包括的民 間委託の意義や効果について説明した上で、第2章では、対象とする標準的な 業務や導入する際の事務的プロセス、第3章では、各プロセスにおける検討事 項、第4章では、その他の留意事項について解説を行っている。また、より実 践的に活用して頂けるように、参考資料として、具体的な導入事例、標準契約 書(例)、標準仕様書(例)を添付している。 7 表4 ガイドラインの構成 第1章 はじめに •本ガイドラインの作成の目的、包括的民間委託導入の意義と想定される効 果、ガイドラインの構成および用語の概要について記載している。 第2章 下水道管路施設の管理業務における包括的民間委託導入スキーム (案) •対象とする標準的な業務、業務の基本的な導入プロセス(案)、標準的な発 注手法、標準的な作業フロー(案)および発注時に必要な資料について記載 している。 第3章 下水道管路施設の管理業務における包括的民間委託導入時の検討事項 •包括的民間委託の導入に向けての起案から承認までのプロセスおよび承認か ら発注までのプロセスにおける検討事項について記載している。 第4章 その他の留意事項 •包括的民間委託の導入に関する留意事項として、管理業務以外のパッケージ 化および次世代の人材育成について記載している。 参考資料 •その他参考資料として、下水道管路施設の包括的民間委託導入事例、標準契 約書(例)および標準仕様書(例)等について記載している。 ガイドラインの詳細については、ガイドラインの本文に譲ることとするが、 イメージが湧くように、以下ではポイントだけを紹介する。 まず、包括的民間委託における標準的なパッケージ対象業務としては、表5 を想定し、そのフローとしては、表6を想定している。なお、これは飽くまで 標準的に考えられるイメージなので、地域の特性等に応じ、様々なバリエーシ ョンがあることを排除しているわけではない。 8 表5 管路施設の包括的民間委託における標準的なパッケージ対象業務 区 1)管理保全業務 ①計画的業務 ②問題解決業務 ③住民対応等 業務 分 備考 巡視・点検業務 調査業務(目視、TV カメラ、その他) 清掃 修繕(※) 維持管理情報の管理 次年度以降の維持管理業務の提案 下水道管路維持管理計画の見直し 不明水対策、悪臭対策等 事故対応(道路陥没、管路閉塞等) 住民対応(苦情を含む) 他工事等立会 基 本 パ ッ ケ ー ジ 定期清掃 計画的修繕 緊急清掃、緊急修繕等を含む 緊急清掃等を含む 2)災害対応業務 被災状況把握等 二次災害防止等緊急措置・対応 ※ここでの修繕は、日常的に発生する小規模の修繕工事を対象としており、大規模修繕工事や 改築工事は含んでいない。それらについては別途発注を検討することを想定している。 必 要 に 応 じ て 追 加 表6 管路施設の包括的民間委託における標準的なパッケージ・フロー 下水道施設管理目標 管路施設の維持管理業務の 標準的なパッケージ化(案) 下水道台帳 管路施設 改築計画 下水道管路維持管理計画 管路維持管理情報 管理保全業務(定型・平常業務) (③住民対応等業務) 他工事 等立会 事故 対応 巡視・ 点検 問題解決 調査等 住民 対応 清掃 調査*1 (目視等) *1 スクリーニング調査等 による絞込みを想定 現状把握、緊急措置 判断 *2 小規模な修繕 工事を想定 (派生的業務) 調査 (TVカメラ等) その他計画的 な対応が必要 災害対応業務 (①計画的業務) (②問題解決業務) その他 調査等 清掃 修繕*2 被災状況把握等 二次災害防止等 緊急措置・対応 応急措置等 調査方針等検討 被災状況調査 (一次・二次) 判断 判断 修繕 改築 ※大規模な修繕工事 も本スキームには 含んでいない。 維持管理情報 の管理 観察 維持 その他 措置 次年度以降の 維持管理業務の提案 下水道管路維持管理計画 の見直し 凡例 復旧等 観察 維持 ①計画的業務 ②問題解決業務 ③住民対応等業務 災害対応業務 9 また、包括的民間委託のプロセスについては、表7のプロセスを想定し、そ れぞれのプロセスごとに検討事項について解説を行っている。 表7 業務の基本的な導入プロセス(案) 1.導入準備 •①維持管理方針の検討 •②委託者による施設情報の確認 •③受託者選定要項等の作成 •④予算の確保、債務負担行為の設定 2.受託者の選定 •①公告 •②参加申請受付・資格審査 •③受託者選定要項の配布 •④現地見学会 •⑤受託者選定要項に関する質疑応答 •⑥民間事業者による提案書の作成 •⑦提案書の審査 •⑧入札・受託者の選定 契約締結 3.業務の準備・実施 •①引継(業務準備期間) •②受託者による業務の実施 4.完了 •①受託者から提出された業務完了時の提出図書の確認 •②契約満了 5.事業効果の確認・評価 次に、受託者選定方式については、選定方式の特徴を表8のように整理し、 総合評価一般競争入札方式、公募型プロポーザル方式について検討することを 基本とし、これらの手続きの解説を行っている。 10 表8 受託者選定方式の特徴 方式 特徴 一般 競争入札 指名 競争入札 総合評価 一般競争入札 公募型 プロポーザル 無 無 有 有 費用 重視 技術能力 重視 技術提案 さらに、包括的民間委託については、民間事業者の方に創意工夫を最大限発揮 して頂けるような措置を取ることが重要になるが、民間事業者のインセンティ ブ確保を目指した対応として、表9のような方針を示すとともに、委託期間完了 時の評価について、表 10 のような視点を示している。 表9 民間事業者のインセンティブ確保を目指した委託の設定方針(案) 区分 設定方針(案) ○ 受託者選定時の技術審査実施および最低価格の設定。 ○ ユーティリティを対象とした物価変動に伴う精算条項規定の設定。 発注時 ○ 引継ぎの費用負担の明確化と積算費用としての計上。 ○ 引継ぎの委託者主導化および立会いの義務化。 ○ 官民双方のメリットが得られるよう、委託費の適正化。 委託期間終了時 ○ 競争性も考慮した優良受託者の業務継続化に向けた検討。 11 表 10 委託期間完了時の評価の視点(例) 項目 評価の視点 受託者へのインセンティブの確保 対象業務について、受託者へのインセンティブが適切に与えら れていたか確認を行う。 維持管理の効率化・適正化 受託者の創意工夫により、維持管理の効率化・適正化が図られ ているか検証を行う。 コスト縮減効果 複数業務のパッケージ化等による効果を検証する。また、評価 時期に応じて、予防保全型維持管理の導入に伴うコスト縮減効果 ※ を検証する。 ※予防保全型の維持管理の導入に伴うコスト縮減効果は、導入初期のコスト増加 が想定されるため、当該施設の予防保全型の維持管理の実施期間を考慮した 中長期的なスパンでの検証が必要である。 下水道使用者への サービスの維持・向上 管路の閉塞、悪臭・騒音・振動に関する苦情件数※、あるいは苦 情等に対する対応時間等の調査等によって、下水道使用者への サービスの維持、または向上の度合を検証する。 ※ただし、苦情件数は、管理レベル、情報公開レベル等によっては評価が困難と なる恐れがあり、一定期間同一レベルでの試行を行った後の評価とする等の 配慮も必要である。 4.おわりに ガイドラインの概要については以上のとおりであるが、包括的委託の適切な 推進を図るためには、私見にわたるが、次のようなことがポイントになるのでは ないかと考えている。 ① 包括的民間委託は、予防保全を目指すための制度であり、予算の適切な 確保を図るためにも、市民の方々、議会の方々等にその目的や具体的効果 を分かりやすく示すことが何より重要である。 ② 導入に当たっては、いきなり理想形の導入を目指し、導入に二の足を踏 むのではなく、できることから徐々に手がけていくことが大切である。例 えば必要な基礎的データの収集を先行して行ったり、エリア・業務を区切 って段階的に運用していくとか、戦略的な視点を持って臨むことが必要で ある。 ③ そして、行政と委託企業との業務分担を適切に設定することも重要であ 12 る。下水道管理者には、下水道法にあるとおり国民の健康や安全等を守る ため水道法にはないような様々な公権力の行使権限と、その裏返しとして の責任が付与されている。それを前提に業務分担、リスク分担をしっかり と決める必要がある。 ④ また、民間の創意工夫を業務に反映させる方策については、処理場と 管路は施設の特性が異なるため、ある程度のデータの蓄積を待たないと 性能発注を本格的に導入することは難しいとも考えられるが、例えば、 事業者からのプロポーザル提案や業務の実施過程での協議等により業務 内容を見直すことを含め、民間の創意工夫を積極的に取り入れていくこ とも重要である。 最後になるが、予防保全の取組を着実に進めていくためには、所要の予算を確 保することが重要なことは言うまでもない。国土交通省においては、引き続き下 水道長寿命化支援制度を実施しているとともに(平成 25 年度から、改築の補助 については、長寿命化計画に位置づけられたものに限定)、平成 26 年度におい ては、下水道老朽管の緊急改築推進事業について、面的に支援できるよう事業の 拡充を行った。 今後とも、所要の予算の確保に引き続き努力するとともに、包括的民間委託に 関する普及啓発について、自治体の方々の声に耳を傾けながら取り組んで参り たい。 13
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