名古屋港管理組合の持続可能な維持管理に向けた取組み

特集 社会資本の戦略的な維持管理−メンテナンスを支えるさまざまな取組み−
名古屋港管理組合の持続可能な維持管理に向けた取組み
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ぐち
てつ
じ
野 口 哲 史*
名古屋港管理組合では、計画的な維持管理を目指して港湾施設、海岸施設、賑わいの諸施設などの維持
管理計画書を作成し、点検・診断、評価を行っている。そして、施設の老朽化が急速に進む中で持続可能
な維持管理を進めるため「港湾施設等アセットマネジメント推進計画」を策定し取組みを始めた。本稿で
は、その取組みを紹介する。
1.はじめに
2.これまでの取組み
名古屋港は、4市1村(名古屋市・東海市・知多
名古屋港管理組合において(国が作成した国有港
市・弥富市・飛島村)にわたる広大な陸域(4,216
湾施設を含む)維持管理計画書を作成した施設は、
万㎡)と水域(8,184万㎡)を有する総合港湾であり、
岸壁、護岸、防波堤、橋梁、道路などの土木施設、
平成26年度の総取扱貨物量は、2億762万トンと
上屋や親しまれる諸施設などの建築物、水門、こう
13年連続、貿易黒字額は5兆6,583億円と17年連
門などの機械設備、受電所などの電気設備である。
続日本一を記録している。
これらの施設の点検診断の結果、性能の低下また
名古屋港管理組合は、自動車、工作機械、航空宇
宙産業などの中部圏の世界的なものづくり産業を物
は劣化している施設の割合は、平成27年4月現在
51%となっている(図-2)。
流面で支え、安全で快適な県・市民の暮らしを支え
るため、名古屋港の港湾施設をはじめ防災施設及び
性能が低下、
劣化している施設
51%
親しまれる諸施設(以下、
「港湾施設等」という)
の計画、整備、管理を行っている。
港湾施設等の老朽化が今後急速に進むことは、名
古屋港においても例外ではなく、厳しい財政状況が
性能の低下、
劣化がない
またはほとんど
ない施設
49%
今後も予測される中で港湾施設等の機能を確保しつ
つ維持補修を進める必要がある(図-1)
。
平成 27 年度
建設後50年
以上の施設
34%
建設後50年
未満の施設
66%
平成 37 年度
10年後
建設後50年
未満の施設 建設後50年
43%
以上の施設
57%
図-1 建設後 50 年を経過する施設の割合
*名古屋港管理組合 建設部 維持管理推進担当課長 052-384-4821
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図-2 施設の点検診断結果
これまでも特に劣化等が著しく重要な施設から交
付金事業などで計画的な維持補修を進めているが、
名古屋港管理組合の維持管理計画においての補修の
目標である、建設当初の性能までの回復と長寿命化
のための維持補修を行う場合には、現状を大幅に上
回る維持補修費用と長期の工事期間が必要な状況で
ある。
3.港湾施設等アセットマネジメント推進計画
厳しい財政状況の中で、港湾施設等の安全性・利
⑵ 取組みの内容
①維持管理の分類
便性の確保と長寿命化を図り、資産全体の効用を高
港湾施設等の機能と重要度などから指標を設定
めるため、平成28年3月に港湾施設等アセットマ
するとともに検討フローを作成し、「計画的な維
ネジメント推進計画を策定した。
持管理を行う施設」と「応急的な維持管理を行う
その取組みは、施設の維持管理の方法を分類する
ことと、補修の優先順序と補修内容を決めることに
おいて合理的かつシステマチックに選定する仕組み
施設」に分類する(表-1)。
②補修の優先順序と内容
港湾施設等の点検診断の項目から施設構造上の
安全性と長寿命化に重要な部材、装置を指標とし
を構築することである。
この計画は、維持管理計画における総合評価の行
て設定する。
政的判断に基づく評価として位置づけ、取組みのア
指標と劣化度を序列化もしくは点数化すること
ウトプットは、個々の施設の維持管理計画の補修計
で、施設の種別ごとに補修の優先順序を決める。
補修の内容と対象範囲は、補修の優先順序を決
画に反映させている。
策定にあたっては、計画、経理、管理に関わる部
署の係長級を中心とする庁内ワーキンググループを
つくり、指標や検討フロー、アウトプットの検証な
定する部材、装置の維持管理上の限界まで劣化が
進んでいる区域、個所のみとする(表-2)。
⑶ 管理の目標
維持管理の分類において「計画的な維持管理を行
どを行った。
う施設」は、施設を構成する重要な部材、装置が維
⑴ 取組みの目標
港湾施設等の利便性、安全性、資産の効用などを
持管理上の限界を下回らないよう補修箇所を選定し
踏まえて、以下の目標を達成できる仕組みを構築す
て実施することで、計画的な維持管理の性能を確保
ることを目標としている。
する。
⃝施設の必要な機能と性能の確保、維持すること。
⃝名古屋港管理組合の財政規模で施設の補修を持
続的に進められること。
表-1 維持管理の分類
分
類
計画的な
維持管理を
行う施設
応急的な
補修を
行う施設
細
目
内
容
予防保全型
(Ⅰ)
施設の損傷劣化が軽微な段階で小規模な対策を繰り返して行うことにより、供
用期間中の要求性能が満たされるように性能の低下を防止する。
予防保全型
(Ⅱ)
施設を構成する重要な部材を予防保全型の維持管理とし、付帯設備について
は、応急的な補修を行う施設の復旧型(Ⅱ)の対応を行う。
予防保全型
(Ⅲ)
施設のうち、対象となる一部の区間を予防保全型の維持管理とし、その他の区
間は、応急的な補修を行う施設の復旧型(Ⅱ)の対応を行う。
事後保全型
施設の損傷劣化に起因する性能低下をある程度許容し、供用期間中 1-2 回の大
規模な対策を行うことにより、供用期間中の要求性能が満たされるように性能
の低下を防止する。
復旧型
(Ⅰ)
施設の部材や装置が機能を失ってから、要求性能を満たすよう対処する。
復旧型
(Ⅱ)
施設の要求性能が満たされなくなったときに、施設の機能を見直し、必要な機
能に対応する部材や装置が要求性能を満たすよう対処する。
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表-2 補修の優先順序と内容
施設の分類
補修の内容等
補修の
優先順序
補修
方法
対象
範囲
補修の
内容
その他
計画的な維持管理を行う施設
応急的な補修を
岸壁・桟橋・物揚場、護岸・防
潮壁・防波堤・廃棄物埋立護岸、
橋梁、道路、浮桟橋・係船浮標
建築物、ポンプ設備、水門・こ
う門、防潮扉、船舶、受変電設
備、中央監視設備、静止型電源
設備、発電設備
安全性及び長寿命化の重要
度を踏まえて指標を順序付
け、順序の高い指標の老朽
化が進行している施設から
補修する。
重要度と老朽化の進行度か
ら指標を点数化し、その点
数の高い施設、設備から補
修する。
日常点検や定期点検等により老朽化または施設
の利用上の支障となる不具合、その予兆が発見さ
れ、利用に大きな支障がある施設、設備から対処
する。
補修の優先順序を決定する指標の部材、装置を補修し、計
画的な維持管理を行うための性能を確保する。
部品の取換、部分的な補修等、要求性能を満たす
よう対処する。
補修方法の部材、装置の老朽化が進んでいる区域、個所と
する。
利用上の支障となる不具合、その兆候がある区
域、個所とする。
附帯設備に相当する部材、装置は、老朽化が顕著となった
際に事後保全型の補修または、復旧型の補修を行う。
復旧型(Ⅱ)の施設は、施設の要求性能が満たさ
れなくなったときに、施設の機能を見直し、必要
な機能に対応する部材や装置が要求性能を満た
すよう対処する。
行う施設
「応急的な補修を行う施設」は、施設の機能を見
また、取組みの指標と補修のデータを反映させ、
直し必要な機能に対応する部材や装置が要求性能を
補修の分類、補修の優先順序と取組みの内容を毎年
満たすよう対処し、必要に応じて応急的措置、緊急
更新していくことにより進行の管理を行う(図-4)。
的措置により対応する。
PLAN
供用期間と部材の性能の関係を、図-3に示す。
・維持管理の分類
・補修の考え方
・補修計画
ACTI ON
性
能 当初の性能
これまでの維持管理計画の補修計画
性能が十分に
保持されている状態
・進捗状況の評価検証を踏
まえて今後の取組み方針
を適宜見直し
(維持管理上の限界)
性能が低下して
いる状態
本計画の計画的な
維持管理を行う施設の性能
DO
・必要な補修工事の実施
(単独事業、交付金事業等)
CHECK
・維持管理の分類
・補修進捗状況確認
・定期点検診断
・アセットマネジメントの評価
・進捗状況の評価検証
性能の低下がほとんど
認められない状態
設定
更新
蓄積
図-4 PDCA サイクル
(要求性能上の限界)
性能が相当低下して
いる状態
本計画の応急的な
補修を行う施設の性能
供用期間
図-3 供用期間と部材の性能の関係(予防保全型)
5.おわりに
名古屋港管理組合は、港湾施設等の維持管理体制
を強化しこの計画を円滑に進めるため、平成28年
度から技術管理課に維持管理推進室を設置した。
⑷ 老朽化が進む港湾施設等の対応
ライフサイクルコストの低減、港湾施設等の残存
来にわたり必要な機能を発揮して安全に使用できる
耐力、各年の維持補修費用、平準化の面から比較検
ようにし、次の世代に引き継いでいきたいと考えて
討を行った結果、老朽化により性能の低下が進んで
いる。
いる港湾施設等の補修を、平成28年度から平成37
年度の10年間で進めていくこととした。
4.今後の進め方
この取組みに沿って、港湾施設の性能等の回復を
計画的に進め、その後は予防保全的な維持管理に転
換を図っていく。
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諸先輩方がこれまで整備してきた港湾施設等を将
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取組みを進めていくなかで、維持管理の分類や補
修の優先順序の結果などが施設の実情に即していな
い場合には、その要因を整理し、ひとつひとつ改善
を行っていきたい。