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【解答のヒント】
今回話題となっているのは、「宿題代行サービス」です。宿題代行サービスとは、読書感
想文や自由研究などの宿題を業者が有料で丸ごと請け負うサービスのことで、ホームペー
ジなどを介して注文が相次いでいることが紹介されています。また、
「塾に通う子供の負担
を減らしたかった」という利用者の声や、「宿題は本人がやるべきだ」という塾講師や文部
科学省の意見が述べられています。
課題文の内容を掘り下げて考える
小論文を書くにあたっては、まず課題文を読んで自分なりに「問題」を見つけ出す必要が
あります。私はこの課題文を読んで、「宿題代行サービスには問題がある」と感じました。
そこで、その「問題」とは具体的に何なのか、考えていくことにします。まずは課題文を読
んで「疑問」を整理し、その「答え」を考えることで、内容を掘り下げていきたいと思いま
す。
課題文を読んでまず考えたのは、
「宿題は何のために存在するのか」ということです。第
一の目的は、
「指導内容を身につけさせるため」であると言えます。さらに、夏休みの宿題
は「計画を立てて期限内に課題を終わらせる訓練」になると言えますし、読書感想文や自由
研究などは、
「子供たちが自然科学や歴史、文学に親しむきっかけになる」といった側面も
あるでしょう。このような視点から「宿題」と「宿題代行サービス」を考えると、「宿題代
行サービス」の「問題」が浮びあがってきます。「宿題代行サービス」は宿題の目的を無視
し、子供たちが宿題を通して学ぶ機会を奪っていることになるのです。
しかし、これだけでは、「塾の宿題で学習内容の定着や期限内に終わらせる訓練はできて
いる」といった子供や、
「キャンプや日々の読書でそのような体験はできている」という子
供は宿題代行サービスに任せてもいいのか、ということになってしまいます。「宿題代行サ
ービス」の問題を論じるには、
「宿題の意義」だけでなく、
「宿題代行サービスとは何か」と
いうことも深く掘り下げて考える必要がありそうです。
そこで、いったん視点を変えて、
「宿題代行サービスが利用されだした背景にはどんな原
因があるのか」について考えてみましょう。課題文にあるような「塾通いをする子供が増え
たこと」や「共働きの親が増えたこと」というのも理由の一つではありますが、それだけな
らば、「子供同士が協力して宿題をやる」、「塾で宿題についてのアドバイスを受ける」とい
った方法でもなんとかなりそうです。
そうではなく、「業者に依頼する」という選択肢が積極的に選ばれるとき、そこには「お
金を払って解決してしまった方が楽だ」という考え方が少なからず影響していると思われ
ます。そしてそれは、「お金があれば何でも解決できる」という考え方につながることにな
りかねません。たしかに、宿題ならばお金を払って解決することができるかもしれません。
しかし、世の中の様々な問題を考えたとき、金銭だけで解決できる問題は多くありません。
友人と喧嘩をしたときに謝るかわりにお金を渡したら、馬鹿にしたといって余計に相手を
怒らせるかもしれませんし、お金を払ったからといって、科学技術で可能な範囲をこえて砂
漠化を食い止めたり、絶滅した動物を蘇らせたりすることはできません。
教育の目的には、このようなはっきりと答えのでない問題に向き合い、自分の力で答えを
探す力を養うことも含まれます。しかし、現状は全くの逆で、教育の現場で「面倒なことは
お金を払って他人に任せてしまえばいい」という考え方が広まりつつあるのではないでし
ょうか。このままでは、物事を自分で考えようとせず、面倒なことは他人に任せてしまえば
いいという人間が日本中にあふれることになってしまいます。これは日本社会全体にとっ
ても大きな損失となるでしょう。
以上から、「宿題代行サービス」は、表面的な「宿題の意義を見失ってしまう」という問
題だけでなく、「日本社会全体の損失」につながるような大きな問題もはらんでいると考え
られます。
反論を考える
しかし、ただ「問題」を挙げるだけではまだ論として弱いと言えます。そこで、これらの
「問題」に対して考えうる「反論」を挙げて、それに「再反論」を行うことで自身の論をよ
り説得力のあるものにしていきたいと思います。
今回の解答例では、「学校の宿題の出し方に問題がある」という「反論」を考えました。
現在の学校の宿題の出し方は、子供たちの学力差を考えずに大量の宿題を出すといったも
のが多く、子供たちのためになっていないという意見です。たしかに、宿題の出し方には問
題があるかもしれません、しかし、お金を払って宿題を業者に任せても、「宿題の出し方が
悪い」という問題の根本的な解決にはなっていません。「宿題の出し方が悪いというのなら
ば、宿題代行のサービスに頼るのではなく、宿題のよりよい出し方を探していくべきである」
という「再反論」を行いました。
今後どうするべきか?
では、よりよい宿題の出し方とはどのようなものでしょうか。単純に現在問題とされてい
ることの逆を挙げれば、
「学力差を考慮した」、
「ただ大量に出すだけではない」宿題である
と言えます。これらをさらに具体的に考えていきましょう。
まず「学力差を考慮した」宿題ですが、これは「子供たちが自身の意欲や理解度によって
複数の段階から選べるもの」というのを考えました。解答例には書きませんでしたが、「塾
の宿題や市販のドリルで同等かそれ以上の量や質のものをこなした場合も宿題をやったと
みなす」なども考えられます。
次に「ただ大量に出すだけではない宿題」です。これはいろいろなものが考えられますが、
解答例では「きっかけやヒントを与えたうえで生徒に考えさせる宿題」と捉えて、「授業や
地域の施設で、きっかけやヒントを提供する」というアプローチを考えました。
最後に、「子供たちの将来を考えるなら、安易に宿題代行サービスに頼らずに、宿題のあ
り方を見直すべきだ」という結論を述べて最終段落のまとめとしました。
終わりに
みなさんは今回の課題文を読んでどのように考えたでしょうか。なかなか考えがまとま
らなくて悩んだ人もいるかと思います。しかし、そのように「考え続ける」姿勢こそ大切で
す。小論文もまた、誰かに「代行」してもらっては意味のないものです。今回の講座が、自
分の力でやり遂げることの意義をもう一度見つめ直す機会になればと思います。
(敦賀薫)