JOMF NEWS LETTER 【新連載】 第1回 : No.254 (2015.3) ベトナムでの出産 数々の不安、どこで産むかのチョイス 海外出産・育児コンサルタント Care the World 代表 ノーラ・コーリ 近年、日本企業のベトナムへの進出に伴い、日本人のベトナムへの駐在は増えてい ます。以前は単身赴任者が多かったのですが、最近の傾向では小さなお子さんを連れての 家族帯同が目立ちます。そのことから現地で妊娠し、出産を迎え、赤ちゃんを育てる家族 が増えてきました。それに対応するために日本人向けのサービスを提供する医療機関も増 えてきました。 それでもベトナムの医療はまだまだ信頼度が低いため、そこをどのように乗り越え るかが課題として残ります。今回のシリーズでは筆者の見てきたベトナムを通し、また現 地で出産、子育てをされている日本人の皆様のインタビューをもとにベトナムでの出産と 子育てに焦点をあててシリーズを進めていきます。 【 数々の不安 】 妊娠がわかった段階で、多くの方が一度はベトナムでの出産を検討するようです。 それと共に数々の不安にぶつかります。確かに国立病院の実態を外から見ると設備面でも 衛生面でも不安が生じるのも無理はないと思います。日本人からすればそれは野戦病院の ように映るからです。ことばの面においても、入院中、薬を出されてもいつどのくらい飲 むのかわからず不安だったという声もあがっていました。そうなりますとある程度ベトナ ム語が要求されるのではないだろうかという不安もでてくるでしょう。 しかし、現地で実際にお産を経験された日本人の方々は、ハイリスクでなく、妊娠 も順調で異常が起こる可能性が低ければ、ベトナムでのお産は可能だと語っています。そ れは日本人のような外国人、また現地の人たちでも富裕層の人たちは国立病院を選ばず、 私立の総合病院で産むという選択肢があるからだと思います。これらの病院はある程度の 国際基準をクリアしています。詳しくは出産のチョイスの項目で説明しますが、基本的に はお産にまつわるほとんどの問題に対応できる体制が整えられています。 それでもお産においては何も起こらないという保障はないだけに、万が一何かが起 こった場合のことを考えると不安は拭い去れないのだと思います。そのため、ある程度は 覚悟をし、万が一何かが起きた場合にはどのような対応策があるのかを事前に調べ、心の 準備をしておくことが大切でしょう。 【 出産のチョイス 】 それでは具体的にベトナムで妊娠した場合、どのような出産のチョイスがあるので JOMF NEWS LETTER No.254 (2015.3) しょうか。大まかに分けると、 1.日本で産む 2.近隣諸国で産む 3.ベトナムで産む といった三つのチョイスにしぼられます。その中でもベトナムで産む場合はさらに チョイスが増え、国立の産婦人科を専門とする病院で産むか、あるいは外国人や現地の人 でも富裕層を対象とした私立の総合病院で産むかとなります。それではそれぞれにおいて どのような配慮が必要かを考えてみましょう。 日本で産む : 自分が慣れ親しんだ国、日本語が通じる国、医療面でも安心できる国で出産するに越した ことはないでしょう。衛生面での不安からも解放されるでしょう。上に小さなお子さんがいる場合 は、家族や親戚の助けが得られるでしょう。日本のご家族もそれがベストチョイスと勧めることで しょう。そのため、妊娠中はベトナムの外国人が多くかかるクリニックで検診を受け、その後、お 産が近づいたら帰国し、日本で出産し、赤ちゃんが 3 か月ほどたった段階で再びベトナムに戻る というケースをたどります。特に初産の方、合併症がある方、ハイリスクと診断された方、ベトナ ムの生活にまだ慣れていない方には日本での出産を現地に住む日本人の方々は勧めていまし た。 ただし、帰国出産の場合、長ければ夫と半年近く離れ離れに暮らさなくてはならないという 欠点があります。せっかく新しい家族のメンバーを迎えるのに感動的なひとこまひとこまをあまり 共有できないかもしれません。臨月近くで帰国する場合、日本の病院側では妊婦の妊娠経過を 診てきていないだけに、責任を取りたくないため、病院での入院予約をためらうところもあります。 さらに臨月近くになっての飛行機での移動はリスクも伴いますし、ベトナムに小さな赤ちゃんを連 れて帰るにしても、荷物も多く、場合によっては大人が二人必要な状況もでてきます。上に子ど もがいれば、長いこと学校なり幼稚園なりを休ませなくてはならないでしょう。 このような点を見ていきますと、ベトナムでの通常の生活を維持しながら、夫婦でお産を迎 え、二人でなんとか乗り切る現地でのお産を選択する方々がいることも納得できます。 近隣諸国で産む : ベトナムでの出産は不安だが、日本までは遠い、となるとシンガポールやタイのバ ンコクに出向いての出産があがりました。確かにこれらの国においては医療レベルが高く、 ベトナムより衛生面や設備が整っていて、さらに日本人への対応が行き届いているという 安心感があります。なによりも日本に行くより距離的に近いというのが魅力でしょう。 ただし、勝手のわからない土地で長ければ 2 か月弱のホテル暮らしあるいは長期滞 在型のアパート暮らしは落ち着かないものです。上に子どもがいる場合、友達もおらず退 屈してしまいます。さらに生まれてすぐパスポートの作成手続きなど夫のサポートなしで はこなせません。そのため、最近では選ぶ人は限られています。 JOMF NEWS LETTER No.254 (2015.3) ベトナムで産む : 私立の総合病院の場合 ハノイやホーチミンにおける私立の総合病院は目を見張るものがあります。外観からして も大理石のフロア、ホテルを思わせるロビーの内装、受付のスタッフは患者のサービスに徹し、 対応も丁寧で、ほとんどのスタッフに英語が通じます。医療機器においては国際基準をクリアし たものが設置され、医療検査機器も最新なものが完備されています。未熟児のための保育器も 完備され、緊急事態に対応できる体制もできています。家族が希望すれば、バンコクやシ ンガポールなどの近隣諸国へヘリコプターで移動することもアレンジできます。衛生面で の管理も行き届いており、きれいで快適です。院内感染にも細心の注意が図られていることを強 調していました。これらの一定水準の医療サービスが保たれているのもこれらの病院で欧米人 が主体となって管理、運営が任されているからだという印象を受けました。 医師に関しても、技術面での自信を誇り、英語での対応を含む外国人患者に対して の応対にも慣れています。このような病院に勤める医師はベトナム人であったり、外国人 であったりする場合もありますが、いずれにしろ先進国でのトレーニングを受けている医 師がほとんどです。看護師を含む医療スタッフにおいても多くは英語を話し、外国人に慣 れた人たちが配属されています。ことばにおいては日本語サービスを提供しているところ もあります。私が視察した病院では流暢な日本語を話すベトナム人の看護師が病院を案内 してくれました。 出産においては自由に体位を選べるようです。自然分娩が優先されますが、異常が 予測される場合はリスクを取るよりは安全性を重視するとのことでした。そのため、帝王 切開などの医療の介入度が高くなる可能性はなきにしもあら ずであることは覚えておくとよいでしょう。また、入院に関 してもこれらの病院は個室か二人部屋をあてがわれます。入 院中は食事も出ます。 ただし、サービスがよい分、それなりの料金設定であ ることは免れません。病院によっては特別な料金設定を外国 人に設けているところもあります。それでも外国人として特 別な待遇を受けられるのであれば、コストにおいても納得す ると思います。 なお、妊娠中の検診は外国人が通う日本語が通じるク リニックで行い、出産だけこれらの病院にお世話になるとい うことも可能です。 Photo by Nora Kohri ショッピングモールを思わせるような豪華な吹き抜けのある病院のロビー 国立の総合病院 および 国立の産婦人科専門病院の場合 日本人で国立の病院で産む人たちは割合からすると、まだまだ少ないと言えます。 しかし、まったく存在しないというわけではありません。ベトナム人と結婚された方やベ JOMF NEWS LETTER No.254 (2015.3) トナムでの暮らしが長く現地の事情にも慣れ親しみ、ベトナム語に不自由のない方々がこ れらの病院で出産していました。これらの病院ではベトナム語が主なため、通訳を連れて 通院されていた方もいました。中には日本語ができる助産師がその病院に勤務していたた めにあえて国立病院を選んだ方もいました。 これらの病院は現地の一般の人たちが利用していることから混雑は避けられません。 診察室や検査室でのプライバシーも期待できませんから、それなりの勇気と忍耐力が求め られるかもしれません。ただし、国が資金を投じているため、設備はそれなりに揃ってい て、医師の技術レベルも高いという評判です。特に外国人患者には院長、副院長クラスの ドクターが自ら対応してくれるなどの配慮がみられます。そうでなくとも英語のわかる主 任クラスの医師が担当してくれます。これらの多くのドクターはシンガポールなどの先進 国で研修を受けているそうです。 入院においても日本人は外国人用の特別室 があてがわれたり、特別病棟を利用したりするこ とができます。これらの病院を利用することはベ トナムで優秀とされるドクターにかかることがで き、かつ費用を低く抑えられることがなによりも の利点でしょう。 Photo by Nora Kohri 待合室は患者とその家族でいっぱい 【 どこで産むかは自分たちのチョイス 】 どこで産んだらよいのかという迷いは避けられません。しかし、どこを選んだとし てもそれなりの苦労はあります。どこがベストだったかは結果論でしかないかもしれませ ん。そのため、大切なことは、自分たちにとって何が一番大切かということをよく吟味し、 納得した上で出産する場所を選び、選んだらその結果がどうであろうと後悔しないことだ と思います。 ベトナムで産んだ方々の多くは夫と出産を共感したかったからベトナムでの出産を 選んだと語っていました。他には生活の場を変えなくて済んだ、上の子がいる場合は学校 を続けていけた、産後の手伝いがあった、費用が安く済んだなどの理由が上がっていまし た。出産を迎える季節によっては日本の寒い冬よりは暖かいホーチミンの方が赤ちゃんに やさしいかもしれません。 ベトナムで産む場合の心得としてはわからないことはなんでも医師なり看護師に質 問し、不安をなるべく早くクリアさせるようにとのことでした。不安をかかえたままです と不信感が膨らむだけだからだそうです。また、ドクターとの信頼関係を結ぶことは大切 であると語っていました。それは万が一何か起きた場合でも信頼していれば、任せられる ので、それが現地での出産への安心感に通じるからだと現地で出産体験をされた方々は話 していました。また必ずしも英語が通じない場合もあるので、ある程度はベトナム語が話 せるようにというアドバイスがあがっていました。 次回はベトナムでの公立病院の実態、妊娠中の過ごし方、お産に向けての準備につ いてお伝えします。
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