(16)休養を決心できない

JOMF NEWS LETTER
No.244 (2014.5)
海外メンタルヘルスの現場からⅡ
(16)休養を決心できない
シンガポール日本人会クリニック
医師
日暮
真由美
うつ病や適応障害と診断し、仕事をしばらく休んで療養に専念してと話し
て も 、な か な か す ぐ に は 休 職 を 決 心 で き な い 駐 在 員 は 多 い 。
「仕事を休むなんて
自分への甘えだ」このセリフは決まり文句である。食べすぎで胃腸をこわした
ら誰でも食べすぎに注意するようになるものだが、頭の使いすぎで疲弊してし
まっていても、頭を休めようとは思いづらいようだ。
海外駐在員の方はまずほぼ全員が選ばれし優秀な方々である。しかも、皆
さん、まじめで努力家。責任感も強く、心身が不調になるのは自分のがんばり
が足りないからであると信じている人がほとんどで、今流行りの新型うつにな
ってしまったのかもしれないと思い込むような人もいる。新型うつ=怠け病と
いうイメージのようだ。新型うつ=怠け病なのかどうかはさておいても、しか
し、まじめで優秀な海外駐在員が新型うつを発症したり、もしくは怠け病にな
る可能性はあまり高くはないのではないだろうか?幸いにも私はまだ出会った
ことはない。これまで診察した人の中で新型うつを心配していた人ほぼ全員が
正統なうつ病か適応障害であった。
すぐには休めないと本人が思う仕事背景にはふたつほどある。ひとつは、
本人がいなくなると本当に会社の仕事が立ち行かなくなる状況の場合。本人が
事業所やプロジェクトのトップだったり、職場に唯一の日本人だったりする場
合は実際休むのが困難である。サポート人員の補充は日本国内よりも海外の職
場においてのほうが圧倒的に厳しい。会社のほうから、何とか時短勤務にして
でも治療しながら働いてほしいという依頼が来ることさえある。もとより海外
の職場では余剰人員などあるはずもなく、そもそも一人が一人分以上の仕事を
こなさざるをえない状況だったからこそ心身の病気になっているのだ。やむな
く働き続けながら治療を続けることになるため、このパターンでは回復するの
にやはり時間はかかる。
もうひとつは、本人が思っているほど本人がいなくなっても実際は仕事に
それほど影響がない場合。しかし、本人は自分がいなくなると職場に大変な迷
惑をかけてしまう、もしくは今後の自分の仕事がふくれあがって立ち行かなく
JOMF NEWS LETTER
No.244 (2014.5)
なると確信しているケースだ。優秀な駐在員であるがゆえに持っている元々の
強い責任感が、容易に病気の症状としての過剰な自責感に移行する。そして、
現在すでに仕事が立ち行かなくなりつつあることを解決しなければならない
(=休職休養すること)のに、仕事が将来立ち行かなくなるかもしれない未来
のことの方がよっぽど心配になる。これは正常な思考ができなくなった病気の
症 状 で も あ る 。こ う い う 一 人 妄 信 状 態 は 本 人 の 言 だ け か ら も 疑 う こ と が あ る が 、
実際に職場同僚や上司と面談することによってはっきりする。この場合、会社
も療養に積極的に賛成してくれることがほとんどなので、そうすると本人もあ
っさりと休職を受け入れやすい。問題は本人の本当の職場環境が聴取できない
場 合 で あ る 。休 職 を 決 心 で き ず 、
「 休 み た い 」、
「 休 み た く な い 」、
「休むわけには
いかない」の複雑な気持ちのまま不調な期間が長引き、疲弊していく。
初めての心身不調ならば休職休養はかなり有効である。有効な手段をすぐ
に取らないことは大きな損であると思う。