巨人の肩の上に立つ - 日本経済研究センター

第 58 回日経・経済図書文化賞決まる
受賞の言葉
きよた こうぞう
1996 年慶応義塾大学卒業、
98 年同大学院経済学研究科修士課程修了。
2002 年慶応義塾大学より博士号(経済学)取得。横浜国立大学准教授
などを経て、2013 年より慶応義塾大学産業研究所教授。72 年生まれ。
巨人の肩の上に立つ
慶応義塾大学産業研究所教授
清田 耕造
「日本企業の海外進出が進むことで、日本の雇用は失われていると思いますか。
」
この疑問に対し、多くの人は「はい」と答えるだろう。企業が工場を国内から海外へと移転することで、
国内の工場を閉鎖してしまい、それが雇用の削減につながる、というイメージがメディアなどの報道を通
じて出来上がってしまっているためだ。このようなイメージが企業活動のグローバル化が不安をもたらす
一因になっている。
しかし、このイメージは、少なくともこれまでのところは、必ずしもデータによって支持されているわ
けではない。言うまでもなく、企業の雇用は海外進出以外の様々な要因にも影響を受ける。そしてそれら
の要因を詳細に見ていくと、海外進出が雇用に及ぼすマイナスの影響は、あるとしても極めて小さいこと
が、多くのアカデミックの研究によって確認されている。データにもとづくエビデンス(科学的証拠)に
よれば、国内の労働需要に減少は、むしろ他の要因――例えば、機械化の進展――に起因している。
1990年代以降、アカデミックな研究では、日本企業の海外進出に関する数多くの新しい事実が発見
されている。そしてその中には、先の例のように、多くの人が当たり前のように思っているイメージとは
異なるものもある。しかし、研究成果の多くが英文の国際的なアカデミック・ジャーナル(学術誌)に発
表されていることもあり、その知見の多くは研究者の間でしか共有されていなかった。本書は日本企業の
直接投資に関するアカデミックな成果を幅広く紹介することで、多くの人が持つグローバル化のイメージ
と、これまでに国際経済学者が蓄積しているエビデンスの溝を埋めようとしたものである。
今回の受賞は身に余る光栄だが、実は本書は日本の国際経済学者がこれまで積み上げてきた研究成果を
まとめたにすぎない。
巨人の肩の上に立つ。
本書が評価されたことの背後には、日本の国際経済学者の研究の質の高さがある。言い換えれば、多数
の高質なエビデンスがなければ、本書が生まれることもなかった。日本の国際経済学者のこれまでの成果
に敬意を表し、結びとしたい。