第 58 回日経・経済図書文化賞決まる 受賞の言葉 しまもと みのる 1994 年一橋大学卒業、99 年同大学院商学研究科博士課程修了。同年 一橋大学より博士号(商学)取得。一橋大学准教授などを経て、2014 年より同大学院商学研究科教授。69 年生まれ。 国家プロジェクトを複眼で見る 一橋大学大学院商学研究科教授 島本 実 東日本大震災以後、再生可能エネルギー開発には大きな期待が寄せられている。日本のエネルギー問題 解決のためにその役割は限りなく大きい。しかしながら新技術の開発・実用化は、政府の予算付与だけで 進むものではない。そこには何が必要であるのか。本書は太陽光発電システムの開発プロジェクトを題材 にそのことを問うものである。 実は 1970 年代、石油危機の際に日本では再生エネルギー開発の壮大な国家プロジェクトがあった。そ れがサンシャイン計画である。本書はこの国家プロジェクトの歴史と組織を複眼的な視点から明らかにす る。そこで本書では同一の物語が、異なる視点から三度記述される。 第一のケーススタディーは技術的合理の観点から記述される。1980 年代以後の石油価格の低下の中で計 画は苦しんだが、90 年代には環境問題の解決という意義が強調された。産官学連携の下、太陽光発電は一 定の成果をあげていった。しかしこの過程を組織や制度の側面から見れば、異なる様相が見える。第二ケ ースでは、組織的合法の観点に立つことにより、サンシャイン計画における必ずしも技術面で合理的とは 言えない側面が明らかにされていく。そこには組織の慣性による計画の延命があった。さらに第三ケース では、社会的合意の観点から計画に参画した個々人の意味の世界を見ることで、また異なる様相が見えて くる。そこには政策を何とか成立させようとする官僚たちや、自らの技術の将来性を信じて、危険な橋を 渡ることを辞さない研究者や経営者たちがいた。そうしたところにこそ、計画を創発させるアントルプレ ナーたちがいたのである。 一つの歴史的事件も、どういった視点からそれを見るかによって異なる様相を見せることになる。日本 の再生可能エネルギー開発についても、史実やデータを丹念に分析すると同時に、開発計画に参加した主 体の意味世界やその相互行為の制度化に視線を向けることによって、私たちはより効果的なプロジェク ト・マネジメントのあり方を発見することができるはずである。その点で本書の試みが、経営事象を複眼 的な観点から多面的に把握し、新たな社会的知見を導くきっかけとなるならば筆者としてこれ以上の喜び はない。
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