こどもの病気【第 17 回】 頭痛 小児科外来を受診する訴えとして、頭痛は比較的多いものです。学校へ行くこと のできない重度の痛みから、日常生活には支障をきたさない軽度な痛みまでその症 状や程度はさまざまです。基礎に原因疾患がないものを一次性頭痛といい、原因疾 患のあるものを二次性頭痛といいます。一次性頭痛は反復性の経過をとるので“い つもの頭痛ですか?”という問いに“はい”という答えが得られます。二次性頭痛 の特徴は“今までに経験したことがないような頭痛”あるいは“最悪な頭痛”など と表現されるものです。小児の二次性頭痛の原因疾患としては感染症が多く、次い で頭部外傷です。一次性頭痛の代表的なものは、片頭痛と緊張型頭痛です。ここで は、片頭痛と緊張型頭痛について解説します。 片頭痛 片頭痛の特徴は、片側の側頭部が心臓の拍動に一致してドクンドクンと痛む頭痛 が長時間続き、日常動作によって痛みがさらに強くなり、悪心や嘔吐を伴ったり、 光がまぶしく感じたり、音がうるさく感じたりします。頭痛に先立って物が見にく い、まぶしい感じがするといった前兆を伴うこともあります。このような頭痛が典 型的な成人の片頭痛ですが、小児の場合、このようにすべての症状がそろうことは 多くありません。小児片頭痛の診断基準で成人と大きく違うところは、持続時間が 1~72 時間(成人では 4~72 時間)とされた点と、痛みの部位が前頭部や側頭部で あれば両側性でもよいとされた点です。表 1 に小児の前兆のない片頭痛の診断基準 を表 2 に片頭痛の小児と成人の特徴を示しておきます。 表1 前兆のない片頭痛の診断基準 A. B~D を満たす頭痛発作が 5 回以上ある B. 頭痛の発作時間は 1~72 時間(成人では 4~72 時間) C. 頭痛は以下の特徴の少なくとも 2 項目を満たす 1.両側性(前頭/側頭)あるいは片側性 2.拍動性 3.中等度~重度の頭痛 4.日常の動作(歩行や階段昇降などの)により頭痛が増悪する。 あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける。 D. 頭痛発作中に少なくとも以下の 1 項目を満たす 1.悪心または嘔吐(あるいはその両方) 2.光過敏あるいは音過敏 E.その他の疾患によらない 表 2 片頭痛の小児と成人の特徴 症状 小児 成人 頭痛の部位 両側で左右差のないことも多い 拍動感 不明確なことが少なくない 発作持続時間 頭痛出現の時間 帯 頭痛の出現状況 前兆・前駆症状 悪心・嘔吐 数時間~半日、翌日残らない 片側、両側でも左右差あり 頭痛の発現~ピークは拍動 性 翌日に続くことがある 朝から出現することが多い 一定性はない 何日も連日出現することが多い 発症 5 年くらいは不明確 悪心・嘔吐を示す頻度が高い 発作時にめまい感を伴いやす い 12 歳以下は男児に多い 連日出現はあまりない なんらかの前ぶれを示す 小児より頻度が少ない めまい感 疫学 めまい感はあまり出現しない 女性が多い 小児の片頭痛は成人に比べ軽く、治療を必要としない場合も多くみられます。し たがって、規則正しい睡眠や食事、頭痛発作の誘因がある場合はそれを避けるなど 非薬物療法が推奨されています。しかし、日常生活が妨げられるほど強い頭痛をも つ小児には、積極的な治療が必要となります。薬物治療としては、イブプロフェン やアセトアミノフェンと呼ばれる鎮痛薬が有効かつ安全といわれています。その他、 トリプタンと呼ばれる薬も有効です。 緊張型頭痛 緊張型頭痛は、かつての筋肉痛などの肉体的緊張による筋収縮性頭痛と、心因性 要素による精神的緊張による緊張性頭痛を合わせた診断名です。病態としては両側 性、非拍動性の痛みです。 小児において緊張型頭痛と思われる頭痛は大まかに 3 つに分けて考えられます。 ①成長痛のような筋性要因による痛み、②片頭痛、③心因性要因の強い緊張型頭痛 の 3 つです。 ①は、安静時や臥床時に訴えが強く運動しているときにはあまり訴えない特徴が あります。過去一年くらいの間に慎重が急激に伸びた場合などに多く、多くの場合 はせいぜい数年で訴えはなくなります。 ②は、親に片頭痛があること、朝から午前中に頭痛が現れやすいこと、発作中に めまい感を伴うことなどが特徴です(表 2)。治療はイブプロフェンやアセトアミ ノフェンなどの鎮痛薬です。 ③は、これといった特徴がないのが特徴といえ、診断・治療に困るタイプです。 鎮痛薬には反応せず、抗精神薬も有効でない場合も多く就学の妨げにもなるので処 方もしにくいという厄介なタイプですが、ひょんな機会に頭痛が全く消えてしまう こともあります。 表 3 に片頭痛と緊張型頭痛のちがいを示しておきます。 表 3 片頭痛と緊張型頭痛のちがい 片頭痛 緊張型頭痛 発作的な頭痛 + - 持続時間 1~72 時間 30 分~7 日間 頭痛部位 片側性~両側性 前頭・側頭部 両側性 後頭・頭全体 頭痛の性状 拍動性 圧迫・締めつけ感 頭痛の頻度 中等度~重度 軽度~中等度 日常生活 支障が大きい 影響が少ない 運動・風呂 悪化、不可能 軽快傾向 随伴症状 前兆、悪心・嘔吐 光・音・臭い過敏 肩こり・筋緊張 めまい感 家族歴 多い 少ない 注)成人に片頭痛の持続は 4~72 時間です 肩こりは緊張型頭痛だけでなく片頭痛の 70%に合併、前駆します。 行徳総合病院小児科 佐藤俊彦
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