第10章 慢性頭痛とはどのような頭痛か

第10章
慢性頭痛とはどのような頭痛か
目次
頭痛とは
2
緊張型頭痛とは
5
片頭痛とは、どういった頭痛でしょうか
10
緊張型頭痛がひどくなると片頭痛になる?
15
片頭痛が緊張型頭痛に化ける?
15
片頭痛と緊張型頭痛の多くは症状は重複
15
片頭痛の本質は「エスカレーシヨン」(Cady )
16
群発頭痛とは
19
薬物乱用頭痛とは、どういった頭痛か
20
-1-
第10章
慢性頭痛とはどのような頭痛か
頭痛とは
頭痛という訴えは、本人の主観的な訴えです。ということは、頭痛を訴える 100 人の人
がいたとすれば、その訴え方も 100 通りあるのが本来のあり方です。
しかし、こうした漠然とした捉え方では、頭痛研究も診療もうまくいかないことから、
-2-
国際頭痛学会は、「国際頭痛分類 第2版」97)という頭痛を分類する基準を作りました。
ここでは、頭痛を、一次性頭痛と二次性頭痛の2つに分けました。
一次性頭痛とは、脳の中には何も病気(異
常)がなく、頭の痛みだけが病気である、と
いう頭痛です。二次性頭痛とは、脳の中にく
も膜下出血、脳腫瘍、髄膜炎などの病気があ
り、その症状の1つとして頭が痛む場合、ま
たは風邪やお酒の飲み過ぎ、薬の乱用など、
頭痛が起きる原因が何か別にある場合の頭痛
のことを言います。98)
頭が痛いことそのものが辛い、苦しいという一次性頭痛の主なものには、緊張型頭痛、
片頭痛、群発頭痛があります。これらは、あなたが、頭痛を初めて経験されて以来、特別
問題(死ぬことも)なく、現在まで幾度か繰り返される頭痛のことをさしています。
その原則は、CTやMRIなどの画像検査を行っても異常のない「脳のなかには何も異
常のない」頭痛ということです。(脳以外に原因があるということです。)
このような「国際頭痛分類 第2版」の基準に基づいて、頭痛診療をされる先生方は、
あなたがたの頭痛を診断しているということです。
片頭痛治療に「トリプタン製剤」という”いわば片頭痛の特効薬”が導入されるように
なってから、片頭痛という診断が、的確に行えるようにならないといけないという考え方
-3-
から、こうした「国際的な診断基準」が設けられました。(これは、こうした”おくすり
”を適切に使うためでした。)
こうしたことから、頭痛専門家は、この「国際頭痛分類 第2版」という基準に従って、
「片頭痛とは、緊張型頭痛とは、群発頭痛とは、どういった頭痛か」とこれまで、一般の
方々に向けて啓蒙書が多数出版されるようになりました。こうした啓蒙書では、「片頭痛
も緊張型頭痛も群発頭痛」もいずれも明確に区別できるように書かれています。16),44),98)~103)
しかし、現実に頭痛で悩まれる方々は、これをご覧になられて納得されておられるので
しょうか?
自分は「頭痛外来」で「片頭痛」と診断されたけれども、ある時は「本当に、
片頭痛のようだが」ある時は「緊張型頭痛」としか思えない頭痛もあることを経験されま
せんでしたか?
このようにはっきり区別できないことは明白な事実です。
しかし、現実に”頭痛”が起きた際には、その時点での頭痛が「片頭痛なのか緊張型頭
痛」かを自分で判断して、その場、その場での対処法を考えなくてはなりません。
こうした意味では、一般啓蒙書での知識も必要とされる所以(ゆえん)です。
こういったことから、多くの頭痛専門医は、自分の経験からそれぞれの頭痛の特徴(典
型例)を述べて来られました。それでは、その慢性頭痛の典型的な特徴を説明します。
-4-
緊張型頭痛とは
緊張型頭痛では、デスクワーク、特にパソコンを使って仕事をすることにより、うつむ
き姿勢を長時間とると、首の後ろ側の頭半棘筋が緊張し、その筋肉を貫くように走ってい
る「大後頭神経」が圧迫され頭痛が起こります。緊張型頭痛は明らかに首疲労からもたら
される頭痛で、首疲労を治療することによって、痛みがきれいに消えてしまいます。17)
このようにして、大半の緊張型頭痛は起きてくるのですが、こうしたタイプのものは御
家族・親戚の方々に”頭痛もち”の方がおられた場合、将来”片頭痛”へと移行する可能
性のある、いわば”緊張型頭痛と片頭痛”へと連続したものです。こうしたものは首の筋
肉疲労(筋の異常緊張)を原因とするものです。
これとは別に、純然たる”精神的ストレスにより”脳内セロトニン”が関与するタイオ
ウがあります。こうしたタイプの緊張型頭痛は、片頭痛とは全く関連していません。。
こうしたタイプの緊張型頭痛では、頸椎X線検査ではストレートネックを認めないのが
普通です。そして、治療上、難渋することが多いのは事実です。
性格的に、緊張しやすいタイプが多く、レラックスする自律神経の訓練療法などの心療
内科・精神科での特殊な治療法が必要な場合もあります。
片頭痛
big(true)migraine
連続体
緊張型頭痛
緊張型頭痛
small migraine
脳内セロトニンの関与
文献 29) から
-5-
ストレスがあると、頭のまわりの筋肉が緊張します。筋がストレスがあると、頭のまわ
りの筋肉が緊張します。筋が緊張しすぎると、筋肉の血の流れが悪くなり、老廃物が貯ま
ります。老廃物がたまると、コリの状態と
なり、痛みが起こるようになります。これ
が緊張型頭痛なのです。
頭が痛いとますます筋肉の血の流れが悪
くなります。頭痛があること自体がさらに
ストレスの原因になります。こうなるとい
つまでも頭痛が続く「悪循環」が出来上が
ります。104)
この緊張型頭痛の悪循環ができると頭痛はだらだ
らといつまでも続くのです。
緊張しすぎると、筋肉の血の流れが悪くなり、老廃
物が貯まります。老廃物がたまると、コリの状態と
なり、痛みが起こるようになります。これが緊張型
頭痛なのです。
緊張型頭痛は、締め付けられる、頭全体ではなく
て、頭の後部に持続性の頭痛があるのが特徴とされ
ています。そして拍動性ではなくて、そして頭痛が
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あるときでも仕事に行ったり、会社に行ったり、主婦の人ですと家事をやったりするのに、
不都合は余り無いというのが特徴です。
緊張型頭痛は大体、男女差がなくて、中高年の方に多い。で、だらだらと持続するのが
多い。後頭部、首筋にかけて締め付けるような痛み、鉄かぶとをかぶったとか、鉢巻きを
締めたようなと表現されることが多くて、日常生活に対する影響が少ないのが片頭痛との
違いです。
緊張型頭痛は、筋が硬くなって、そこに阻血、虚血が生じるからだと述べましたけれど
も、どうも筋の血流の低下だけではなくて、中枢の痛みの感覚をおかしく認知してしまう。
痛いはずではないのに痛いと指令されてしまうというようなことが関与していて、慢性連
日性頭痛にも多少関係しているのではないかと言われ
ています。(セロトニンの関与)
右図のようにパソコンの画面を見ていると、常に頭
がある程度の高さに固定されてしまう、あるいは下を
向いて固定されてしまう、そうやってうつむいた姿勢
で筋の血流が悪くなって生ずるのではないかという説
もあります。これがテクノストレスということです。
それから、精神的な過労、それから薬剤、これは片
頭痛の人に最も多いのですけれども、緊張型頭痛の場合でも、鎮痛薬を乱用することによ
って薬剤性頭痛が起きて、そこから慢性連日性頭痛に移行することもあります。58)
純然たる緊張型頭痛とは
-7-
これには、セロトニンが関与しています
生理活性物質・神経伝達物質であ
るセロトニンは、広い意味で、以下
のようにドーパミン、ノルアドレナ
リ ン と の 均衡関 係を保 ってい ます
が、脳内セロトニンの低下は、この
バランスを乱すことになって慢性頭
痛とくに緊張型頭痛発症要因に関与
することになってきます。
ドーパミンは、体の動きを調整す
る神経の機能と、心の領域として「舞
い上がるような心地よさ」を感じる「快の情動回路」といわれる神経の機能とがあります。
セロトニンと深く関わりがあるのは、後者の機能です。このドーパミン神経を活性化させ
るのは「報酬」です。人間社会において、私たちが「試験で良い点数を取る」「試合で勝
つ」「高い給料を取る」などの目標を持つと、ドーパミン神経は興奮し、私たちに一種の
「渇望したストレス状態」を作り出します。この状態ではドーパミン神経が活性化してい
るので、私たちはちょっとしたストレスでも努力するようになるのです。そして目標が達
成されると「舞い上がるような心地よさ」
を感じることができます。ですからドーパ
ミン神経は、意欲の神経なのです。
達成されないことで一番問題になるのは、
ドーパミン神経が暴走し始めることです。
実際に、世の中は上手くいかないことが多
いわけですが、上手くいかないことが続く
と「何が何でも達成するぞ!」と異常行動を起こし始めるのです。いわゆる依存症で、周
囲に迷惑をかけてしまう。これはドーパミン神経の悪い面です。
ドーパミン神経には興奮した際、良い面と悪い面があるわけですが、このドーパミン神
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経にコントロールをかけることができる神経回路がセロトニン神経である、ということで
す。
ノルアドレナリンはストレスに関係する神経になります。不快なストレッサーが、外部
から人間の内部に加わった場合、最初に反応するのがノルアドレナリン神経です。わかり
やすく言えば、脳内の危機管理センターです。
危機を察知すると、体の面では即座に血圧を上
げたり、心の面では不安を感じさせたりするわ
けです。
ノルアドレナリン神経も重要な神経ですが、
暴走するとどうなるかといいますと、大したこ
とではないにもかかわらず、「大変だよ!」と興
奮してしまうのです。いわゆる「パニック障害」です。
ドーパミン神経をコントロールするのと同じく、セロトニン神経がコントロールすること
ができます。ですから、ドーパミン神経の「快」で舞い上がることと、ノルアドレナリン
神の「不快」で落ち込むこととの両方を抑えるという点で、セロトニン神経を活性化させ
ることは重要だと言えます。
要約しますと、セロトニンは心の面では、クールな覚醒、つまり平常心を保つはたらき
をします。セロトニン以外にも心の状態を演
出する神経には、快感や陶酔感を増幅する「ド
ーパミン神経」と、様々なストレスによって
覚醒反応を引き起こす「ノルアドレナリン神
経」があります。セロトニン神経は、この2
つの神経に対して抑制作用を及ぼし、興奮と
不安のバランスを図り、心の状態を中庸に保
つはたらきをするということです。
このように、慢性頭痛の場合、このバランスが崩れて起きてくるものと考えられ、特に
純然たる緊張型頭痛の場合には、その発症過程の重要な鍵を握っています。
以上のように、「純然たる緊張型頭痛」と「片頭痛と一連の緊張型頭痛」が存在すると
いうことで、厳然と区別すべきです。
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片頭痛とは、どういった頭痛でしょうか
片頭痛は人口の約8%、緊張型頭痛は約 20 ~ 30 %にみられ、群発頭痛はまれです。
片頭痛は一般に発作性にみられる片側性の脈拍に一致した拍動性の頭痛で、悪心(おし
ん)・嘔吐を伴い、光や音に対して過敏になります。しかし、両側性で非拍動性の場合で
も、日常生活が妨げられる程度の痛みで、階段の昇降など日常的な動作により頭痛が増悪
すれば、片頭痛と考えられます。片頭痛は女性に多く(男性の約3倍)、比較的若い年齢
層(10 ~ 40 代)によく起こります。98)
図3は、国際頭痛学会が定めて
いる片頭痛の診断基準です。頭痛
の回数が5回以上というのは、お
なじような頭痛が過去に5回以上
起きたかどうか、ということです。
鎮痛薬を飲まないとき、または
飲んでも効かないときの痛みの持
続時間は、だいたい4時間から
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72 時間程度。治ってしまえばケロッとしています。
痛みの特徴としては、片側性(頭の左右どちらか一方が痛い)、拍動性(心臓の鼓動に
合わせてズキズキ痛む)、痛みの程度は中等度から強度(日常生活に支障が出る)、階段
を上がったり頭を動かすなどの日常的な動作によって悪化する、などがあります。
大切なのは、このうちの「二項目以上」に当てはまれば片頭痛と診断することができる、
ということです。必ずしも、この特徴が全部当てはまらなければならない、ということで
はありません。片側性ではなく両側が痛む場合もあり、また拍動性の痛みでないこともあ
ります。
片頭痛が起きている間は、ひどいときには吐き気があったり、実際に気持ちが悪くて吐
いたりします。また光や音に敏感になって、静かな暗いところでじっとしていたい、とい
う症状もあります。これが基本的な診断基準です。
この中で、私が最も重要視するのは、頭が痛いときに仕事や学校、家事など、自分がそ
のときにしなければならないことをやむを得ず休むことがあるかどうか、という点です。
会社員なら会社を休んでしまう、学生なら学校に行けない、主婦なら例えば掃除や料理の
手を止めて座り込んだり横になったりするかどうか。これが鑑別のためのすべてです。
これが「イエス」であれば、その患者さんはまず間違いなく緊張型頭痛ではなく片頭痛
だと言ってよいと思います。
片頭痛の患者さんはよく、痛みがく
るのがわかる、と言います。
背中が凝ってきた、凝りが肩にきた、
上に上がってくる、ズキズキする、き
た!というように、痛みがくる過程が
感じられるのが片頭痛の1つの特徴で、
片頭痛の予兆と呼ばれています。(頭痛
信号ともいわれます)
片頭痛の診断基準の中にも、痛みの
最中の吐き気や音・光への敏感さなど痛み以外の症状が含まれていますが、片頭痛は頭の
痛みだけが症状ではありません。
何となく痛くなりそうな時期から痛みが引いていく時期に至るまで、予兆期、前兆期、頭
痛期、緩解期、回復期という5つの過程があり、特徴的なさまざまな症状が見られるます。
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1.予兆期
多くの患者さんが感じる肩や背中、首の
凝り、あくびなどの症状は予兆期に現れる
ものです。予兆期にはこのほか、疲労感や、
集中力の低下、精神的な落ち込み、抑うつ
感などが見られる場合があり、また人によ
っては、お腹がすいて過食をしてしまった
り、痛みなどの感覚が過敏になったりとい
う症状が出ることもあります。
予兆は、長い人では2,3日間、続くことがあります。
2.前兆期
頭痛の起きる直前に特徴的な前兆が現れ
ることがあり、これを前兆期と呼んでいま
す。前兆は患者さんによってある場合とな
い場合があり、片頭痛の分類でも「前兆の
ない片頭痛」と「前兆のある片頭痛」に分
けられています。片頭痛の患者さんの 20%
前後に出現します。
前兆には、視覚性前兆、感覚性前兆、言語性前兆の3種類ありますが、ほとんどが視覚
性前兆で、感覚性・言語性前兆はあまりみられません。前兆は、頭痛の始まる前に 10 分
から 20 分程度続く一過性の症状で、長くても1時間以上続くことはありません。
視覚性前兆はいわゆる「閃輝暗点」と呼ばれるもので、初めに視野の中心付近にチカチ
カ光るものが現れます。チカチカするものは次第に右または左の視野に広がっていき、や
がてその部分の視力がなくなります(視野欠損)。20 分程度経つと視力が元に戻り、この
あと、頭痛が起きます。
感覚性前兆では、顔面や腕、足などにピリピリ、チクチクした感覚が現れ、また言語性前
兆では一時的に言葉が話せなくなる状態になりますが、これらが現れるのは極めて稀です。
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3.頭痛期
頭痛期は、実際に痛みを感じている状態
で、痛みの程度も軽度から中等度、重度と
さまざまです。この期間には、吐き気や嘔
吐、音・光(眩しさ)・臭いなどに対する
過敏、食欲の減退などの症状があります。
鎮痛薬を飲まずにいた場合、あるいは鎮
痛薬を飲んでも効き目がなかった場合、頭
痛は4時間から 72 時間続きます。
4.寛解期
頭痛が回復に向かう時期で、少しずつ痛みが引いていきます。この時期、眠気を感じた
り、実際寝込んでしまう場合もあります。
5.回復期
頭痛がなくなった後も、しばらくは疲労感を感じたり食欲が低下するなどの症状が見ら
れることがあります。また精神的にうつ状態になったり、逆に躁状態になったりすること
もあります。この症状は半日から3日程度、続くことがあります。
このような片頭痛の症状は、患者さんによって多く現れる場合、少なく現れる場合、ま
そのため片頭痛の診断には、基本的な診断基準で判断するとともに、痛みの前後の精神
的、身体的な状態を含めた包括的な診断を行うことが必要です。
例えば、片頭痛の予兆期に見られる肩や首の凝りは、緊張型頭痛でも見られます。緊張
型頭痛では肩の凝りが原因になって頭痛が起きますが、片頭痛の場合、肩の凝りは頭痛の
予兆にすぎません。そのことを把握していないと、「肩が凝って」という患者さんの言葉
を聞いただけで、他の診断基準を無視して「これは緊張型頭痛」と間違って診断してしま
うことになります。
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片頭痛の患者さんで、診断基準から言えば典型的な片頭痛であり、また経過各期の症状を
かなり多く持っているにも関わらず、あるいはさまざまな症状を持っていたが故に、いつ
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までたっても片頭痛という診断が受けられず、20 年間も苦しむ人もいます。44)
緊張型頭痛がひどくなると片頭痛になる?
26)
「日常的に肩こりを自覚していて,疲れたり睡眠不足になると肩から後頭部に重い感じの
痛みが上がってくる。後頭部の鈍痛で終わるときもありますが,我慢していると頭仝体が
ガンガン痛んで吐き気も出現し,ひどいと嘔吐する。ガンガン痛いときには,家族の話し
声もうるさく感じて,静かな部屋で暗くして横になると少し楽になる」といった患者さん
はよく遭遇します。ひどい頭痛はおそらく片頭痛と診断して問題はないでしょう。後頭部
の鈍痛に関しては、緊張型頭痛と診断される場合が多いと思われます。このように緊張型
頭痛で始まり、程度が強くなると拍動性の頭痛を伴うものを、オーストリアのランス
Lance105) は緊張・血管性頭痛 tension-vascular headache と命名しました。このように一連
のものです。
片頭痛が緊張型頭痛に化ける?
26)
「20 歳ころから時々片頭痛発作を起こし結婚後片頭痛発作が頻繁になるが、40 歳ころ
から緊張型頭痛が加わってきて、50
歳を過ぎると寝込むようなひどい頭痛発作は起こら
ない代わりに、だらだらと重く締め付ける感じの頭痛が続くようになった。」このような
患者さんは古い分類で混合性頭痛としていた典型例です。国祭頭痛学会分類では、以前の
ものは片頭痛で、中年以降の頭痛は緊張型頭痛と診断されるでしょう。このようなパター
ンを片頭痛が加齢とともに変化したということで、米国の Mathew181) は変容性片頭痛と
いう概念を提唱しています。ただ国祭頭痛学会分類の範疇としては現在のところ認められ
ていません。一方、片頭痛の治療に鎮痛薬などを乱用していますと頭痛が発作性の型から、
連日性になっていくことがあります。いわゆる薬物乱用による慢性連日性頭痛ですが、こ
れも 変容した片頭痛の一種と考えられています。
片頭痛と緊張型頭痛の多くは症状は重複
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26)
片頭痛と緊張型頭痛の症状の多くは重複していて、個々の症状のみで診断することは困
難です。たとえば、軽度~重度の頭痛、両側性および片側性の頭痛は両者に認められます。
また、片頭痛、緊張型頭痛ともに拍動性でないことが多く、さらに、緊張型頭痛の特徴
と認識されることの多い「肩こり」も多くの片頭痛で随伴しています。
片頭痛因子(血管症状)
拍動痛
片側性
高度頭痛
悪心・嘔吐
緊張型頭痛因子(筋症状)
締め付け感
圧迫感・頭重
後頭部の頭痛
肩こり
片頭痛の本質は「エスカレーシヨン」(Cady )28)
次頁の図は片頭痛を理解する上で、重要です。
まず神経系の変調があると予兆を、神経活性物質変化で前兆を、さらに、三叉神経が感
作されますと(軽度の頭痛)緊張型頭痛が引き起こされます。
血管が賦活されますと神経血管系感作を引き起こし(中等度~重度の頭痛)片頭痛へ、
中枢感作が起きますと、ひどい片頭痛(重度の頭痛)が起きてきます。
すなわち、片頭痛は三叉神経の脱抑制により緊張型頭痛が起こり、さらに神経血管系が
活性化されて初めて片頭痛が起こり、この過程が次の図のようになります。
エスカレーシヨンの程度によって、緊張型頭痛~強弱さまざまな片頭痛が出現すること
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が理解されることと思います。このように一連したものということです。
天気に喩えますと、片頭痛は「雨」、緊張型頭痛は「曇り」に相当し、両者には明瞭な
差があります。雨は曇り空から降り出します。つまり、緊張型頭痛が先行します。雨の降
り方もさまざまであり、片頭痛の臨床症状の”多彩さ”と一致します。29)
Cady28) は片頭痛と緊張型頭痛は共通の病態生理を持つと考えられるとして,一次性頭
痛一元説(Convergence Hypothesis)について述べています。
片頭痛の発生過程は,まず患者の”遺伝素因”にホルモン状況の変化や睡眠時間の変化,
アルコール摂取などの”環境因子”が加わることで,片頭痛が起こりやすくなること,す
なわち脳の感受性が高まることから始まります。
次いで,気分や食欲の変調,肩こり,感覚や意識の変化,疲労などの前駆症状があり,
症例によっては眼がチカチカするなどの前兆を伴って頭痛が出現します。ここまでが前駆
期で,次の頭痛期は一般的に軽度の頭痛で始まり,病状が進行すると中等度〜重度となり,
光過敏や音過敏が増強,悪心・嘔吐などを伴って国祭頭痛学会分類診断基準を満たすこと
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になります。そして頭痛が頂点に達すると,中枢性のアロディニア(異痛症)を呈するこ
とになります。
つまり,一次性頭痛一元説では,頭痛が軽度の段階でおさまる場合は緊張型頭痛とみな
しています。ひどくなれば片頭痛へ移行するということです。
頭痛が起こり始めた時、この頭痛がどこへ行くかはミステリーなのです。緊張型で終わ
るのか、緊張型頭痛経由片頭痛なのか、片頭痛直行なのか。これは患者さんにも分かりま
せんし、医者にはもっとわかりません。(引き金がどの程度重なるかで左右されます。)
頭痛体操やストレッチ、階段の上り下りをしてみても見極めがつかない場合は、飲み慣
れた使いやすい鎮痛剤を飲んで戴いて、30
分後に頭痛が悪化してくるようならトリプタ
ン系薬剤を飲んで下さい。また、朝から痛い場合は片頭痛と考えられますし、ご自分の経
験上片頭痛だとわかる場合には、最初からトリプタン系薬剤を服用して下さい。
以上のように、緊張型頭痛も片頭痛は明確には、現実に区別できないということがお分
かり頂けたかと思います。その理由は、緊張型頭痛も片頭痛も共通して、頸椎レントゲン
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検査で、ストレートネックを高頻度に認めます。このため、このように臨床症状には、重
複するものが多いということです。
緊張型頭痛のところでも述べましたように、片頭痛は緊張型頭痛と連続したものです。
緊張型頭痛から、片頭痛へと移行して発症してくるということです。
ただ、なかには、ミトコンドリアの働きが極端に悪いような場合は、いきなり片頭痛の
タイプから発症してくる場合も当然あります。この点も重要な点です。
このように、片頭痛にしても緊張型頭痛の場合も、どのような”症状”があるかという
ことで「国際頭痛分類 第2版」という国際頭痛学会が定めた基準に従って診断されてい
ますが、これまでも述べてきましたように、クリアカットには区別できません。この理由
は緊張型頭痛と片頭痛が連続したものであるからに他ならないからです。
群発頭痛とは、44),106),107)
1日に何度か、2時間から3時間の強い頭痛がきて、それが約2カ月ほど毎日続きます。
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ある日突然きて、ある日突然止まり、そして1年なり2年なり、一定期間おいてまた突然
やってきます。痛みは非常に強く、目の奥を焼け火箸で刺されるような激しい痛みで、涙
が流れたり鼻水が出たり、また結膜が赤くなるなどの症状があります。
このような群発頭痛は、男性に一般的に多く、(最近では女性にもみられますが)慢
性頭痛のなかでは最も痛みが激烈であり、本人の訴えを詳細に聴取さえしさえすれば、特
徴的な症状を示すため、まず誤診することはありません。
しかし、なかには、ある時期には片頭痛であったものが、ある時期から群発頭痛になっ
たりと、片頭痛と群発頭痛の間を行ったり来たりする場合があり注意がひつようです。
こうした点から、片頭痛も群発頭痛も一連のものと考えるべきなのかも知れません。
薬物乱用頭痛とは、どういった頭痛か
44)
一次性頭痛ではこの3つが代表的なものですが、もう一つ、忘れてならないのが薬物乱
用頭痛です。
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薬物乱用頭痛は、鎮痛薬の飲み過ぎに
よって脳での痛みのコントロールがうま
くできなくなり、頭痛が引き起こされる
もので、片頭痛の患者さんに多く見られ
ます。
片頭痛の患者さんの中には、毎日のよ
うに頭が痛いけれども、仕事に行かなけ
ればならない、家事をしなければならな
いので鎮痛薬を飲む、少しするとまた痛
くなるのでまた飲む、ということを繰り
返して、毎日、または1日に何度も鎮痛
薬を飲み続ける方がいます。さらに鎮痛
薬を飲まないでいると、また頭が痛くな
って仕事ができなくなるのではないかという不安で、次々と飲んでしまう場合もあります。
こういう場合、鎮痛薬を飲むことによって、結果的にさらに頭痛が引き起こされること
があり、これを薬物乱用頭痛と呼んでいます。
痛みという感覚はある程度脳の中でコントロールできるものです。
体の中からはさまざまな刺激が脳に伝わっていますが、その刺激がある一定値を超える
と、脳は「痛み」として認識します。しかし無害な刺激であればセンター はその痛みを
抑制します。頭痛の場合も同じことです。
ところが鎮痛薬を絶えず飲んでいますと、伝わってくる痛みを鎮痛薬が取ってくれるの
で、脳の痛み抑制センターが仕事をしなくなり、ちょっとした痛みでも、痛い、と感じる
ようになります。するとまたすぐに鎮痛薬を飲む、センターはますます仕事をしなくなる、
また痛みを感じる、また薬を飲む、という悪循環に陥ります。
月に 10 回程度鎮痛薬を飲む方はかなりの数に上ります。薬局に行って鎮痛薬をまとめ
て買い、毎日5,6回飲むなどという極端な方もいます。
こういう場合、まず初めに鎮痛薬を飲むのを全て止めて戴きます。そうしないと、脳の
痛みのセンターが活動するようにならないからです。
鎮痛薬を飲むのをやめますと、服用期間の長さにも依りますが、短期間の連用であれば、
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だいたい2,3日で痛みがなくなる方もおられますが、ほとんどの方は1年以上も連用さ
れておられ、このような人は、1カ月前後要することも多くあります。
鎮痛薬をやめてしばらくすると、痛みの抑制センターが仕事を始め、大したことのない
痛みは抑制されるようになりま
す。それから初めて、片頭痛そ
のものの治療に取りかかります。
薬物乱用頭痛になってしまって
いる場合には、鎮痛薬を飲むの
を止めることが、まず第一の治
療です。
私は、こうした薬剤乱用頭痛
は、鎮痛薬の乱用が「化学的ス
トレス」となって、脳内セロト
ニン低下が引き起こさ、”痛みの閾値が下がる”ための頭痛と考えています。
また、アスピリンが含まれた鎮痛薬は、ミトコンドリアの働きを悪くさせますので、ご
家族に”頭痛持ち”の方がおられた場合、”片頭痛予備軍”と考えられ、こういう方が、
このような痛み止めを服用されますと、片頭痛へ移行させていくことになります。
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