ローマ法王に米を食べさせた男 (高野誠鮮著/講談社) 本書は、石川県羽咋市役所の職員で「スーパー公務員」と呼ばれている著者が、いか にして過疎の村を救ったかが、当時の臨場感そのままに歯切れの良い文章で熱く書かれ ている一冊である。 昨今、少子高齢化が進み、自治体は「消滅自治体」にならないために、議論に議論を 重ねている。「地方創生」が叫ばれている今、机上の空論ではなく、様々な失敗を重ね ながらもいかに過疎集落を救ったかが書かれている本著は、少子高齢化時代の様々な課 題への打開策のヒントを読者に与えてくれるものになっている。 著者は、平成17年に市長から羽咋市の神子原地区という過疎高齢化集落の活性化と 農作物の1年以内のブランド化を図るプロジェクトを頼まれ、そこで集落を再生するた めに知恵を絞った。集落の皆に納得してもらうため、まずは自ら手本を見せやってみて、 今度はやってもらって納得させ、人を動かしたかが描かれている。 その結果、神子原地区は現在、I ターンの若者が増えて限界集落から脱却し、ローマ 法王に献上した「神子原米」というブランド品を生み出すことに成功し、そして自分た ちが作った農作物などを自分たちが値段をつけて売るという直売所を作ることで、収入 も上げられた。また自然栽培という新しい試みも始めている。 本著では、そういった農産物のブランド価値向上のために何をしたか、過疎集落にど のように人を集めるか、地域活性化において非常に示唆に富んだ知恵を披露している。 例えば、その一例を紹介すると「意外性のある体験をすると、別の人を連れて来て同じ 体験をさせたがる。 」 「商品にストーリー性があると買った人はなぜこれを選んだのか人 にその物語を話したくなる。 」 「外国人記者クラブでやるからこそ外国人が先に飲んでく れてそして広めてくれる。 」等である。 著者はそういった知恵を使って自ら戦略を立て、自ら実行している。「プロの広告代 理店やイベント・プロモーターは使わない。なぜなら自らがやればノウハウが残るから。 プロの業者に委託するとノウハウが残らない。」 「エージェントなど第3者を通さず、直 接お願いすることで熱意が伝わる。 」からだという。 また、過疎集落というと、マイナスのイメージばかりが先行するが、著者は過疎集落 には「過疎の村には何もないのではなくて、途方もなく強力な教育力がある。」 「相互扶 助の習慣」というプラスの面もあるという。そういった良い面をうまく利用しながら、 「ものの考え方の基礎をとにかく作って、みんなの共通認識にする」ことで、地域振興 を図ることが地域創生の秘訣であると感じた。 本著で繰り返し著者が言っているのは、 「役に立ってこその役人」 「可能性の無視は最 大の悪策」ということである。地域活性化には定石はなく何が正しい方法なのかはわか らないという。だからこそ、出来ない理由を考えるのでなく、やれることは何でもやっ てみる、ということが大事である。少子高齢化社会が進展する中で、かつてない大きな 課題を解決すべき自治体職員にとって非常に志を高めることの出来る一冊である。 (ふ)
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