平成27年度 専門研修 法務・政策研修 政策法務研修(基礎) レジュメ 講師:加藤 良重 宮城県市町村職員研修所 ~ 目 次 ~ 第1章 自治体をめぐる環境変化 ················································ P.1 1 人口構造の変容 ······························································· P.1 2 2000年分権改革 ························································· P.1 3 財政の緊迫 ····································································· P.2 4 山積する政策課題 ···························································· P.2 5 情報通信技術(ICT)の高度化 ······································· P.2 6 国際(グローバル)化 ······················································ P.2 第2章 政策主体としての自治体 ················································ P.2 1 自治体の本質・性格 ························································· P.2 2 自治体の役割 ·································································· P.3 3 自治体の区分 ·································································· P.4 第3章 自治体の政策 ······························································· P.4 1 政策とは ········································································ P.4 2 自治体計画 ····································································· P.5 3 生活課題と解決主体 ························································· P.5 第4章 政策実現のための法務 ··················································· P.6 1 自治体政策と法務・財務 ··················································· P.6 2 政策法務と従来型法務 ······················································ P.7 3 生活規範と法 ·································································· P.7 4 法の特徴・機能 ······························································· P.7 5 日本の法体系と類型 ························································· P.8 6 法による行政の原理 ························································· P.9 第5章 自治体法 ····································································· P.10 1 自治体法の種別 ······························································· P.10 2 条例制定権 ····································································· P.10 3 条例制定の意義 ······························································· P.11 4 条例の規定内容 ······························································· P.11 5 条例の制定手続 ······························································· P.12 第6章 国法 ··········································································· P.12 1 国法の種別 ····································································· P.12 2 国法の自治解釈権 ···························································· P.13 第7章 国際法 ········································································ P.14 1 国際法とは ····································································· P.14 2 条約の制定手続 ······························································· P.14 3 条約と条例 ····································································· P.15 第8章 自治体の争訟法務 ························································· P.15 平成 27 年度政策法務入門講座レジュメ 自 治 体 の 政 策 と 法 務 第1章 自治体をめぐる環境変化 自治体をとりまく環境はどのように変化しているか。 1 人口構造の変容 ⑴ 日本の将来推計人口 ○ 日本の将来推計人口は国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」の「出 生中位(死亡中位)推計」が一般的に用いられている。 ○ 年齢3区分⇒0歳~14 歳(年少人口)、15~64 歳(生産年齢人口) 、65 歳以上(老年人 口・高齢者人口) ⑵ 人口構造変容の影響 ○ 働く世代の減少による税・保険料の収入減と少子高齢化にともなう社会保障関係経 費の急増(歳入・歳出の両面からの圧力) 。総人口の減少による消滅可能性自治体。 ⑶ 人口構造変容の姿 ※2030 年・2060 年は推計(国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」 ① 高齢長寿社会 ○ 高齢者人口(65 歳以上)割合⇒2010 年:23.0%→2030 年:31.6%→2060 年:39.9% ○ 平均寿命⇒1947 年:男 50.1・女 54.0→1955 年:男 63.6・女 67.8→1975 年:男 71.7・ 女 76.9→2014 年:男 80.5・女 86.8 ○ 100 歳長寿者(センテナリアン)⇒1963 年 153 人→1998 年 10,158 人→2014 年 58,820 人 ② 少子社会 ○ 年少人口(0歳~14 歳)割合⇒2010 年:13.1%→2030 年:10.3%→2060 年:9.1% ○ 生産年齢人口(15~64 歳)割合⇒2010 年:63.8%→2030 年:58.1→2060 年:50.9% ③ 総人口減少社会 ○ 総人口⇒2010 年:12,806 万人→2030 年:11,662 万人→2060 年:8,674 万人 2 2000 年分権改革 ○ 機関委任事務の廃止を中心とした 475 法律の一括改正によりおこなわれた 2000 年の 地方自治制度の大改革。 『この改革はわが国の政治・行政の基本構造をその大元から変革 しようとするものであり、…それは明治維新・戦後改革に次ぐ「第三の改革」というべき ものの一環であって、数多くの関係法令の改正を要する世紀転換期の大事業である。 』 (地 方分権推進委員会最終報告) ○ 機関委任事務は、首長を国の下部機関(手足)として、自治体を国に従属させ、自治体 と国の関係は「上下・主従」の関係であったが、2000 年分権改革で機関委任事務が廃止 1 され、法的に自治体と国との関係は「対等・協力」の関係になった。 3 財務の緊迫 ○ 自治体は、生産年齢人口の減少、経済の低成長、所得の低迷・格差拡大、国からの財源 移転の抑制などにともない財源が枯渇している。一方で、自治体は、高齢長寿社会にあっ て福祉関係経費が年々急増し、また、今後、道路などの都市インフラや公共施設の老朽化 で建替え・改修に莫大な経費を要する。 ○ 国・自治体は、総額で巨大借金(世界最大の 1000 兆円超)をかかえており、このままの状 態がつづけば、財政破綻して日本「沈没」である。 ○ 財政が厳しくなればなるほど計画行政と既存の事務事業のスクラップの徹底が必要 である。 4 山積する政策課題 ○ 自治体には、福祉、教育、環境、安全・安心なまちづくりなどの政策課題が山積してい る。これに対応するためには、政策の選択と重点化をはかるとともに、従来の「量拡大」 から「質整備」に転換しなければならない。 5 情報通信技術(ICT)の高度化 ○ 情報通信技術(ICT)は、限りなく高度化している。自治体もこの活用によって、広 範な情報の迅速な提供、事務処理の効率化、行政手続の簡素化など行政技術の革新をはか っていかなければならない。 6 国際(グローバル)化 ○ 国際(グローバル)化は、国際交流、多文化共生、内なる国際化などがすすめられてき ている。国際化の進展は、企業を国際競争力のもとにおき、国内自治体の企業立地にもお おきな影響をあたえており、地場産業の育成が重要課題である。 第2章 政策主体としての自治体 自治体は、どのような本質・性格をもち、どのような役割を担っているのか。 1 自治体の本質・性格 ○ 政府とは立法権および行政権を行使する機関(立法府・行政府)をそなえた組織のこと である。 ○ 自治体は、自治立法権および自治行政権をもち、その権限を行使する住民の代表機関 である議会および首長をそなえているので、国と同様の政府である。 2 国会(選挙された議員で組織) 中央政府 (国政府) 一元代表制 (国会内閣制) ― 内閣(内閣総理大臣・国務大臣で組織) 裁判所(裁判官で構成) 日本の政府 議会(選挙された議員で組織) 地方政府 (自治体政府) 二元代表制 首長(直接選挙) (大統領主義) ○ 自治体政策は、自治体の政治・行政としておこなわれる。政治は主に選挙によって選ば れた住民の代表機関によって担われ、行政は主に首長とその補助機関によって担われる。 ○ 主権者・納税者としての市民は、中央政府(国政府)の国会・内閣に立法権・行政権の 行使を信託すると同時に、地方政府(自治体政府)の議会・首長に自治立法権・自治行政 権の行使を信託している(複数政府信託論) 。その信託は、選挙と納税によっておこなわ れている。 【地方政府】 【中央政府】 市区町村 都道府県 (基礎自治体) (広域自治体) 議会 長 議会 選 挙 国 内 裁判所 長 納 選 税 挙 国 選 納 税 閣 会 挙 納 税 市 民 2 自治体の役割 ○ 自治体は、地域における公共課題を解決して住民の福祉を増進するために存在し、地域 の特性をいかした政策を自主的・総合的に実施する役割をひろく担っている。 ○ 市町村は基礎自治体として、都道府県がおこなうべき事務をのぞき一般的に地域にお ける事務をおこない、都道府県は広域自治体として、広域の事務、市町村に関する連絡調 整の事務および規模・性質から一般の市町村が処理することが適当でないと認められる 事務をおこなう。国は、国家としての存立事務などの国が本来果たすべき役割を重点的に 担う(補完性の原則)。 <政府間の役割分担の具体例> ◆ 市町村⇒消防、住民登録、ごみ処理、子ども・高齢者・障害者福祉、介護保険、国民 健康保険、公の施設の設置、市町村道など ◆ 都道府県⇒警察、病院・薬局、私立学校、市町村立小中学校教職員の給与負担、職業 紹介、都道府県道など ◆ 国⇒司法、外交、防衛、通貨、年金、医師・医薬品、金融政策、労働基準、エネルギー、 情報・通信、国道など 3 3 自治体の区分 ○ 政府としての自治体には、基礎自治体(市町村・東京都特別区)と広域自 治体(都道府県)がある。基礎自治体のうち、市は一般市、大都市(指定都 市)および中核市に区分される。 広域自治体 都道府県 自治体 普通地方公共団体 基礎自治体 市町村 特別区 地方公共団体の組合 地方公共団体 特別地方公共団体 財産区 第3章 自治体の政策 そもそも政策とは何で、どのようにしておこなわれているのか。 ◎政策型思考のポイント⇒①創造的であること ②付加価値があること ③主張があること 1 政策とは ⑴ 問題と課題 〇 人びとは、病気、介護、保育、教育、ごみ処理などのさまざまな生活上の問題をかかえ ている。これらの問題は、自然に解決するものもあるが、なんらかの手立てを講じないと 解決しないものがおおい。この解決を必要とする問題が「課題」である。 政府課題 あるべき状態 公共課題 ↕ギャップ= 問題…解決すべき問題= 課題 現にある状態 ∥ 新しい公共課題 非政府課題 私的課題 困っている状態・困るであろう状態 ⑵ 課題と政策 〇 政策とは、公共課題の解決策である。 基礎自治体政策 自治体政策 公共課題 の解決策 政府政策 = 公共政策 広域自治体政策 新しい公共政策 国政策 非政府政策 ○ 政策は、狭義の政策(ポリシー)、施策(プログラム)および事業(プロジェクト)の 三層からなっている。 4 …狭義の政策 …施策 …事業 区 分 政 策 内 容 具 政策課題を解決するための基本的な理 体 例 子どもの笑顔と歓声のあふれる (Policy) 念・方針および基本目標をしめしたもの まち→子育て支援 施 「政策」の基本目標を達成するための具 子育て支援→仕事と家庭の両立 策 (Program) 体的取り組みを体系化したもの 支援 事 施策体系における個々の具体的な取り 仕事と家庭の両立支援→保育所 組み の増設、学童保育所の拡充 業 (Project) ○ 政策は、政策の形成(Plan・プラン)→政策の実施(Do・ドウー)→政策の点検・評価 (Check・チェック)→政策の見直し(Action・アクション)のプロセス(PDCAサイ クル)により展開される。 2 自治体計画 〇 自治体計画は、自治体政策を総合化・体系化し、実施期間をさだめたもので、自治体の 現状と課題をあきらかにし、その課題の解決のための理念・方針・目標・施策・事業を盛 り込んでいる。 〇 自治体計画には、総合計画(基本構想+基本計画+実施計画)および個別計画がある。 基本計画―実施計画 基本構想―― 予算―実施 個別計画 ○ 基本構想とこれと一体的な基本計画をあわせた「長期総合計画」が自治体計画の中心で あり、個別計画は、長期総合計画との整合性をはからなければならない。 ○ 個別計画の例⇒地域福祉計画、介護保険事業計画、障害者計画、生涯学習推進計画、図 書館基本計画、地域防災計画、景観計画、行政経営計画など 3 生活課題と解決主体 ○ 人びとの生活上の課題(生活課題)については、 「補完性の原理」にもとづき、身近な ところ(主体)から順次解決にあたることが基本となる。 ○ 補完性の原理では、まず、個人・家族で解決できる課題は個人・家族が自ら解決し、つ ぎに、市民・団体・企業が解決できる課題は市民・団体・企業の力により解決し、さらに、 自治体・国でなければ解決困難な課題は、政府としての自治体・国が解決にあたる。なお、 5 国際化社会では国際的な課題については国際機構が解決にあたることになる。 広域的課題 全国的課題 一般地域課題 都道府県 特定地域課題 市町村・特別区 個人課題 市民・団体・企業 個人・家族 政府課題 公共課題 生活課題 第4章 政策実現のための法務 法とは、どのようなもので、政策とどのような関係にあるのか。 1 自治体政策と法務・財務 〇 自治体が立派な計画をつくったとしても、それだけでは「絵に描いた餅」である。政策 は、具体的に実現されることによって意味をもち、人びとにとって価値あるものとなる。 〇 自治体計画にかかげられた政策を実現するためには、自治体に権限と財源を必要とす る。その権限を法的に裏づけるものとして自治体法務があり、財源を裏づけるものとして 自治体財務がある。 〇 自治体法務は、政策を実現するための条例制定および国法の解釈運用が中心である。ま た、自治体財務は、政策を実現するための予算の編成と執行が中心である。 〇 自治体は、自治体計画を軸として、自治体法務と自治体財務をいわば車の両輪として政 策の展開をはかっていかなければならない。この法務・財務は、政策との関連を密接不可 分のものととらえる「政策法務」 「政策財務」でなければならない。 公共課題 解決策 = 政 策 市民 議会・首長・職員 政策の総合化・体系化+実施期間 自治体計画 自治体法務 ……政策の選択 自治体財務 権限の裏づけ ……政策の具体化 財源の裏づけ 政策の実現 6 国 2 政策法務と従来型法務 ○ 政策法務は、法務を政策実現のための手法とする考え方であり、改革論・実践論である。 ○ 政策法務と従来型法務には次表のような違いがある。 区 分 自治立法 国法の解釈・運用 訴訟対応 政 策 法 務 従 来 型 法 務 自治立法権の積極的活用で、自 自主立法に消極的で、条例の形式・技 主的・政策的な条例の制定 術面での審査事務(法制執務)が中心 自治解釈権の積極的活用で、国 国・省庁の解釈に依存し、その検索に 法の自治的な解釈・運用 注力(自治解釈権の放棄) 訴訟を積極的に受けとめ、国法 訴訟への対応が消極的で、ほとんど弁 や自治体法にもとづく政策の 護士まかせ。自治体職員の役割は証拠 正当性を主張・立証。指定代理 資料集めと法廷での傍聴・記録が主 人の活用 国法の制定・改廃 国法の欠陥・不備につき自治体 国法の欠陥・不備につき国の制定・改 (国法改革) 側から積極的に制定・改廃の提 廃まちの姿勢 起・働きかけ 3 生活規範と法 ○ 規範とは、人が判断や行動するときの基準となるものであり、人びとが規律ある生活を いとなんでいくための規範が「生活規範」である。 ○ 社会規範は、その起源、適用範囲、違反への制裁などによって、法、道徳などに分類さ れる。法は、文書としての形式をそなえた成文法(制定法)とそれ以外の不文法(慣習法、 判例法など)とに区分される。 ○ 法に準じ、法を補完・補充する方式として告示や行政の内部規範としての規程、通達・ 訓令、要綱・要領などがある。その他社会一般の良識や職業倫理として守られるべきルー ルがある。 個人規範 生活規範 社会規範 法 成文法 道 徳 習 俗 宗 教 不文法 その他 4 法の特徴・機能 ⑴ 法の特徴 ○ 法は、他の道徳や習俗などの社会規範にたいして、次の2点の特徴がある。 ① 住民・国民を代表する議会・首長や国会・内閣などの自治体・国の公式の機関により 制定されること。 ② 住民・国民に対して拘束力・強制力をもつこと。そのために罰則がもうけられるが、 7 罰則がなくても、住民・国民の代表機関によって制定されたルールであるから守られて 然るべきもの。 ⑵ 法の機能 ○ 法には、次の5つの機能(役割)がある。⑤が政策法務で重視される。 ① 住民・国民が物事の是非善悪を判断する基準となり、住民・国民の行為を規律する(行 為規範機能) 。 ② 住民・国民の間や住民・国民と自治体・国との間に紛争が起きたときに、その解決の 基準となり、裁判になれば裁判所の判断の拠り所となる(紛争解決・裁判規範機能)。 ③ ①および②の機能を通じて社会の秩序を維持する(秩序維持機能)。 ④ 住民・国民の権利を制限し、住民・国民に義務を課す(法規創造機能)。 ※「法規」とは、住民・国民の権利・義務に関する定めをいう。 ⑤ 住民・国民に対して許可・禁止・制限などをおこなう自治体・国の「権限」と税・保 険料・使用料などを課すことにより「財源」を創りだす(権限・財源創出機能) 。 5 日本の法体系と類型 ○ 法には、国内法と国際法(条約)とがある。国内法は、日本国内において制定される 法で、これには自治体において制定される「自治体法」と国において制定される「国法」 とがある。 自治体法(条例・規則)…例規 国内法 国法(憲法―法律―政令―府省令∕両議院規則 法 最高裁規則・外局規則・会計検査院規則) …法令 国際法 (条約) 二国間条約 多国間条約(普遍条約・一般条約・特別条約) ○ 国法には、次の3つの構造的な欠陥が指摘されており、自治体法は、この国法の欠陥を 是正・補完することができる。 ① 国法は、全国を対象にするため画一的になり易い(全国画一)。自治体法は地域の個 性・特性を生かすことができる(地域個性) 。 ② 国法は省庁ごとにタテ割りになりがちである(省庁タテ割り) 。自治体法は政策に横 断的で総合性をもたせ易い(地域総合) 。 ③ 国法は制定されるまでに時間がかかり時代遅れになりがちである(時代錯誤)。自治 体法は必要に即応できる(地域即応) 。 ○ 日本の法類型は、伝統的な従来型法務と政策法務では相違がある 8 従来型法務 民事法 刑事法 行政法 政策法務 市民相互の関係や会社・商取引に関す 基本法 政府の基本となる組織・原則に関 る法(民法、商法、民事訴訟法など) する法(憲法・自治基本条例) 国と犯罪者の関係に関する法(刑法、 一般法 市民や団体相互の関係を規律する 刑事訴訟法など) 法(民法、刑法など) 行政の組織と活動に関する法(行政組 政策法 政策に関する法(政策主体や各種 織や政策に関する各法) 政策に関する各法) <主な政策法> 区 分 政策基本法 法 律 名 地方自治法、地方財政法、地方税法、公職選挙法、地方教育行政の組織及 び運営に関する法律、地方公務員法、消防組織法、地方公営企業法、農業 委員会等に関する法律、地方独立行政法人法、水道法、下水道法、国家賠 償法、男女共同参画社会基本法、住民基本台帳法 都市政策法 土地基本法、都市計画法、道路法、河川法、都市緑地法、都市公園法、景 観法、建築基準法、公有地の拡大の推進に関する法律 環境政策法 環境基本法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、資源の有効な利用の促 進に関する法律(リサイクル法) 、特定家庭用機器再商品化法(家電リサイ クル法) 、地球温暖化対策の推進に関する法律、自然環境保全法 福祉保健政策法 社会福祉法、高齢社会対策基本法、少子化社会対策基本法、障害者基本法、 生活保護法、老人福祉法、老人保健法、介護保険法、高齢者虐待の防止・ 高齢者の養護者に対する支援等に関する法律、高年齢者等の雇用の安定等 に関する法律、高齢者・身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建 築の促進に関する法律、次世代育成支援対策推進法、児童福祉法、児童虐 待の防止等に関する法律、母子及び寡婦福祉法、身体障害者福祉法、知的 障害者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、地域保健法、 母子保健法、健康増進法、国民健康保険法 教育文化政策法 教育基本法、地方教育行政の組織及び運営に関する法律、学校教育法、社 会教育法、私立学校法、図書館法、文化財保護法 危機管理政策法 災害対策基本法、消防組織法、警察法、自衛隊法 6 法による行政の原理 ○ 行政は、法にもとづき、法にしたがって行われなければならない。このことは、一般に、 国法を中心に「行政は、法律に基づき、法律に従わなければならない」とし、「法律によ 9 る行政の原理」 (法治行政の原理)とよばれている。 ○ この原理の根底には、基本となる法(法律・条例)が民主的な手続すなわち市民を代表す る議会の議決をへて制定され、しかもその内容が市民の権利・自由・平等の基本的人権を 保障した「正しい法」でなければならないとする「法治主義」ないし「法の支配」の考え 方がある。 ○ 法による行政の原理は、議会制定法である法律および条例において次の2点で重要な 内容をもっている。 ① 市民の権利を制限し、市民に義務を課する定め(法規)は、法律・条例によらなけれ ばならない(法規創造力の原則)。 ② 自治体がある事柄を行政としておこなうには、できる限りひろく法律・条例の根拠を 必要とする(法律・条例の留保の原則) 。 第5章 自治体法 自治体は、どのような法を制定することができるのか。 1 自治体法の種別 〇 自治体法には、狭義の条例と首長により制定される規則、議会・議長により制定される 規則および行政委員会により制定される規則・規程がある。 議会会議規則 議会傍聴規則 自治体法 条例 委任規則 執行規則 委員会規則・規程 固有規則 ○ 条例には、同じ制定手続の自治基本条例、分野別基本条例および個別条例があるが、そ の内容などからこの間には上下・優劣の関係にあるものと考えられる。自治体の最高法規 としての自治基本条例を標準装備すべき時代にはいっている。 ○ 首長の規則には、首長が元来もっている権限に関する規則(固有規則)と条例を施行す るためまたは条例の委任をうけて制定する規則(施行規則・委任規則)とがある。前者は、 原則として条例と同格であるが、同じ内容の条例を制定した場合には条例が優先する。後 者は、条例にもとづいて制定するので、条例が優先する。 ◆自治基本条例→◆行政分野別基本条例→◆個別条例→◆施行・執行規則 ∟◆固有規則 ※行政分野別基本条例の例⇒議会基本条例、環境基本条例、健康・福祉基本条例、男女平等 参画基本条例、教育基本条例 2 条例制定権 〇 条例については、国の最高法規である日本国憲法の第 94 条に、自治体は「法律の範囲 10 内で条例を制定することができる。」と規定して、自治体の条例制定権(=自治立法権) を保障している。 ○ この「条例」には、議会の議決により制定される条例(狭義の条例)のほかに、首長な どが制定する「規則」もふくまれる(広義の条例)。通常は、狭義の意味でつかわれる。 ※同じ用語でありながら、 「広義」 (ひろい意味)と「狭義」 (せまい意味)でつかわれるこ とがある。 3 条例制定の意義 ○ 条例は、自治体政策を具体化し、実現するために制定される(政策条例)。 ○ 条例は、法としての機能や強制力をもっていることから、政策を実現するために強力な 手段となる。 ○ 従来は、条例と政策との関係があまり意識されず、むしろバラバラにあつかわれてきた。 だが、条例と政策とは、密接な関係にあることが重視されるようになり、このような考え 方と実践が「政策法務」である。 4 条例の規定内容 ⑴ 条例の制定範囲 ○ 日本国憲法では、 「法律の範囲内で」条例を制定することができるとされ、この「法律」 には、政令・省令もふくまれるとの解釈によって、地方自治法では「法令に違反しない限 りにおいて」条例を制定することができると規定されている。 ○ 自治体は、地域における事務(自治事務・法定受託事務)について条例を制定すること ができるが、住民に義務を課し、または住民の権利を制限するには、条例によらなければ ならない(規則ではできない) 。 ○ 条例の内容が法律の範囲をこえ、あるいは法令に違反しているか否かが明らかでない 場合には、法解釈によって法律の意味・内容を明らかにする必要がある。最終的には、裁 判所の判決によることになる。 ○ 法定受託事務については、細部にわたって法律に規定がもうけられ、条例でさだめる余 地はすくない。自治事務についても、法律で義務づけや枠づけがもうけられていることも おおい。 ⑵ 条例違反の罰則 〇 自治体は、条例に違反した者にたいし、その条例中に刑罰として2年以下の懲役・禁錮、 100 万円以下の罰金、拘留、科料と没収の刑を科し、または行政処分として5万円以下の 過料を科することを規定することができる。 11 5 条例の制定手続 ○ 条例は、次のような手続をへて、制定・施行される。 条例案の作成・決定 (首長・議員・住民) 条例案の議会提出 → (首長・議員) → 条例案の審議→議決(可決・成立) (議会) → 議決結果送付 (議長→首長) ↓ 施 ― 条 例 余 行 ← 公 布 (首長) 禄 ― ○ 明治初期の国法(法令)の名称は、 「法」 「条例」 「規則」 「律」などさまざまであった。 「条例」の例⇒新貨条例(1875・明冶 4 年)、新聞紙条例(1875・明冶 8 年)、出版条例 (1869・明冶 8 年) 、集会条例(1880・明冶 13 年)など ○ 国法の「条例」は、1889(明冶 22)年の大日本帝国憲法(旧憲法)の制定にともない廃 止された。新貨条例は貨幣法(1897・明冶 30 年)に、新聞紙条例は新聞紙法(1909・明 冶 42 年) 、出版条例は出版法(1893・明 26 年)に、集会条例は集会及政社法(1890・明 冶 23 年)に、それぞれ引き継がれた。 ○ 旧憲法には、地方自治や条例についての規定はなかった。日本の近代的な地方自治制度 は、1888(明冶 21 年)年制定の「市制・町村制」 (法律)により、市町村はその事務およ びその住民の権利義務に関して条例を制定することができることになった。 第6章 国 法 国は、どのような法を制定し、それは自治体政策とどのような関係にあるのか。 1 国法の種別 〇 国法には、国の基本法・最高法規としての「日本国憲法」、国会の議決によって制定さ れる「法律」 、憲法・法律を実施するために内閣が制定する「政令」および法律・政令を 実施するために内閣総理大臣・各省大臣が制定する「府令・省令」がある。そのほかに、 国会の両議院が制定する規則、最高裁判所が制定する規則などがある。 両議院規則 最高裁判所規則 〔法令〕 〔命令〕 日本国憲法 法律 政令 府令・省令 外局規則 会計検査院規則 12 ○ 国法は、日本国憲法を頂点にして次の順序で上下・優劣の関係にある。したがって、憲 法に反する法令には効力がなく、法律に反する政令・府省令は違法になる。 ◆日本国憲法→◆政策分野別基本法→◆個別法 →◆政 令 →◆ 府 令・省 令 ※例⇒高齢社会対策基本法→介護保険法→介護保険法施行令→介護保険法施行規則 ○ 日本国憲法は、その中で「国の最高法規」であることを明記している(98 条1項) 。 政策分野別基本法と個別法は同じ制定手続であるが、政策分野別基本法は同一分野の個 別法の上位にあるものと考えられている。 2 国法の自治解釈権 ○ 国法は、自治体政策の全国的な実施基準にかんして制定されることもおおい。そのため、 自治体は、国法にもとづく政策を実施するためにその根拠法を解釈運用する必要がある。 ○ 国法を解釈する権限は、国の独占物ではなく、自治体も自ら法を解釈する権限(これを 「自治解釈権」という)をもっている。国と自治体の間の法解釈に争いがあれば最終的に は訴訟を通して、裁判所の判決によって決着することになる。 ○ 自治解釈は、国法にもとづく政策を自治体が地域の特性を生かしながら自らの政策と して実現のためにおこなう。自治解釈には、 「自治立法の前提としての国法解釈」と「国 法の直接適用のための国法解釈」の2つの場面がある。前者は条例の内容が法律の範囲内 か、あるいは法令に違反しないかどうかを判断するためにおこなわれ、後者は自治体の政 策が直接に国法にもとづいている場合にその国法を解釈し運用するためにおこなわれる。 自治立法の前提としての国法解釈 自治解釈 国法の直接適用のための国法解釈 ○ 法の解釈は、法の条文を具体的な事実に適用できるよう、文理解釈を基本として、 論理解釈および目的論的解釈でおぎなって合理的におこなう。 ○ 文理(ぶんり)解釈は、法の言葉を通常つかわれている意味どおりに解釈すること である。だが、これだけでは、法の真の意味をとらえきれない場合に論理解釈によっ て文理解釈をおぎない、法文の意味をあきらかにする。 13 <論理解釈の方法> 解釈名 方 拡張解釈 縮小解釈 類推解釈 反対解釈 法 例 法文の言葉を普通につかわれる意味より 憲法第 94 条の「条例」には、自治体の長等が も広げて解釈する。拡大解釈ともいう。 制定する「規則」もふくまれる。 法文の言葉を普通につかわれている意味 憲法第 93 条第 2 項の「地方公共団体」には特 よりも縮小して解釈する。 別地方公共団体である「区」がふくまれない。 ある事項について直接規定した法文がな 民法の不法行為による損害賠償の範囲につい い場合に、他の類似した法文と同様に解釈 て、類似した債務不履行の損害賠償の範囲を定 する。 めた規定(第 416 条)と同様に解する。 明文規定のない事項について、当該法文の 未成年の子の婚姻には、父母の同意を得なけれ 趣旨からこれを除外する。 ばならない(民法第 737 条第1項)とあること から、成年の子が婚姻するときには父母の同意 を必要としない。 勿論解釈 明文化されていないが、当該法文の趣旨か 武力の行使は、国際紛争を解決する手段として らそのように解釈することが当然である は、永久にこれを放棄する(憲法第 9 条第 1 項) とする。 と規定しているが、国際紛争もないのに武力を 行使することは勿論のことできない。 ○ 目的論的解釈は、立法目的にしたがって解釈することである。法には必ず一定の目 的があるので、法の解釈は目的論的解釈でなければならない。 ○ 法解釈は、独断と偏見でおこなってはならず、客観的な基準にもとづかなければなら ない。客観的基準として、個人の尊厳や両性の平等など法の一般原則、自治基本条例およ び自治体計画(長期総合計画・個別計画)をあげることができる。 第7章 国際法 国際法は、自治体政策とどのような関係にあるのか。 1 国際法とは 〇 国際法は、国際社会を規律する法で、条約が中心である。条約は、批准した国を拘束し、 その国民を直接に拘束することなく、条約の内容を反映した国内法をとおして間接的に 拘束する。 ○ 条約の名称⇒条約、憲章、協定、議定書、規約、取り決めなど 2 条約の制定手続 ○ 条約は、国相互間の交渉による合意や国際会議・国際組織での採択により成立し、通常、 署名(調印)をへて、批准(当事国が条約の内容を最終確認し同意を表明すること)によっ て条約の効力が発生する。批准するために、締約国は必要な国内法の制定改廃をおこなう。 14 3 条約と条例 ○ 条約は、批准当事国数により分類できる。このうち「普遍条約」は、政策の国際水準(世 界標準)をしめす内容をもっている。 2辺条約(2国間条約) 条 約 普遍条約(国際社会のほとんどの国が参加) 多辺条約 (多国間条約) 一般条約(主要国が全て参加) 特別条約(特定の一部の国が参加) ○ 自治体は、国法に先行しまたは補完するために条約の内容をいかした条例を制定する ことができる。 第8章 自治体の争訟法務 自治体は、争いごとを解決するためのどのような手続きをとるのか。 ○ 自治体が当事者となる争訟手続きには次図にしめすようなものがある。 事前手続・苦情申立て 行政不服申立て 行政上の手続 住民監査請求 自治紛争処理委員 国地方係争処理委員会 自治体争訟 民亊訴訟 司法上の手続 行政事件訴訟 住民訴訟 ○ 争いごとを解決するためにも、自治体職員には法的素養と積極的な対応が求められて いる。 参考文献⇒加藤良重著「地方政府と政策法務」 (公人の友社) 15
© Copyright 2025 ExpyDoc