2015 年 9 月 4 日 ファクトシート:福島県の子どもたちの甲状腺がん 「甲状腺がん悪性または疑い」137 人に 2巡目 25 人、うち前回「問題なし」23 人 8月 31 日、福島県県民健康調査委 員会で、福島県の子どもたちの甲 状腺がんの最新の状況が明らかに なりました。 それによれば、甲状腺がんの悪性 または疑いと診断された子どもた ちの数は、合計 137 人。2014 年か ら始まった2巡目検査で甲状腺が んまたは疑いとされた子どもたち は 25 人。この中には、1巡目の検 査で、問題なしとされた子どもた ち 23 人が含まれています。 「疑い」とは、ここでは、細胞診 において「甲状腺がん」と診断さ れた人のことです。「確定」とは 手術後に摘出した組織などを調べ て診断した結果です。 表 甲状腺がん疑い・確定の内訳 対象者数、受診者数 甲状腺 手術 がん又 後確 は疑い 定 備考 一巡目検査 対象:367,685 人 (2011~ 受診者 300,476 人 2013 年) (受診率 81.7%) 113 98 手術例 99 例、良性 1 人、乳頭がん 95 人、 低分化がん 3 人 二巡目検査 対象:378,778 人、 (2014〜 受診者 169,455 人 2015 年) (受診率 44.7%) 25 6 138 104 合計 がんまたは疑いの 25 人のうち、前回 A 判 定は 23 人。確定の6 例は乳頭がん。 出典:第 20 回福島県県民健康調査委員会(2015 年 8 月 31 日)資料をも とに作成 国立がんセンターの統計データでは、甲状腺がんは 10 代後半で 10 万人に約 0.9 人とされています。 現在、福島の子どもたちの甲状腺が 山下俊一氏プレゼン資料より んの率がそれをはるかに上回ること 2013 年 3 月 11 日 米国メリーランド州ベセスダ については、 「スクリーニング効果」、 すなわち一斉に甲状腺エコー検査を 行うことにより、通常よりも前倒し で発見されたことによるものと説明 されてきました。しかし、すべてを 「スクリーニング効果」とする根拠 が不十分である上、2巡目の検査で 前回問題なしとされた 23 人について は、説明できません。 多いリンパ節転移や 甲状腺外浸潤 破綻した「過剰診断」説 10th Annual Warren K. Sinclair Keynote Address: Fukushima Nuclear Power Plant Accident and Comprehensive Health Risk Management, Shunichi Yamashita, M.D., Ph.D. 注)2013 年 3 月当時においては、「甲状腺がんまたは疑い」は 10 万人中 16 人程度だった。 政府は、2巡目で甲状腺がんが見出 されて以降も、「事故との因果関係 は考えにくい」とし、一部の専門家 たちが唱えている「過剰診断論」を 盾にして新たな対策を取ろうとしません。 「過剰診断」とは、ここでは「生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんの診断」 をさしています。すなわち、大したがんでもないのに、「甲状腺がん」と診断し、手術を行うこと をさしています。 しかし、8 月 31 日、手術を受けた子どもたち 99 人の症例について、福島県立医大(当時)の鈴木 眞一教授によるペーパーが公開され、リンパ節転移が 72 例にのぼること、リンパ節転移、甲状腺 外浸潤、遠隔転移などのいずれかに該当する症例が 92%にのぼることが明らかになりました。県民 健康調査委員会の清水一雄委員も「医大の手術は適切に選択されている」と述べています。すでに この「過剰診断論」は破綻しているのです。 資料はこちらから>https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/129308.pdf 鈴木眞一教授は、ずっと甲状腺がん検査の責任者でしたが、以前より、「過剰診断」という批判に 対して、手術を受けた患者は「臨床的に明らかに声がかすれる人、リンパ節転移などがほとんど」 として、「放置できるものではない」としていました。 1巡目と2巡目の比較 福島県立医大は、2011 年 10 月から 2014 年 4 月まで行われた1巡目の検査を「先行検査」とし、事 故前の状況の把握と位置づけています。また、2014 年 4 月からはじまった2巡目検査を「本格検査」 として事故後の状況の把握としています。この両者を比較してみましょう。 1巡目調査 • 対象:平成 23 年 3 月 11 日時点で、概ね 0 歳から 18 歳までの福島県民。 367,685 人。 • 受診者 300,476 人(81.7%) • 悪性ないし悪性疑い 113 人 • 男性:女性 38 人:75 人 • 平均年齢 17.3±2.7 歳(8-22 歳)、震災当時 14.8±2.6 歳(6-18 歳) • 平均腫瘍径 14.2±7.8 ㎜(5.1-45.0 ㎜) 2巡目調査 • 対象:先行検査における対象者に加え、事 故後、2012 年 4 月 1 日までに生まれた福 島県民にまで拡大。 378,778 人、 • 受診者 169,455 人 (44.7%) 平成 26 年度実施対象市町村において • 悪性ないし悪性疑い 25 人 • 男性:女性 11 人:14 人 • 平均年齢 17.0±3.2 歳(10-22 歳)、震災当 時 13.2±3.2 歳(6-18 歳) • 平均腫瘍径 9.4±3.4 ㎜(5.3-17.4 ㎜) 細胞診等で悪性ないし悪性疑いであった 113 細胞診等で悪性ないし悪性疑いであった 25 人の年齢、性分布(検査時の年齢) 人の年齢、性分布(検査時の年齢) < 第 20 回福島県県民健康調査委員会(2015 年 8 月 31 日)資料をもとに作成> 2巡目検査の方が男の子の割合が高いこと、また、年齢のばらつきが大きい(ように見える)こと が読み取れます。 受診率の低下~リスコミという名の不安対策の弊害 心配されるのは受診率の低下です。1巡目検査の受診率は 81.7%であったのに比して、2巡目の検 査の受診率は激減し、44.7%です。 ただでさえ、被ばくによる健康リスクについて考えたくない心理がある上に、政府の「被ばくは大 したことはない」「不安に思うことのほうが健康に悪い」といった放射線安全キャンペーンが効を 奏していると考えられます。 政府は、リスク・コミュニケーションといった不安対策に巨額の予算を投じるのではなく、個々の 症例についての分析と、県外への健診の拡大、甲状腺がんのみならず、甲状腺の機能低下やその他 の疾病も見据えた総合的な健診のあり方を真剣に検討すべきでしょう。(満田夏花)
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