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乳腺嚢胞性病変の治療
伊藤外科乳腺クリニック
安藝 史典
1
本日のメニュー
• 嚢胞内腫瘤、および充実性腫
瘤内に液状部分を有するもの
の治療・症例検討
• 過剰診断
2
参考文献
• 乳癌診療ガイドライン 治療編 2013年版
2015年版
• 乳腺腫瘍学
• NCCNガイドライン 乳癌、乳癌の診断とスク
リーニング(NCCN Guidelines Version 2.2015
Breast Cancer・ Version 1.2014 Breast Cancer
Screening and Diagnosis)
3
混合性パターンを示す腫瘤*
嚢胞内腫瘤
嚢胞内乳頭腫
嚢胞内癌
濃縮嚢胞
鑑別は充実部分の形状
充実性腫瘤内に液状部分を有するもの
良性
線維腺腫
葉状腫瘍
膿瘍
血腫
悪性
扁平上皮癌
充実腺管癌
粘液癌
葉状腫瘍
鑑別は充実性腫瘤の鑑別診断に従う
*乳房超音波診断ガイドライン改訂第3版
4
嚢胞内腫瘤の治療
5
症例 1
• 40歳代 女性
• 右乳房腫瘤を触知したため、受診した。
• 右A領域3.0 cm大腫瘤触知
• マンモグラフィ 不均一高濃度 カテゴリー1
6
症例 1超音波
嚢胞内腫瘤の充実性部分の立ち上がりが急峻
カテゴリー3
3.3 x 3.0 x 1.3 cm (充実性部分1.2 x 1.0 x 1.1 cm)
細胞診:良性、乳管内乳頭腫
7
今後の方針は?
(手術を選択するとすれば、その場合に留意
するべきこと)
8
嚢胞・嚢胞内乳頭腫
• 基本的には経過観察であるが、細胞診断もし
くは組織診断を実施して、臨床所見や画像所
見と一致しない場合には、切除生検を施行す
る。
• 画像検査で切除範囲を決定し、術前マーキン
グを行う。色素等で、切除範囲にマーキング
を行う。
• 愛護的に切除を行う。嚢胞性病変は、破らな
いように留意する。(癌であった場合に直接
播種の原因になる)
9
嚢胞内乳頭腫手術
• 乳房超音波にて、病変をマーキングした。
• 局所麻酔下に病変直上に、皮膚割線にそっ
た弧状切開を行った。
• 嚢胞壁を損傷しないように、乳腺組織を一部
切除した(切開生検)。
• 切除後は、乳腺組織を吸収糸にて縫合し、皮
膚は連続埋没縫合行い、ファスナートを貼付
した。
10
嚢胞内乳頭腫ホルマリン固定標本
11
嚢胞内乳頭腫ホルマリン固定割面
12
嚢胞内乳頭腫ルーペ像
13
嚢胞内乳頭腫弱拡大
14
乳管上皮細胞と筋上皮細胞が2層性に増殖
選択的乳管切除術の実際
15
やまかわ乳腺クリニック
山川卓先生提供
16
症例 2
• 40歳代 女性
• 左乳房腫瘤を触知したため、受診した。
• 左AC領域 1.5 cm大腫瘤触知
• マンモグラフィ 不均一高濃度 カテゴリー1
17
症例 2超音波
嚢胞内腫瘤の充実性部分の立ち上がりが、なだらか、
充実性部分が多い
カテゴリー4
1.2 x 1.1 x 0.8 cm
細胞診:良性、乳管内乳頭腫
18
今後の方針は?
(手術を選択するとすれば、その場合に留意
するべきこと)
19
嚢胞内腫瘤
• 細胞診断が、画像所見と一致しない場合には、
針組織診断、切除生検による組織診断を施行
する。
• 細胞診断の良性と、超音波診断のカテゴリー4
との間に、乖離がみられる。
• 切開生検を行った。
• 画像検査で切除範囲を決定し、術前マーキン
グを行う。色素等で、切除範囲にマーキングを
行う。
• 愛護的に切除を行う。嚢胞性病変は、破らない
ように留意する。(癌であった場合に直接播種
の原因になる)
20
切開生検嚢胞内癌ルーペ像
切開生検嚢胞内癌弱拡大
乳頭管状構造、充実性増殖
嚢胞内乳癌の手術療法時に
留意するべきこと?
乳房MRIにて、拡がり病変なし。
CTにて、腋窩リンパ節転移所見なし。
23
嚢胞内乳癌
• 乳房部分切除、乳房切除、乳頭温存乳腺全
切除(嚢胞壁を破らない、内容液による直接
播種をおこさない)
• 切除範囲を決定し、術前に切離線のマーキン
グを超音波などの画像ガイド下に行う。
• センチネルリンパ節生検、もしくは腋窩リンパ
節郭清術を行う。(切除生検で非浸潤性であ
れば省略する場合もある。)
• 薬物療法は、個々の症例で検討し、標準的に
行う。
24
嚢胞内乳癌症例手術
• 穿刺吸引細胞診で良性の診断であったが、画
像上悪性が否定できない所見であったため、
切開生検を行った。
• 切開生検の病理診断は、非浸潤性乳管癌で
あった。
• 術前、乳房超音波によるマーキングを行った。
• 乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検
(色素法)を行った。
25
嚢胞内癌
ホルマリン
固定標本
26
嚢胞内癌ホルマリン固定割面
27
嚢胞内癌ルーペ像
28
嚢胞内癌弱拡大
29
乳頭管状構造、充実性増殖
センチネルリンパ節生検手技
30
リンパ管
青染したリンパ節
の発見
高知大学医学部第1外科
杉本健樹先生提供
乳房切除時のSLNB(色素法)
高知大学医学部第1外科
杉本健樹先生提供
リンパ・シンチグラフィ(RI法)
高知大学医学部第1外科
杉本健樹先生提供
RI法の実際
高知大学医学部第1外科
杉本健樹先生提供
Hyper Eye Medical System (HEMS)
によるSLNB
高知大学医学部第1外科
杉本健樹先生提供
嚢胞内癌:病理所見(n=24)
2004年1月~2015年6月 985例中
例
n(陽性)
ER(陽性)
PgR(陽性)
Her2(陽性)
非浸潤性乳管癌
12
0
11
10
0
乳頭腺管癌
12
1
10
10
0
Intrinsic subtype
Luminal type
22
TN
2
23例:健存 1例:他病死
36
充実性腫瘤内に液状部分を
有するものの治療
37
症例 3
• 50歳代 女性
• 左乳房腫瘤を触知したため、受診した。
• 左A領域2.5 cm大腫瘤触知
• マンモグラフィ 散在性 カテゴリー1
38
線維腺腫症例超音波
境界明瞭平滑な腫瘤、カテゴリー3
2.6 x 2.0 x 1.7 cm
細胞診:良性、線維腺腫
39
今後の方針は?
(手術を選択するとすれば、その場合に留意
するべきこと)
40
線維腺腫
• 基本的には経過観察である
• 15~59 %は自然退縮していき、約5 %だけが
増大する
• 増大する場合は、核出術(局所再発はおこさな
いので、正常組織をつけて切除する必要はな
い)
• 葉状腫瘍の針生検での偽陰性率は25 ~ 30%
41
切開生検
• 乳房超音波にて、病変をマーキングした。
• 局所麻酔下に病変直上に、皮膚割線にそっ
た弧状切開を行った。
• 線維腺腫の被膜にそって、可能な限り鈍的に
剥離し、一部は鋭的に切除した。
• 切除後は、乳腺組織を吸収糸にて縫合し、皮
膚は連続埋没縫合行い、ファスナートを貼付
した。
42
線維腺腫ホルマリン固定標本
43
線維腺腫ルーペ像
44
線維腺腫(管内型)弱拡大
45
圧迫された乳管が分枝管状となる
症例 4
• 60歳代 女性
• 30歳代、40歳代で2回、同一部位の良性葉状
腫瘍を切除している。
• 数年前から、以前の手術創に右乳房腫瘤を
触知していたが放置していた。
• 最近、徐々に大きくなってきたため、受診した。
• 右乳房全体に 10.0 cm大の腫瘤を触知した。
• マンモグラフィは腫瘤が巨大なため撮影でき
なかった。
46
葉状腫瘍乳房超音波
内部不均質、スリット状の液体貯留、カテゴリー3
大きいためサイズ計測できず
細胞診:良性、葉状腫瘍
47
今後の方針は?
(手術を選択するとすれば、その場合に留意
するべきこと)
48
葉状腫瘍
• 腫瘍摘出術
• 広範切除:局所再発をおこすことがあるので、
腫瘍辺縁に正常組織を約1cmつけて摘出する。
• 治療の原則は、症例集積や症例報告に基づ
いているが、葉状腫瘍の局所再発は 18.9%。
良性 では8%、境界病変では21%、悪性 では
36%である。
• 通常腋窩リンパ節郭清は行われない。SEER
データベースによると、腋窩リンパ節転移は
1.6%(8 / 498例)であった。
49
乳房切除術
• 腫瘍がほぼ乳房全体に存在していたため、
取り残しを防ぐため、乳癌手術に準じて、乳
房切除術を行った。
• 腫瘍直下の大胸筋筋膜は切除した。
• 腋窩リンパ節は、画像上転移所見を認めな
かったため、郭清は行わなかった。
• 切除後は、持続吸引閉鎖式ドレーンを留置し
た。皮膚は連続埋没縫合行い、ファスナート
を貼付した。
50
葉状腫瘍ホルマリン固定標本
51
葉状腫瘍ホルマリン固定割面
52
葉状腫瘍ルーペ像
53
良性葉状腫瘍弱拡大
54
葉状構造を示す
良性葉状腫瘍の手術
55
やまかわ乳腺クリニック
Case
3
山川卓先生提供
円形
境界明瞭平滑
高濃度
カテゴリー3
CC
良性葉状腫瘍
Phyllodes tumor
56
まとめ-1
• 乳腺嚢胞性病変の手術
画像検査で切除範囲を決定し、術前マーキングを
行う。色素等で、切除範囲にマーキングを行う。
愛護的に切除を行う。嚢胞性病変は、破らないように
留意する。(癌であった場合に直接播種の原因になる)
• 嚢胞内癌では、センチネルリンパ節生検、もしく
は腋窩リンパ節郭清術を行う。(切除生検で非浸
潤癌であれば省略する場合もある。)
• 葉状腫瘍では、広範切除を行い、腫瘍辺縁に正
常組織を約1cmつけて摘出する。
57
嚢胞性病変の治療の工夫
• 次にどうするかを予想した手術をする。
• 手術では、最善を考えて行う。
• 診断や治療を伝える時には、相手の目を見
て、相手の気持ちを考えながら、話をする。
• 自分自身の家族や、大切な人だと思って、治
療する。
58
過剰診断
スライド提供
大貫幸二 岩手県立中央病院 乳腺・内分泌外科
笠原善郎 福井県済生会病院 乳腺外科
森本忠興 徳島大学名誉教授
59
過剰診断(overdiagnosis)
• がん検診で発見されるがんには、放置しても、
致死的とはならないがんも、一定割合で存在
する。
• このようながんを診断し、治療することは、受診
者にとっての不利益につながることから、過剰
診断と呼ばれる。
60
過剰診断(overdiagnosis)
• がんが進行して症状が発現する前に、他の原因
で死亡してしまうようながんを早期に発見する場
合。
例えば
がんの成長速度が極めてゆるやかな場合。
極めて早期にがんを発見した場合。
がんが発見された人が高齢者である場合。
重篤な合併症を有する場合。
61
癌検診による過剰診断(Overdiagnosis)
速い
遅い
癌死
臨床症状
Suitable
Overdiagnosis
とても遅い
画像所見
癌の発生
他病死
時 間
62
マンモグラフィ検診の過剰診断
• マンモグラフィ検診の30年間の効果
NEJM 367: 1998-2005 2012
早期癌と進行癌の30年間の発見率変化の観察研究
検診の効果があれば、早期癌が増え、その分進行癌
が減るはず。
63
マンモグラフィは増えた
• 早期癌は増え
たが、進行癌は
少ししか減って
ない。
• 早期癌増加
122/10万人↑
• 進行癌減少
8/10万人↓
早期癌も増えた
進行癌はそんなに減ってない
64
NEJM Bleyer, Welch論文の結論
• 乳癌検診によりかなりの早期乳癌の増加が
あるが、進行癌の減少の程度は少ない。
• この早期癌・進行癌の不均衡から推定すると、
新たに診断される乳癌の約1/3(31%)は過剰
診断であろう。
65
過剰診断の文献のまとめ
著者
発表年
2)
国
デザイン・方法
過剰診断(%)
10%〜30%
死亡率
減少効
果
2012
米国
時系列研究、SEERプ
ログラム
22-31%
−
2006
スウェーデン
(Malimö trial)
RCT, 検診後15年間追
跡
10%
(50-69歳)
19%
Miller AB 4)
2014
カナダ
(CNBSS)
RCT, 検診開始後25年
間追跡
22%
(40-59歳)
なし
Marmot MG 5)
2012
英国
UKパネル
Malimö, CanadaのRCT
解析
11-19%
(50-70歳)
20%
Jerzensen KJ
Gotzches PC 6)
2009
英国、カナダオーストラリ
ア、ノールウェ、スウェー
デン
SR、メタアナライス
観察研究
52%
15%
Puliti D
Duffy W 7)
2012
オランダ、イタリア、デン
マーク、イギリス
SR, ヨーロッパワーキ
ンググループ,
観察研究
1-10%
(リードタイム
バイアス補正)
−
2006
日本
コホート研究,
MMG+US+視触診
50%
−
66
Bleyer A
Zackrisson S
Hamashima C
3)
8)
欧米文献より過剰診断のまとめ
1. 各地域・各年代の罹患率や死亡率を用いた観察研究、
モデルによる解析であり、種々のバイアスのが想定される
2. あくまで過剰診断は推計値(excess cancer)である
3. MMG検診導入後の乳癌罹患率は上昇している
4. 発見癌の10%〜30%が過剰診断である
5. 不利益に対する受診者へInformed decision必要
過剰診断となる可能性のある乳癌
• 発育速度遅い癌、高齢者の癌、非浸潤癌
(low grade DCIS)微小浸潤癌、サブタイプの
luminal A など・・・・・
• 過剰診断となる癌の研究が必要(病理学的
検討、遺伝子、画像等)
• そして、その診断・治療をどうするか?
68
• 過剰診断(Overdiagnosis)とは
• 放置しても致死的にならない癌を診断し治療す
ること
– 検診でこのような癌を発見し治療することは受診者
の不利益につながる
• 癌側の要因
– 成長速度がきわめて緩徐であるか、きわめて早期に
癌が発見された場合
• 受診者側の要因
– 高齢者や重篤な合併症を有する患者
結語
• 嚢胞性病変の治療は、過剰診断に留意し、
不必要な手術は回避するべきであるが、適切
な切除範囲を計画した愛護的な手術を行うこ
とが肝要である。
• 次にどうするかを予想した手術をする。
• 手術では、最善を考えて行う。
• 診断や治療を伝える時には、相手の目を見て、相手の気持
ちを考えながら、話をする。
• 自分自身の家族や、大切な人だと思って、治療する。
70