フロンティアスピリットを、 再び

巻 頭 言
フロンティアスピリットを、
再び
全老健名誉会長、介護老人保健施設大宮ナーシング・ピア理事長
漆原 彰
老健施設の運営が厳しさを増している。介護報
酬の仕組みでは、報酬全体が引き下げられるなか、
平成24 年度に新設された在宅強化型、在宅復
帰・在宅療養支援機能加算型(以下、加算型)と、
それ以外の報酬差が拡大したことで、従来型の経
営が厳しくなった。これからさらに顕在化してゆ
くだろう。一方、在宅強化型でも加算型、従来型
との比較においては優遇されたものの、介護報酬
自体は引き下げられた。また診療報酬上で、在宅
強化型への退院が評価の対象となったことで、医
療依存度の高い入所者が増加する傾向となりなが
ら、施設の医療提供体制やその評価は変わらない
ままで、従来型とは異なる苦労を強いられている。
さらに、生活介護施設である特別養護老人ホー
ム等でも、利用者に対して近隣医療機関との連携
による日常の医療的管理はもとより、急性変化や
ターミナルケアにも対応できる体制を整えつつあ
るほか、サービス付き高齢者向け住宅など新規参
入の「ケア付き住宅」は、老健施設のような制度
的縛りが少ないため、往診医や訪問看護等による
経管栄養、IVH、さらにはターミナル期にまで
対応し始める等、その受け入れの幅を拡大してい
る。地域によっては老健施設の入所者と競合する
存在として確実に影響力を強めており、新規入所
者の獲得に頭を悩ませる老健施設も出てきている。
いま推し進められている在宅医療・ケア推進へ
の流れは強力であり、医療やケアの提供体制やそ
の整備状況が大きく変化するなかにあって、老健
施設にとって苦難の時代を迎えつつあると思う。
こんな時に我々自身どうすれば良いか。少し昔に
思いを馳せてみた。
老健施設制度が創設されてから20 数年が経過
した。モデル施設でのトライアルから始まり、発
足当初は伸び悩んだ老健施設もその後の診療報酬
上の政策誘導もあり、 5 ~ 6 年もすると老健施設
は安定的な経営のできる施設として保健医療福祉
関係者に認知されるようになり、その数を飛躍的
に増加させるに至った。
時代を振り返って、ここに改めて思うのは、黎
明期の老健施設のもっていたフロンティアスピ
リットである。制度発足直後の老健施設では、経
済的余裕のないなかで、それまでの特別養護老人
ホームや病院の常識を塗り替える医療ケア、リハ
ビリ、それに日常生活支援の在り方を、それぞれ
の施設で模索し、国とともに考えた数多くのパイ
ロット事業を行った。手本もないなかでのそれら
の作業は試行錯誤の連続であり、困難な道でも
あった。しかし、だからこそ自由で新しいカテゴ
リーの老健施設が創造され、国民の理解と支持を
得たのだと思う。
多くの関係者からご批判を受けるかもしれない
が、これまで私たちの老健施設は恵まれ過ぎてい
たのかもしれない。時代の風やそれに対応した制
度、そして報酬の流れにさえ乗っていれば確実な
運営ができたことで、老健施設の在るべき姿をギ
リギリのところから考え抜く作業が少し疎かに
なっていたのかもしれない。
私たちは何もないところから自分たちで老健施
設の姿を創造してきた。もちろん行政や社会、そ
して時代の後押しもあったが、そのソフト部分は
間違いなく老健施設関係者が自ら構築し、実践し
てきたものである。それらソフト部分が一般化し
たいま、老健施設は苦難の時に入った。だからこ
そ、地域包括ケアシステムの構築が進められるな
か、それぞれの地域にあって地域の特性や課題を
把握し、かつてのようなフロンティアスピリット
で老健施設の在り方を改めて模索し、自らの活路
を開く努力をすべきだと思う。
老健 2015.8 ● 5
005巻頭言(三)0625.indd
5
2015/06/25
13:18:37