連立方程式とフーリエ級数 連立方程式と関数展開 a+b+c+d a+b−c−d a−b−c+d a−b+c−d 次の連立方程式を考えよう。 = 5 = −3 = 1 = 5 この連立方程式は解を持ち、それは a = 2, b = −1, c = 3, d = 1 である。 この連立方程式の変数 a, b, c, d の係数および右辺の定数をベクトルと考えて書 き直すと、 a 1 1 1 1 + b 1 1 −1 −1 + c の形に書くことが出来る。 さらに、 f1 = 1 1 1 1 , f2 = 1 1 −1 −1 1 −1 −1 1 + d , f3 = と定義すると、最初の連立方程式は、 1 −1 −1 1 1 −1 1 −1 = , f4 = 1 −1 1 −1 5 −3 1 5 ,F = 5 −3 1 5 af1 + bf2 + cf3 + df4 = F となる。 これは、ベクトル F, f1 , f2 , f3 , f4 を一種のデジタルな関数であると考えれば、関 数 F を 4 つの関数 f1 , f2 , f3 , f4 の線形結合で表現した、と見なすことが出来る(図 1)。 これは、F = (5, −3, 1, 5) に限った話ではない。あらゆる関数 F に対して、連立方 程式の解 a, b, c, d が存在する。つまり、さまざまな関数 F は、4 つの関数 f1 , f2 , f3 , f4 によって表現可能なのである。 この例ではデコボコが 4 つある矩形関数を扱っているため、合成関数 F の形も 荒っぽいものになっているが、矩形関数はデコボコを増やせばどんどん細かくし ていくことが出来る。その結果、関数 F は次第に滑らかな連続関数に近づいてい くだろう。 実際、フーリエ級数とは本質的にはこれと同じようなものである。何も三角関 数を使わなくても、矩形関数であっても同様なことが可能なのである。 1 図 1: 連立方程式の解による分解 関数の直交性 ここで使ったベクトル f1 , f2 , f3 , f4 は、きわめて特殊な形をしてい る。わざわざ選んでこのようにしているのには、もちろん理由がある。 ためしに、どれでもいいので 4 つのベクトルのうちから 2 つを選んで、その内 積を計算してみる。 f1 · f2 = 1 1 1 1 · 1 1 −1 −1 =1+1−1−1=0 のように、どれを選んでも結果は 0 となる。したがって、この連立方程式を解く とき、未知数 a を求めたければ、方程式の両辺にベクトル f1 = (1, 1, 1, 1) を掛け ればよい。すると、未知数 b, c, d に係っているベクトル f2 , f3 , f4 の内積は 0 とな り、消えてしまう。つまり、 a 1 1 1 1 · 1 1 1 1 5 1 −3 1 +b·0+c·0+d·0 = · 1 1 5 1 4a = 5 − 3 + 1 + 5 a = 2 となって、確実に a を求めることが可能なのである。b, c, d についても同様であ り、右辺の関数 F がどのような形であれ、問題ではない。よって、あらゆる関数 F は f1 , f2 , f3 , f4 の線形結合に分解可能なのである。 このような方法で方程式の解が求まるのは、方程式の係数ベクトルに、 異なる 2 つを掛け合わせると 0 になる 2 という性質があるからである。 このような性質は直交性と呼ばれる。つまり、上の例では係数ベクトル f1 , f2 , f3 , f4 が互いに直交していたから、任意の関数を分解して表現できたのである。 一般に n 次元ベクトル f = (f (1), f (2), · · · , f (n)) と g = (g(1), g(2), · · · , g(n)) があって、 n X f (i)g(i) = 0 i=1 を満たすとき、これらのベクトルは直交する。 ベクトルの次元数が非常に大きくなって、f と g がほとんど連続関数であると 見なせたとすると、 Z f (x)g(x) dx = 0 となるとき、2 つの関数 f, g はやはり直交するといわれる。 実は、三角関数はこの性質を満たす。ここにフーリエ級数のカラクリが隠れて いるのである。 3
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