概要 - 則定隆男

タ イ ト ル : 日本のコンテンツ産業の現状と課題
-成功企業から学ぶ異文化に受容されるコンテンツとは―
所 属 ゼ ミ : 則定隆男ゼミ
執筆者氏名: 升迫 陽輔
(本文は次頁から開始してください)
第一章 はじめに
ポケモンは異文化に適応するためにキャラ
コンテンツ産業とは、経済産業省によれば
クターの名前を現地の馴染のある名前に変更
「映像(映画、アニメ)、音楽、ゲーム、書
した。さらに作中の日本的風景を意識的に排
籍等の制作・流通を担う産業の総称。」と定
除し、可能な限り無国籍な背景づくりを行っ
義されている。日本のコンテンツ産業の市場
た。またゲームにおける世界共通の価値観は
規模はおよそ 12 兆円で、これは米国に次ぐ
アニメではポケモンの捕獲などという批判を
世界第二位である。しかし海外売上比率を比
浴びる可能性があることから、主人公とポケ
較すると、米国の約 17%に比べて、日本は約
モンの友情や成長といった部分をテーマに打
5%しかなく、著作権収支は大幅な赤字とな
ち出すことで、万人に受け入れられる普遍性
っている。日本のコンテンツは海外から高い
を手に入れた。
評価を受けているにも関わらず、なぜ外貨を
稼げていないのかと疑問を覚えた。いくつか
第三章 ディズニーの海外戦略
の問題がある中で、私は、コンテンツには日
ディズニーの異文化適応戦略は次の3つに
本独自の文化が反映されていることが問題で
大きく分けられる。①アメリカのディズニー
あり、世界で受け入れられるためには日本の
で世界標準の作品を作りそのまま輸出する。
文化を取り除くことが必要であると考えた。
②世界標準の作品を集団に合わせて現地化す
る、若しくは特定の文化を反映した作品を作
第二章 日本におけるコンテンツ輸出の成功
例
り世界に売る。③アメリカ以外の文化背景で
生まれた現地作品を海外へ輸出する。
第一節 パワーレンジャーの現地化
さらにこれら3つの戦略が単体で働いてい
パワーレンジャーをアメリカで成功させた
るわけではなく集合的に働くことで利益を稼
要因として現地化が挙げられる。パワーレン
いでいる。たとえば、スティッチは元々アメ
ジャーの作品の構成を大きく2つに分けると
リカで作られたものを日本に輸出し、一定の
戦闘シーンと戦闘以外のシーンに分けられる。
人気を得たあと日本の現地版を作る、そして
現地化を手掛けた人物、サバンが行なったの
日本の現地版をアジアへと輸出するといった
は、その国の文化が反映されやすい戦闘シー
戦略がとられた。つまり全世界版で儲けるこ
ン以外をアメリカ人の趣向に合うように改編
とと、
現地版で儲けることを繰り返している。
することであった。具体的には、戦闘シーン
このようにディズニーはひとつのコンテンツ
以外の配役をアメリカの俳優に変えるのはも
で一度だけでなく二度三度とヒットを生み出
ちろん、レンジャー5人の中に女性を2人入
すことができている。
れる、またそれぞれの人種も白人、黒人、ア
この戦略を実践できるのは、ディズニーが
ジア系のようにアメリカの人種の多様性を反
作品に一貫性を持たせているからである。つ
映した。
まり作品によっては現地化する必要があるこ
とを踏まえながらも、コンテンツに出現する
第二節 ポケットモンスターの無国籍化
文化背景よりディズニーが主張する価値観で
より多くの集団を魅了しようと考えて作品づ
くりを行っている。
第五章 クール・ジャパン政策の矛盾
異文化の受容には文化をそのまま受容する
第四章 文化たまねぎを用いた考察
か、現地化してから受容するかの2パターン
文化たまねぎモデルとは、端的にいえば文
が存在する。日本は官民が連携してコンテン
化には目に見える部分と目に見えない部分が
ツの海外展開に力を入れている。それにも関
存在していると定義したものである。
わらず成果が出ていないのは政策に矛盾があ
るからだ。政府は日本文化の輸出か、コンテ
X→顕在化した文化の層
ンツで外貨を稼ぐのかのどちらに重点を置く
(言語や食べ物など)
のか選択しなくてはいけない。もしくは「ド
Y→潜在的な文化の層
ラえもん」のように、地域によって現地化す
(規範や価値観)
る度合いを変えるといった戦略の柔軟性が求
図:文化たまねぎモデル
められる。
これまで紹介したコンテンツの成功事例に
第六章 おわりに
共通しているのは、上記の文化たまねぎモデ
日本のコンテンツが海外で受容され外貨を
ルのYの層にある価値観や世界観が世界標準
稼ぐためには、現地化が欠かせないというの
であるということだ。つまり、異文化に適応
がこれまで議論の中心だった。日本のコンテ
するためにはコンテンツに万人受けするよう
ンツはこれまで国内市場が大きかったことか
に「普遍性の追求」が求められるということ
ら国内向けの作品を作ればよかったため、世
である。こうしてみると、これまで文化の表
界で売るという視点が欠けていた。
その結果、
層の現地化ばかりに気をとられていた日本の
日本人にのみ理解できる文化や慣習などを反
コンテンツが海外で失敗してきた訳がわかる。
映したコンテンツが多く、これらを海外の
日本はこれまで、たとえば YouTube からニ
人々にも理解してもらうためには現地化せざ
コニコ動画が生まれたように、世界標準のも
るを得なかったのである。
のを日本独自に作り変えることが得意だった。
しかし、文化たまねぎモデルを用いた分析
その一方で、日本独自を世界標準で作るこ
で示したように、ディズニーやポケモンなど
とには長けていない。日本がガラパゴス化し
世界で外貨を稼ぐコンテンツには顕在化した
ていると揶揄されているのはそのためである。
文化の現地化よりも、文化の潜在的な部分で
しかし日本もコンテンツの普遍性や価値観に
万人に受け入れられる普遍性を重視すること
重きを置いた作品づくりをすれば、世界で通
が必要だ。今後は、官民一体となって、より
用するクオリティを有する作品を作ることは
世界に目を向けたコンテンツ作りに期待した
可能であり、ポケモンのようにポテンシャル
い。
を秘めた作品がまだまだ多く残っているはず
だ。