JA館林市の考える『土』つくりとその実践

JA館林市の考える『土』つくりとその実践
園芸営農部園芸指導課
『土』つくりと言ってもその考え方や方法は様々です。もっとも人間が『土』そのもの
を作ることは出来ません。なぜなら海と共に地球の産物であり万物の創生、生命の源であ
り、ゆえに偉大な母なる『大地』であるからです。
ここで便宜上使う『土』作りとは『土』が持っている機能を回復させる市の手助けをし
て行こうと言う事になると思います。
1・『土』とは何か?
まず『土』とは一体どういう物なのか漠然ととらえてもなかなかその物は見えてきませ
ん。そこで、最初に土壌粒子という物でとらえて見るとケイ酸とアルミナの複合体 0.002m
m以下の粒子であり無機物です。
ケイ酸は(−)イオンでアルミナは(+)イオンの電気を持っており通常ケイ酸の比率
が高いので総体として(−)イオンの電気を持っていると言う事になります。さらに拡大
をしていくと土壌の中では気相、固相、液相という『三相分布』の成り立ちがあります。
それらは、自然からの恩恵や試練を与え続けられ風化、運搬、堆積を繰り返し一定の体
積を保ちながら『土』を生き物に変え微生物が繁殖し、より複雑で高度なメカニズムを保
持して作物を育て上げる事の出来る培地となっていきます。
日本の耕作地は火山灰土(黒ボク土壌)で酸性が強く加えて高温、多雨の季候のため無
機成分の溶脱が激しく収量性の低い土でした。戦後、食料増産の目的で土壌改良が行なわ
れ、その主役は酸性改良の石灰と成分重視の化学肥料であり、有機物としてのきゅう肥(糞
尿)であったと思います。それでも土壌がアルカリに近づきアルカリに溶けるケイ酸(−)
の電気が強くなった事で保肥力が上がり作物も増産できました。
ところが、60 年経過した現在でも土壌の管理は当時の発想であり、さらに悪い事にアル
カリ化した土壌はケイ酸(−)分が溶脱をはじめ保肥力が減少し収量も落ちてきました。
そこで、収量確保の対策としていろいろなタイプの肥料が出現し、多肥栽培とさらに進
むアルカリ化の中で『土』は本来の機能を失いつつあるのです。
JA館林市では年間600点を超える土壌分析を 20 年以上続けてきました。その結果、
40 年以上にわたる施設園芸の主力産地として大きな間違いもせず産地、風土に適した作物
を維持してきました。さらにこれからは、安心、安全の名の下に徹底した『土』の見直し
を図り、本来の野菜が供給できる産地として基本的な考えをまとめて行きたいと思います。
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2・『土』の機能を回復させる 3 つの方法
まず、『土』のゆとりを取り戻す事が先決です。土の持つ力、つまり塩基置換容量(肥料
を保持する力、CECという)を大きくする事です。
① 良質粘土を投入する
もともとがCECの大きい良質粘土(モンモリロ系)の投入を行い、多肥栽培により
土壌中に溢れ出た肥料を吸着させ、土壌中の塩基濃度を薄めていく方法です。
② 腐植を高める
腐植自体が大きなCECを持っており、良質の有機物を入れることです。腐植は有
機物のみが高めてくれる唯一のものであり、科学肥料や土壌改良剤などでは上がりま
せん。しかも、この有機物とは繊維分が多い植物性の粗大有機物なければなりません。
その結果土の団粒化が進み有用な微生物が繁殖します。
③ 作土層を広げる
作土層を深くし根が接する土の量を増大させることで、CECを高め根が伸びやす
い条件を与えてやる事です。
以上の3つは自然界が味方する夏場特に 7 月を基本に実施します。また、土壌分析の結
果をベースに『土』の程度によって加減をしていきます。何時やっても良いという事でも
ありません。
JA館林市ではそれに用いる資材を長年の実証の中で安心して使用できるようになって
います。
土を良くする施肥が土を悪くしていては本末転倒です。
(肥料は餌では無い)家畜に餌を
与えるように肥料を与えても作物は太りません。
肥料は土の働きを通じてはじめて作物に吸収されるものなのです。土が作物に肥料分を
供給しているのであり施肥はその働きを助けるものです。従って施肥は土に対して行なう
ものであり、作物に対して行なうものでは無いという考えを持たなければなりません。
3・それでは土は作物にどのように肥料を供給しているのか?
土壌溶液、つまり作物の根と肥料を送り込む土との接点に着目しなければなりません。
施された肥料はそのまま作物に吸収されるのではなく一度土に蓄えられてから作物に吸
収される事になります。施された肥料の大部分は固相に蓄積され(−)の電気を持ってお
りカリ、石灰、アンモニア態の窒素などの(+)の肥料を保持している土壌粒子と各種の
水に溶けにくい有機質とから構成されています。これらが送り手で受け手は根です。その
中間に土壌溶液(液相)があるわけです。根が液相から肥料分を吸収するとそれを補う形
で固相から肥料分が溶け出す。それは同時に根が水素イオンや炭素イオンを分泌し酸を放
出し、液相に増やし固相から肥料を溶けやすくしている。固相⇒液相⇒根という形で固相
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が肥料を送り出す関係は、根⇒液相⇒固相という形で根が肥料分を引き出す関係に支えら
れているのです。
以上のような送り出す、引き出すという関係がスムーズに維持されれば作物は健全に育
つことが出来ます。
4.土の働きをしるためのPH
この溶液の状態を知る上で主要な指標はPH(土壌酸度)です。なぜPHが問題になる
かは水素イオンの量との関係になります。水素イオンが多いとPHは低くなり、少ない場
合はPHが高くなると思ってください。
つまり固相が肥料分を送り出す、同時に根が肥料を引き出す関係において溶液中の水素
イオンが仲介役として行なわれるわけです。
土壌溶液の中の水素イオンの含有量を示すのがPHです。PHが低すぎる(肥料が不足
して水素イオンが多すぎる土)でも駄目で、PHが高い(肥料が過剰で水素イオンが低い
土)でも作物は健全に育たない事です。
当地では土壌分析の結果、十数年前からPHの上昇(同時にカリ、石灰の上昇)が見受
けられました。PH6.0 を基本に除塩(溜まった肥料の洗い流し)対策を行なっています。
一つは、夏場にハウスの中に水を張り込み、肥料分を溶かし暗渠排水の施工率は、当地
のハウス全体の約 60%に達しています。暗渠の効果はそればかりではなく、湿害の対策や
逆に夏場や干ばつ時に水を溜め事により一定の水位保つ事にも役立ちます。
土の健全化を図るための方法としてももっと多くの普及を心掛けてます。
また、場合によっては作物をあまり作っていない山土などの処女地を客土したこともあ
ります。総じて現在の土はアルカリ化した肥満型土壌であり、施した肥料が効かず、さら
に多くの施肥をする悪循環の繰り返しが行なわれ、生理障害・要素欠乏・根腐れ等による
病害虫の多発が引き起こされる事になりました。
『土』つくりの第一は肥満になった土壌をダイエットさせ余分な肥料を落としてやる事
です。
5・『本当の有機農法』
先述した土壌粒子とは別に固相の形成に重要な働きを持つのが有機質です。『土』の中に
は、無機と有機が混然一体となってその役割を担っています。有機質は土壌微生物の貴重
な供給源であり、有機なくしては微生物の活動はあり得ません。また、微生物の活動なく
しては土その物があり得ないのです。
良い『土』の重要な指針にCECと同時に腐植があります。如何に高価な科学肥料や土
壌改良剤を数多く投入しても腐植は高まりません。
土壌微生物に最も適した有機質とは、繊維が豊富な植物体の粗大有機物であり家畜の糞
尿ではないのです。ましてハウス栽培では、家畜の糞尿に多く含まれるナトリウムやカリ
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が土の単粒化をおこし、水はけの悪い硬い土を作ってしまう原因にもなってしまいます。
家畜糞を使用する場合は、堆肥全体の約 2 割程度で他の有機物と合わせ、必ず好気性発酵
を行いC/N率を高める資材との組み合わせの中で使用する事です。
結論から言えば、弱酸性のPHを持ち、水素イオンが適量にあり肥料を施しても濃度障
害にならず施肥量に応じて収量が増量する土、つまり保肥力が高まく、保水・排水が良く、
腐植に富、団粒化が促進でき、微生物が住みやすく、通気性に優れた土を作ること、伸び
伸びと根っこが伸ばせる土が良い土であるのです。
『土』つくりとは、これを入れたら出来るという物ではなく、全体として捉え弱点を見
つけ改良していく事です。さらに当地では、従来の作物の三要素から多量要素を 6 要素に
広げ、そのひとつの『S』イオンと共に微量 8 要素『Z』亜鉛に着目しました。
これから先はより高度で専門的になってきます。
まずは基本的な『土』の在り方として述べさせて頂きました。
追記
こうしてみると、戦後の土つくりと日本人の体格つくりは見事に酷似していませんか?
一見すれば立派に見えますが、内容はいかがなものでしょうか?
一億総半病人と言われるのはどうしてでしょうか。土も人も有り余る物の中でその体質
を見失った結果だと思うのです。
生命をつなぐ最も重要なものは食糧です。そして、その食糧としての意味は、食して健
康に良いもの、元気が出るもの本来その物が持っている美味しさがあるものを指していま
す。そのためにビタミン・ミネラルの富んだ野菜を作り、食した人間を健康にすることで
す。全てのはじまりは『土』つくりから。
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