15.自然共生、ミチゲーションとはなにか? 必要悪という見方も?

15.自然共生、ミチゲーションとはなにか?
必要悪という見方も?
自然が営々と活動しているものを、分断、促進、遮断、遅延などをすることは不可能であ
る。そういう中で、われわれは自然を活用するわけであるが、一部だけを切りとってそこで
完結させるような利用は、自然エネルギーをそのままで利用する以外はほとんどあり得な
い。そうなると、自然を活用するという点では、何らかの負荷が一時的にしても発生するこ
とを考え、その活用に制限が出るということは重要な認識である。そのためにはどのような
気配りが求められるのかを、地すべりという土砂の移動に対する対策を例に考えてみたい。
地すべりは、斜面などが一つの土塊として下方に移動する現象で、発生すると家屋や道路
などが被害を受けることがあり、発生の時間によっては被害者も出る場合もある。
このような地すべりは、豪雨や融雪などによる地下水の影響や斜面を開削したりしてバ
ランスを崩して滑ることが原因である。一般的には、規模に比例してすべり面の深さも深く、
かつては鉄道やトンネルなどに影響して、長期間、交通がストップした例もある。
このような地すべりは、かつての形跡を残すような地形などから想定されるものもある
が、新たな地すべりを起こすものもあるし、想定されていないような深層すべりのようなも
のまで多様である。これ等の対策には、動きを抑制するものと抑止するものとがあり、その
地すべりの現況や保全すべきものによって使い分けしている。抑制工は、地すべりの動きを
緩慢化することが目的で地下水位を下げるというのが一般的である。一方、抑止工は文字通
り力で抑えてしまうということで、鋼管杭を挿入するあるいはアンカーで斜面を締め付け
るということが行われている。抑制工は、いわば対症療法のようなもので、様子を見るとい
うことであり、抑止工は本格的な外科手術のような感じになる。また、コストを考慮して、
地すべりの頭部を切土や、裾部に盛土をして安定化を図るということも行われている。この
ような対策工では、地形の改変や地下水位低下による水理環境で、周辺の環境に変化を及ぼ
すことがある。植生などは、補植したり、郷土種の導入などの建設環境に配慮した復元が可
能な場合もあるが、大規模な土工による環境破壊も皆無ではない。地すべりへの対策はでき
たが、環境を失うという付加が発生すれことになれば、大きな環境財を失うことにもなり、
先を見据えた可能な限りリスクを特定して自然の流れを切らさないようにしなければなら
ない。
このような対策は、一つの専門領域だけで、一つの目的だけで満足されるものでなく、広
い視野で、様々な観点から継続される循環型の環境を維持するように努力しなければなら
ない。科学技術は単独で有効性や価値を生むものでないことを意識して対応することで、環
境や社会への影響を最小限にして安全な生活が可能であり、良好な自然環境を次世代へ継
続することができる。
科学技術は限られた専門家が推進するものではなく、一部の人が利用するものでもなく、
正負の両面の影響を受ける状況になっている。そのために、できるだけ総合的な視点で、環
境の改変にならないような対応が必要であるということであり、今後は、様々なトレードオ
フへの解決能力が問われることになっている。