「積極的平和」主義とは?

「積極的平和」主義とは?
August 28, 2015 カトリック新聞から抜粋
ガルトゥング博士
日本はどう国際平和に貢献すべきか―。
一般社団法人国際平和映像祭の招きで、「平和学」の父として知られるノルウェー生まれのヨハ
ン・ガルトゥング博士(84)が来日、8 月 19 日、東京都内で行われた、ジャーナリストの田原総一
朗さんとの“スペシャル対談”に登壇した。
ガルトゥング博士は、1959 年、世界初の平和研究専門機関「オスロ国際平和研究所」(PRIO)を
創設。約 60 年間に世界 100 以上の国家間や宗教間の紛争調停を行ってきた経験を持つ。「平
和学」の第一人者で、「積極的平和」という考えを提唱し、「平和」の理解に画期的な転換をもたら
した人物だ。
同博士によれば、「平和学」における「消極的平和」とは「戦争が無い状態」で、「積極的平和」とは
「貧困、抑圧、差別などの構造的暴力が無い状態」のことを指す。
安倍首相が、安全保障関連法案(安保法案)の答弁で「積極的平和」主義を連呼していることに対
して、ガルトゥング博士は“スペシャル対談”で、本来の「積極的平和」の意味とはかけ離れていて、
全く違う意味で使われていると、こう指摘した。
「『積極的平和』には、軍拡も軍事同盟も必要ありません。必要なことは、近隣諸国への理解や共
感を伴った協力関係です。日本の安保法案で得られるのは、安全ではなく危険。日本が米国と連
帯した場合、日本もテロのターゲットになることは間違いありません」
米国はこれまで、世界で最も多く他国への軍事介入をしてきたが、その方法として常に「対話では
なく軍事行動(破壊と殺害)」を選択してきた。テロリストと話し合うことをせず、ただテロリストを殺
害してきた結果、テロリストの数は 10 倍に増え、ISIS(自称「イスラム国」)を生み出すことになっ
た、と同博士は説明した。
粘り強い対話を
ガルトゥング博士が紛争調停を行う時には、「対話」から始めるという。過去の出来事や、相手へ
の否定的な感情や見方を“横に置いて”、まず「理想の未来」について肯定的な姿勢で語り合う。こ
うした対話を 20 回ほど重ねる。そして「理想の未来」を実現するための名案を出し合う。同博士は
現在、ISIS ともインターネット電話を使って対話をしているという。
「日本が安保によって、米国と運命を共にすることで、相手国の復讐(ふくしゅう)の意識は高まり、
軍拡も激しくなるでしょう。日本が、本当の平和政策を取っていくために、オルタナティブな(第 3 の)
道を提案したいと思います」
こう話したガルトゥング博士は次のような方法を挙げた。
(1)EC(欧州共同体)をモデルに「東アジア共同体」をつくる。
(2)スイスをモデルに専守防衛を真剣に考える。
(3)国際的に価値がある「憲法 9 条第 1 項」を、世界に広めるリーダーとなる。同第 1 項=「(略)
国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段として、永
久にこれを放棄する」。
(4)領土問題は、「領土」を両国で共同管理することで解決していく。
一方、“スペシャル対談”の相手を務めた田原さんも、安保法案は違憲だと考え、さらにその内容
にも反対であると明言。また近隣諸国と友好関係を築くという点では、ガルトゥング博士の意見に
賛成しながらも、「経済システムも違い、言論の自由がない国とどのように対話をするのか。東ア
ジア共同体の構想は無理だ」と真っ向から反論した。
これを受け、ガルトゥング博士は、相手国への否定的な感情や見方を捨て、粘り強い対話を続け
る必要性を一貫して説いていた。