報告者:小菅信子(山梨学院大学教授)

アジア国際法学会日本協会第6回研究大会
テーマ:戦後責任と武力紛争・植民地支配の被害者への補償
日時:2015年6月14日(日) 10時~18時
場所:立命館大学(京都)衣笠キャンパス
公募報告 (14時30分~15時20分)
テーマ:20世紀における戦後平和構築の転換と21世紀におけ
る戦後責任に関する考察 ― 思想、諸原則、実践
報告者:小菅信子(山梨学院大学教授)
使用言語:日本語
はじめに
• 報告者の研究関心
問題提起
「極限状況において暴力に依らず人間性をいかに守りうるか。」
問題の重要性
「極限状況における非人間的行為は戦後平和構築に甚大な悪影響を及ぼしうる。」
• 本報告における問題提起
「20世紀において平和構築観はどのように変化したか。」
(1) ふたつの世界大戦と戦争のさらなる残虐化
(2) 世俗化、民主化、ナショナリズム、国際法のさらなる発達
(3) 新たな概念が提唱:「構造的暴力」「積極的平和」「消極的平和」「暴力」
(4) 差別の撤廃をめぐる問題群
20世紀における戦後平和構築の転換
1. 人道と人権
2. 人道主義と反戦平和主義
3. 戦争犯罪・戦犯裁判・戦争責任
4. 核の脅威のもとで
5. 真実と和解
・人道主義と反戦平和主義をめぐる問題
ジャン・ピクテ『国際人道法の発展と諸原則』より:
私たちは戦争を違法化したことを大いに歓迎すべきである。しかし、この成果を得るための代償を忘れては
ならない。一度戦争が違法化されると、いかなる国家も宣戦布告するという罪を負いたがらない。そのため残
念ながら、戦争は以前のように繰り返され、当事者は誰も戦争をしていることを認めようとはしなくなる。当然、
国家は紛争に加担していることを否定するので、武力紛争法を適用したがらないわけである。
戦争を禁止したもう一つの結果は、『正義の戦争』という古代の神話が再び復活したことである。それは過
去に多くの悲劇をもたらしたが、十九世紀に消滅したと思われていた。今日、
戦争は既に述べた三つの場合には正当とみなされており、国連憲章の原則に反する戦争はいかなるもので
も違法と考えられている。現代の偉大な政治的イデオロギーの代弁者は、捨て
去ったはずの中世の虚構を再び採り入れているのである。………
[人道法の]違反者が相対的に罪を逃れる場合が幾つかある。その一つが既に言及した「正当性」である。
違法な行為は合法的行為の陰に隠れて見えなくなる。換言すれば、禁じられた暴力は許される暴力により覆
い隠されるのである。さらに敵対行為から生まれる極度の緊張と憎悪の中で宣告される判決と刑罰は、たと
えそれが正当なものであっても、敵にとっては不公平なものと見なされる恐れがある。それにより報復を誘発
する可能性もある。
また戦闘員は、最終的な勝利への希望と確信により、何をしても処罰されることはないと思うかもしれない。
さらに国家は、自国の軍隊の士気を低下させることを恐れて、彼らが犯した違反行為を処罰したがらない。国
家は、自国の将校や閣僚が犯罪者として法廷で尋問されるのを見たがらないものである。そのため戦争犯罪、
つまり戦争の法規と慣例への重大な熱意の結果であると考える傾向がある。
戦争を禁止したもう一つの結果は、「正義の戦争」という古代の神話が再び復活したことである。
戦後平和構築観の変遷とパターン
想起
報復の連鎖
裁きによる関係修復
正義は犠牲者とともにある
(復元的正義)
復讐は正義である
癒しは将来の勝利にある
癒しは名誉回復と記録化にある
私的報復
赦しの主体として犠牲者
和解
集団による不法処罰
非裁判形式の関係修復
復讐
即決処刑
正義は神とともにある
正義は勝者とともにある
(黙示録的正義)
勝者の権利としての復讐
癒しは栄誉と忘却にある
殲滅
奴隷化
征服後の同質化
赦しの主体としての神(支配者)
忘却による関係修復
敵の消滅
忘却
「裁き」による戦後平和構築のイメージ
加害者・侵略者
=戦争犯罪人
関係修復・和解・調和
「邪」
加害者に騙された者
=被害者
「再教育」
敗戦国
侵略を受けた被害者
敵の残虐性の犠牲者
「正」
戦勝国
「今から三百年前のウェストファリア条約でも、『今日以後、相互の国王の間にも、また相
互の国民の間にも、永遠の忘却あるべし』とあるではないか。講和条約に特別の規定、い
わゆる大赦条項なるものがなくとも、講和成立と同時に戦犯が釈放されることは、古い国
際法の原則ではなかったか。戦争が苛烈であればあるほど、戦争犯罪は戦勝国側にも敗
戦国側にもあるのが普通である。その双方が犯した戦争犯罪を相互に永遠の忘却に付し
てしまうところに真の平和があるのである。……復讐は、戦争終了後七年を経過してなお続
行されつつあるのである。これで世界の恒久平和が果たして招来せられるのであろうか。」
(瀧川政次郎(初版1952; 新版1978) 『東京裁判をさばく 上』、創拓社。
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核の脅威の下で
21世紀における「戦後責任」
4. 核の脅威のもとで
5. 真実と和解
Cf. ダブリンにて
おわりに
参考:「エリゼ条約」