食べ続けるための胃瘻という選択

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寄り
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族
家
-患者・
症例
PEG・在宅医療研究会認定 専門胃瘻管理者・認定胃瘻教育者
日本静脈経腸栄養学会認定栄養サポートチーム専門療法士「NST看護師」
山田 圭子先生
■主病名 レヴィー小体型認知症・褥瘡
■既往歴 子宮筋腫術後、
胃癌術後、大腸癌術後、胸腰椎圧迫骨折 ■現病歴 ADL一部介助(サービス;訪問介護5回/週、訪問看護1回/週)
4月に胸腰椎圧迫骨折にて入院。退院後の9月頃よりADLが急速に低下(寝たきり)食事摂取量低下、
褥瘡発生、状態悪化にて10月に紹介入院となる。
■家族構成 夫(要支援:2)
と二人暮らし。
■介護度 要介護4 (後に要介護5)
■認知症高齢者自立度 Ⅱb 幻視、幻聴は時々あるが比較的軽度で安定
■キーパーソン 長女
退院後は、長女の家の近くでの生活を準備している。在宅医からは、以前から胃瘻の話も少し聞いていた。
入院から胃瘻造設まで
4
が食事摂取状況を把握すべきである。
「この患者さんは食
当該患者は入院時の1ヵ月前から寝たきり状態で、経口
べているから大丈夫」
との報告を受けることがあるが、おお
摂取量の低下と褥瘡により入院となった。入院時の体重は
まかな摂取量ではなく、十分なカロリーが摂取できている
33.7kg、BMI:15kg/m2のやせ型で、Alb:2.6g/dL、O-PNI(予
かを見極めることが重要である。主食・副食の摂取状況、捕
後推定栄養指数*)
:33.0と低栄養状態にあり、嚥下機能低
食である栄養価の高い栄養剤の摂取量などをそれぞれ的確
下や褥瘡の評価点数も高いことから早期のNST介入となっ
に把握し、摂取カロリーを確保するためにどうしたら良いの
た。入院時の栄養評価は、BEE(基礎代謝量)899kcal、活動
かといった視点で食事状況を見てほしい。
この患者さんは経
係数1.2、ストレス係数1.3からエネルギー必要量1500kcal
口摂取平均800kcal/日であったが、液体でむせることがあ
と算出された。そこでハーフ食という考え方で主食・副食の
り、口腔内に食物残渣が貯留しやすい状態であった。摂取
量を半分にし、足りないカロリーを少量で高カロリーの栄
状況と同時に嚥下状態の把握も必要である。
さらに、嚥下障
養補助食品にて補うことにした。
害患者さんには様々な角度からアプローチが必要と言われ
このようなケースの場合、患者や家族にとって最も身近
るように、間接嚥下訓練の強化や頸部が過伸展しないよう
な存在であり、経口摂取や嚥下の状態を確認できる看護師
な姿勢保持など、言語聴覚士・作業療法士・理学療法士との
連携を図った。
一週間様子観察を行ったところ、食事摂取時の疲労感が
増し、十分な嚥下が出来ず、摂取量の低下や誤嚥するリス
クが高まった(体重:32.3kg Alb:2.2g/dL O-PNI:30.1)。
体を維持するために必要なエネルギーを経口摂取のみで
図1 造設後の栄養管理
H22.12. 2
胃瘻造設 PEGチューブ造影で逆流あり。
H22.12. 6
半固形栄養剤200kcal×3、栄養補助飲料×3、Wt37.0kg
H22.12.10 朝・夕;半固形栄養剤400kcal+栄養補助飲料
剤
栄養補助飲料
(造設1週目)
昼のみ経口食開始
昼のみ経口食開始
(退院後の生活を考慮、夫による食事介助あり)
昼;半固形栄養剤200kcal+栄養補助飲料
経口食;全粥200g・主皿、小鉢1品(とろみ刻み)
;200kcalの提供
計;1500kcal
充足できなくなり、今後の栄養管理についてキーパーソン
である長女にインフォームドコンセントを行ったところ、“父
と一緒に食事の時間を楽しんでほしい” “十分な栄養を入
れて褥瘡を治したい”との想いがあり、PEGを選択された。そ
こで、経口摂取と経鼻胃管による栄養管理を行い状態は安
定し
(体重:40.6kg Alb:2.6g/dL O-PNI:36.4)入院から
約1ヵ月半後に胃瘻造設術を施行した。
退院後もシームレスな支援体制を
褥瘡を治癒させ、廃用性筋委縮による活動低下を予防
し、経口摂取を維持していくために胃瘻による栄養療法は
効果的である。
胃瘻造設から退院までの栄養管理を示したのが図1で
ある。当該患者の場合、退院後も訪問看護・介護による在宅
ケアを続けていきたいとの要望があったため、在宅療養を
念頭にした栄養管理を行った。在宅療養になった場合、最も
注意を要するのは栄養剤の逆流であり、その防止のため半
固形状栄養剤を導入することにした。
また、
ご主人との食事
の機会も望まれていたので、昼食のみ経口摂取を実施する
H22.12.16 経口摂取にむらあり。摂取量1∼
。摂取量1∼ 10割
(造設2週目)
抑肝散処方・日中は車いすを勧める
感情にむら(泣き叫ぶ)あり
り・・・抑肝散
家人に注入指導開始
生活リズムをつける
(200kcal)
・情緒安定 褥瘡治癒 Wt39.7kg
H22.12.24 経口摂取量の安定(2
(造設3週間目) 食事時のポジショニング・残存歯の抜歯と口腔ケアなど長女と夫に指導
H23.1.6
Alb3.0 Wt37.6kg
退院前拡大カンファレンス
H23.1.29
退院
退院後:訪問看護4回・訪問介護1回・訪問入浴2回・訪問リハビリ1回・
デイサービス1回(夫と共に)
図2 在宅で実施された栄養管理
1200 kcal
経口摂取;200kcal
昼 市販のお弁当を刻む
夫の介助にて摂取も口腔内残留多くなる
すりおろしりんご・ヨーグルトなど
(夫の介助にて摂取;誤嚥なし)
胃瘻栄養;1000kcal
①栄養補助飲料 100kcal
②半固形栄養剤 400kcal
朝 訪問看護師が注入・4 回/W
*長女が朝・昼兼用で注入・3 回/W
デイサービス;胃瘻からの注入のみ
経口摂取なし
夕 長女が注入
半年毎の胃瘻交換時にフォロー実施(2年が経過)
;Alb;3.2 Wt38kg
褥瘡再発なし
ことにした。当初は経口摂取にむらが見られ情緒の不安定
状態も散見されたが、生活リズムをととのえることで次第に
に続けられたり、褥瘡に対しても十分な栄養管理を行うこと
安定し、1ヵ月間の栄養管理を経て退院に至った。退院後は
で治癒にもっていけたりすることもある。胃瘻を選択される
図2に示す栄養管理が在宅によって実施された。
前から、個々の患者さんや家族に寄り添って最善の方法を考
ここで考慮しなければならないことは、胃瘻を選択した時
えていく、さらに胃瘻を選択された後も、患者さんや家族の
点で、退院後は自宅で療養するのか施設に行くのかによっ
QOLが維持・向上できるようなサービスプランを具現化し、
て、入院中の栄養管理の状況を想定しておくことである。在
不安なく療養生活を送れるようにしていく。そして、それは
宅と施設では注入の時間が異なるであろうし、患者をケア
一時的なものではなく、定期的に患者さんの栄養状態を評
する体制も異なる。退院後の療養先での栄養管理を想定し
価し、状況に応じた栄養管理を行うことが、私たち看護師に
た対応は常に心掛けておかなければならない。そのために
与えられた役割ではないだろうか。
も退院前に十分なカンファレンスを行っておくべきである。
情報を一元化し早い段階から準備をして、退院後もシーム
レスな支援体制を維持できるような配慮は、患者や家族の
ために重要なことだと考える。
最後に
今、認知症に対する胃瘻の適応が議論になっている。
しか
し、現実にはPEGからの栄養を併用すれば経口摂取が十分
*予後推定栄養指数:PNI(prognostic nutritional index)
(本稿では小野寺スコアを用いている)
小野寺スコア
(O-PNI)
O-PNI=10×Alb+0.005×TLC
Alb:血清アルブミン(g/dL)
TLC:末梢血リンパ球数(/mm3)
5