[デジタルメディア教室 Vol.152] 遅ればせながらIoT

Writer
152
Vol.
ソリューション推進局
インタラクティブ事業戦略室
森 陽祐
Theme
遅ればせながら IoT
2012年7月の当コラムで私は、
「スポーツ界のデ
賞味期限を管理し、補充が必要な際はメッセージで
ジタル戦略からスマートデバイスの介入」
と題し、
促したり自動発注したり、冷蔵庫の中にある材料で
「iPhone でテニスの練習をしている姿を撮影し、そ
料理出来るメニューを案内する」といった機能です。
の場で動画を見ながらスイングのフォームチェックを
他には、大ヒット商品ルンバをはじめ今やすっかり生
する人の話」
、
「プロのバレーボール界で常識化され
活空間に定着している
「部屋の構造を検知して自動
つつあるリアルタイムのデータ入力・分析と、iPadを
で動き回るロボット掃除機」なども挙げられます。
活用してコート上にいる監督の手元へ戦略データを
これらで描かれる未来像は、いわゆる白物家電の
提供するアナリストの活躍」
について取り上げました。
ストーリーが多かったというのが個人的な印象です
あれから 3 年足らずで、デジタル世界は益々進
が、料理が苦手なひとり暮らしの私は日頃最低限の
化しています。
家事しか行わないので、なかなかこの IoT が響いて
こなかったのではないかと勝手に言い訳しています。
皆さんも、
ここ1,2年で
「IoT」
(In ter net of
Things)という言葉を耳にする機会が増えたのでは
しかし、冒頭申し上げた様に、私の趣味でもある
ないでしょうか。私も言葉の存在は以前から知って
テニスをはじめとしたスポーツにもIoT の話が本格
いたものの、最近になって気にするようになりました。
的に入り込んでようやく話題に敏感になってきました。
IoTという言葉自体は1999 年から使われ始めた
2014年に、ソニーから
「スマートテニスセンサー」
、
そうです。
「モノのインターネット化」
という意味で、
フランスのテニス用品メーカーバボラから「Babolat
あらゆる「モノ」に組み込まれたコンピュータがイ
Play
(バボラプレイ)
」というサービスが登場しました。
ンターネット上で繋がり、モノの中から得られる映像
ソニー製は小型の付属品をラケットの末端に装着す
やセンサーで取得する数値データを共有・分析す
ることで、バボラ製はテニスラケット自体に埋め込ま
る様になる、
という話です。
少し前まで
「ユビキタス、
れているセンサーによって実装されています。これら
ユビキタス…」
と呼んでいた気がしますがそれと
を使用してプレイする事で、1球毎に「ラケットのど
一体何が違うのか?いつの間に変わったのか?「ウェ
の部分にヒットしたのか」
「ボールにどの程度の回転
アラブル」
との境もよく分からなくなってきたぞ?と
量を与えたのか」
「ボールの速度は何 km か」といっ
私は感じてしまうのですが、細かい定義の範囲やそ
た情報がスマートデバイス上のアプリを通じて即時
れぞれの差については、既に色々な解釈や意見が
に可視化されます。またスマートデバイスで撮影す
飛び交っていてハッキリとした線引きは定まっていな
る事によって、実際の映像と連動してそれらの情報
いようです。
をチェックする事が出来るのです。スマートフォンで
IoTといって、まず真っ先に思い浮かぶ具体例は、
手軽に練習風景を撮影出来たとはいえ、あくまで自
冷蔵庫です。
「冷蔵庫の中身を常に監視して食材の
分なりの解釈でフォームのチェックや試合の分析を
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していた 2012年の状況からは、大きく進化してい
サービスは、どれも十万、百万円の価格設定がさ
ます。さらに素晴らしいのは、センサー付きラケット
れている世界の話ではなく、数万円の範囲内で享受
でプレイしても通常と変わらないフィーリングを保っ
出来るのです。これらコスト面と技術面の両方にお
ていることでしょう。微妙な感覚を大切にし、道具
けるIoT導入へのハードルが下がってきたことによ
の細部にまでこだわるプロ選手達が実際の大会の
り、家電やスポーツ用品といった消費者向けの商品
試合中に普通に使用していることからも、その違和
に限った話ではなく、流通業や医療分野など、あり
感の無さを物語っていると思います。
とあらゆる業界にも業務・工程の戦略立案や効率
化の目的のもと進んでいくものと思います。
他のスポーツにも目を向けてみましょう。まずゴル
フですが、こちらはグローブ側に小型センサーを装
「より良いモノが作られ、消費者が恩恵を受ける」
着してプレイすることによって、スイングスピードか
その意味でIoTは歓迎されるべきでしょう。しかし導
らバックスイングの位置、360度視点からのスイン
入のハードルが低くなったからといって「ここにもセン
グ軌道までデータとして確認出来るサービスが登
サーを追加しよう」
「あの部分のデータも収集したい」
場しています。野球のバッティングで装着しても同じ
と、何でもかんでもIoTとして盛り込もうとしてはい
様なことが出来るそうです。サッカーにおいてはア
けないと思います。
「ビッグデータ」
という言葉が流
ディダスが提供する
「micoach smart ball」
とい
行って久しいですが、ネットワーク上やシステム内部
う加速度センサーを内蔵したボールで、キック毎に
の様々なログ
(履歴情報)
を大量にかき集めて分析
ボールスピードから回転量、軌道までをモニタリン
することによって、あらゆる発見や問題解決が可能
グ出来るようです。種目に関わらず使用するスポー
だと当初は謳われていました。しかし蓋を開けてみる
ツウェアとしても、ラルフ・ローレンが今年、
「ポロ・
と、アナリストにとって本当に重要なデータはごくわ
テック・シャツ」
というセンサーをシャツの生地に
ずかで、残りはゴミデータと言っても過言ではないも
埋め込む形で消費カロリーや心拍数などが測定出
のばかりという状況をよく耳にします。また、その様
来るサービスを提供予定だと発表しています。従
に重要なデータを見極められるならまだ良くて、デー
来の腕などに端末を巻き付けて測ってきた実装とは
タが集まったはいいが、そもそも何をどうハンドリン
また異なる自然な形のIoTなのかと思います。
グして良いのか分からないといった事態が往々にして
起きており、これがIoTにも言えるのだと思います。
ここで挙げたモノは一例ではありますが、いずれ
IoTで実装された商品やインフラを最終的にサービ
にも言えることは、小型化された精密なセンサーに
スとして受けるのは消費者・生活者です。作り手側
よってごく自然な違和感の無い形で実装されている
がやみくもに IoTを進めるのではなく、受け手側が
点、スマートデバイス上で表現できて即時に分かり
本当に必要として期待している要素は何なのかを見
やすい形でのデータ表示、それを実現する為の安
極めていくことが今後の IoTの望ましい姿だと考え
定したネットワーク環境とクラウドサービスを軸とし
ます。
た柔軟なストレージ環境で構成されていることだと
思います。
皆さんが思い描く理想のIoTには、どの様な
また、コスト面も重要です。これまで挙げてきた
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Video Research Digest 2015. 5-6
「モノ」がありますか?