「きちんと考え、きちんと作る。」地産地消の家作り ― 株式会社 山口工務店 ― 取材日:平成 27 年 1 月 15 日(木) 取材先:株式会社山口工務店(伊勢市) レポーター名:山根、可知、樋口 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 今回取材に伺ったのは、伊勢市で昭和53年から地域に根ざした総合建設業を営む株 式会社山口工務店(以下、山口工務店)。公共工事・特殊建築物・一般住宅・リフォー ムなど、幅広く地域の建築に携わっている。今回おもてなし経営企業選の受賞企業とし て、特に評価された社内での取り組み「山口工務店フィロソフィ」を中心に、「地産地 消の家作り」として大切にされているお客様や地域への想いをお聞きしました。 おもてなし経営への取組み・・・「山口工務店フィロソフィ」 山口工務店には社員が作成した 80 項目のフィロソフィ (経営哲学)が存在する。項目は「感謝の心をもつ」 「常に明 るく」「仕事に打ち込む」など決して難しい内容ではない。 「当たり前のことがきちんとできているか、いつも自分中心 に考えていないか。そういう思いを皆が一緒にもってベクト ルを合わせていくためにフィロソフィを勉強して、企業の総 合力を高めていきたい」と営業チームの河口智哉さんは語っ ていた。フィロソフィはチームごとで輪読し、その思いをみ んなで共有している。 「我々のお客様というのはいろんな夢 を持って来ているので、さらに夢を持って帰ってもらいた い。そのためにも我々は常に明るくいられるよう毎日欠かさず一項目ずつ勉強している」 とも語ってくれた。フィロソフィの学習は 5 年ほど前から継続しており、 「山口工務店 フィロソフィ」は京セラの創業者である稲盛氏のフィロソフィを参考に、2 年前に制定 したという。フィロソフィが全社員に浸透し始めてからは業績も伸び、社内の雰囲気も よくなったそうだ。 また、驚くべきことに山口工務店にはマニュアルがない。お客様一人ひとりの立場に 立った提案や仕事ができるよう、フィロソフィの学習を通して行動の基となる判断基準 を確立することを目指しているのである。「お客様第一主義」という言葉があるが、お 1 客様の言うことを絶対のものとしてしまうと、結果としてお客様ためにならないものが 出来上がることもある。お客様がそう言ったからといって、人として正しくないことを していいわけでもない。その想いから、山口工務店では「お客様大事主義」を掲げてい るのだ。この姿勢は、まさに山口工務店フィロソフィの考えに基づいたものであると感 じられた。そんな山口工務店フィロソフィの中でも山口社長が一番大切にしているのが 「仲間のために尽くす」という言葉だそうだ。誰もが、自分のことを大切なように、仲 間やお客様を大切にし、社員全員が経営する意識を持って常に仕事に取り組む。みんな が主人公になれる会社、そんな会社を目指している。 地域と共に・・・ショールームの完成 山口工務店は、昨年秋ごろ新しいショールームを完成させた。ショールームは、ガラ ス張りの建物の中に 36 坪のモデルハウスが原寸大で建てられており、どんな季節や天 候でもゆっくりと見学できる。このショールームの完成には2つの意味がある。一つは、 もちろんお客様の満足度をより一層高めてもらうためだ。実際に、“本物”をお客様の 目で見てもらうことで住宅設計のビジョンが明確になるという。そして 2 つ目の意味に は、地域の職人さんの技術を大切にしたいという想いがある。山口工務店は大手ハウス メーカーと違い、地元である伊勢という一つの地域を中心に仕事をしている。仕事の依 頼主が伊勢の人であるのはもちろん、専属の大工さんや左官屋さんも伊勢の人間である。 「地域貢献というのは地産地消だと思っている」山口社長はこのように語ってくれた。 地域で建てる住宅を、素晴らしい技術を持った地域の職人さんが作る。それによって、 地域の中で経済を回していく。これが山口工務店が思い描く地域貢献なのである。 実際にショールームを見学させていただいたが、ショールームには職人さんの手によ って作られた建具や作り付けの家具などがあり、至るところに職人さんの技術が散りば められていることが感じられた。また、「職人さんたちの素晴らしい技術を知ってもら いたい」この想いから、ショールームの壁には大工さんたちの顔写真が貼られたパネル が設置されており、山口工務店が職人さ んを誇りにしている様子が伺えた。 地域で暮らす方たち皆が潤うことが できるように、なんとか地域の職人さん の技術を伝え、お客様と職人さんを繋げ ていきたい。ショールームはお客様と職 人さんを繋ぐ架け橋の役割を担ってい るのだ。 2 おもてなし経営企業選への応募・・・見える形で社会貢献 山口工務店は今期のテーマを社会貢献としている。これまでは〔全社員のボーナスの 1%+それと同額を会社から出資〕してユニセフに寄付するなど、小さな社会貢献をい くつかされていたとのこと。しかし、それらは目に見えないものが多かったため、今期 は目に見える社会貢献をしたいという思いで、そのスタートの意味もこめて「おもてな し経営企業選」に応募されたそう。受賞企業として、これからもこれまでの取り組みを 真剣にやっていくのに加え、今期のテーマとして掲げた社会貢献にも積極的に取り組み たいとのこと。おもてなし経営企業としてどんな取り組みをされるのか、今後さらに注 目していきたい。 真っ向勝負 「家を建てないほうがいいんじゃないですか?」お客様に対してこのように言うこ とがたまにあるという。本来家を建てることで利益を獲得する企業では絶対に言わな いはずであるが、山口工務店ではこれを言えてしまうのである。なぜなら、山口工務 店では常にお客様の立場に立って、家づくりを根本から考えているからである。お客 様から本音の要望を聞き、それを実現させるためにあらゆる方法を検討し、提案して いくのである。 「果たして本当に新築でいいのだろうか、リフォームの方がいいのでは ないか。」この考え方ができるのは、自らの利益のためではなくお客様と正面から向き 合って真剣に家づくりに取り組む山口工務店だからである。 「地域で商売をする以上、 ここから逃げることはできない。だから私たちはお客様と真っ向勝負なんです。」と営 業チーム藤川勝敏さん。取材の最後に熱い想いを語ってくれた。 3 ― 編集後記 ― 今回 1 番印象に残ったのは、本文でも書いた「家を建てなくてもいいんじゃないで すか?」という営業の方の言葉でした。正直最初にこの言葉を聞いた時は意味が分か りませんでしたが、お話を聞くうちに、「山口工務店の地域・お客様への思い」を感じ ることができました。 また、伊勢は私にとって馴染み深い地域でもあったため、その地域のことを考えた 「“地産地消”の家作り」というのも印象に残っています。取材後にショールームを案 内していただき、大きな庇や玄関先のスロープ、大きな引き戸など、末永く快適に生 活できる工夫がたくさんありました。ショールームというと、大抵の人は「顧客のた めに作られたもの」と考える人が多いと思います。例えば、顧客が自分のマイホーム を建てるときに参考にするためというふうに。事実、去年の秋、完成した山口工務店 のショールームもそのような一面はもちろん持っています。しかし、今回の取材を通 して、私は新たな一面に注目します。それは「職人と顧客をつなぐ場」という面で す。なぜ、職人と顧客を結ぶ必要があるの?と考える方もいると思いますが、それは 山口工務店が“地産池消”という考え方を大切にしているからです。地元の職人と地 元の顧客を結びつける場を設けることで、伊勢という地域を大切にするという姿勢に 惹かれました。 これまで家についてあまり考えたことがありませんでしたが、「きちんと考え、きちん と作る。」のモットー通り、住む人のことをとこと ん考えて作られた温かい家だと感じました。それ はやはり、社員の皆さんが日々勉強を積み重ね、 実践されている「山口工務店フィロソフィ」の成 せるものなのではないかと思いました。 今まで家を建てるということにあまり興味を持っ ていませんでしたが、この取材をキッカケに、「こ ういう家を建てたい、こういう人達に家を建てて もらいたい」と思うようになりました。このよう な機会を与えていただいたことに感謝したいで す。今後も、山口工務店さんが地元伊勢の地域とともに発展し続けることを願います。 4
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