-1- 18歳で選挙権を得ることに寄せて 6/23(火)校長講話 楠隼中高

18歳で選挙権を得ることに寄せて
6/23(火)校長講話
楠隼中高一貫教育校校長
山﨑
巧
先週の国会の決定で、皆さんはこの中高一貫教育校にいるうちに選挙権を与えられるこ
ととなりました。高校生は2年後でしょうか、18歳になれば、選挙権をもって投票する
こととなります。私であれば、まだまだ世の中のことを学ぶ過程ですので、大人と同様に
選挙権を持ってそれを行使することに多少のとまどいを覚えたかもしれません。しかしな
がら、日本の国家としての施策は、「公職選挙法」という法律を70年ぶりに改正し、来
年度から選挙する権利を18歳になったら持つこととして決定されました。私は、皆さん
一人一人にそのための心の準備が今から少しでも丁寧にできたらと思います。
なぜなら、私たちは国家に属する人間として、こうした一つ一つの社会の変動や政策の
波を、自分としてはどういうふうに受け止めようかとまさに主体的に、そして丁寧に考え
ることが、皆さん一人一人がたどっていく人生には、本当に必要なことだと思うからです。
人間は、何も学ばず、何も考えなければ、状況に流されていく生き物です。そして流され
ていくということは、本当に生きている充実感から遠ざかっていくということです。この
世の中を生きていくこととは、この社会の中で、充実感を感じようと求めて、日々求めて、
さらに求めて、主体的に学び考えていく過程であるといってもいいかと思います。
ですから、皆さんには、是非こうした機会を通じて、これから必要な社会の動きに強い
関心を持ってほしいと考えます。自分が、どう受け止めるかという視点で、学び考えてい
ってほしいと思います。
私は大学は文学部に入学し、古今東西たくさんの書籍を読んだと思います。大学進学の
理由も山ほど本を読みたいということでした。結果として、紀元前後の中国古典文学を大
学・大学院で専攻したので、自分がゼミで担当する場合は、たった2行程度の文を誰も解
読したことがない一部を理解するのに2~3日、または一週間、研究室や書庫にこもって、
やっと分かるというような学習でした。こんな生活ですから、政治や経済にはあまり関係
のない生活を送っていたわけです。
しかし、誰も解読していない古典の一節を解読する作業には、その文字の使われてきた
背景を知り、その上に、その時代の歴史や宗教や文化、そして政権交代などを、集中的に
調べ尽くすことで、やっとその意味が分かってきます。すなわち、古典文学を必死に読ん
でいくうちに国の成り立ちだとか、国と国との関係だとか、政権のあり方だとか、国家と
いうものについても、考え方の糸口が見えるようになりました。そして、法律や政治のこ
とも、興味をもって読むようになり、そして現代の政治のことも考えるようになりました。
世の中のあらゆることは、つながっているように思います。後は、全てのことに自分でど
う受け止めるかを考える態度が大切ではないでしょうか。
別の言い方で言うと、数学や理科、英語、芸術であっても、突き詰めて学習することは、
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哲学や国家,文化教育とかに必ず通じていくものかと思います。「一事が万事」と言いま
すが,一つのことを徹底して学ぶと、万事に通じていくということになるかと思います。
逆に言えば、今皆さんが学んでいく各教科の学習は、これから皆さんが専攻するであろう
科学だとか、医学だとか、社会学だとかの全てに関係していくものだと思います。
選挙権を持つという日は、本当に近い将来、いやおうなくやってきます。その時、皆さ
んは寮から投票所まで歩いていくことになると思います。その時に、自分の意思がどのよ
うに働くかはとても大切なことです。外交の問題や原子力発電をはじめとするエネルギー
の問題、さらに社会保障の問題、国の財政の問題等、日本が直面している問題は山積みで
す。どの人に投票するのか、どの党のどの施策がベストだと思うのか、非常に難しいとこ
ろです。私は高校生の頃なら、判断できなかったと思います。
政治や議会については、新聞での記事にも興味を持ちながら、さらにいろいろな事実や
課題を自分ならどう受け止めるか、少しずつ考えていってほしい、また、議会や政治のし
くみは河野先生から詳しく教えていただけることと思いますが、日々の各教科の学習の中
でも、いろいろなことに関連づけて考えてほしいと思います。自分なりの考えを持つのが
非常に難しいというか,時間がかかるのが政治の世界です。ただ,私たちの現実の生活を,
国家の行く末さえも,大きく動かす力を持っているのも政治や政策の力です。
皆さんは自分の中に主権者としての意識を早めに育て、どういう態度で国家の一員とし
て生きていくのかを、どういう政策がよりベターなのか,そして誰に当選してほしいのか,
場合によっては自分が政治に打って出るのか,真に考えていってほしいと思います。いず
れにしろ,時代や歴史を変えていくのは,若い皆さんのパワーしかありません。今,本当
に求められているのは,恐らく、世の中を主体的に生きていく熱意と,国内外を含めて世
界を広く深く遠く見通す視野,そして状況に左右されない冷静な判断力(精神の力)では
ないかと思います。楠隼でそういう力を是非養っていただきたいと思います。
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