No.15 平成26年 12月 2日号

こ遅
延
後の先
大相撲第 69 代横綱白鵬関の生き様から学ぶことが今回のやぐら通信のテーマです。白鵬関については
今更説明しなくても相撲ファンのみならず、日本に住んでいる人なら誰しもが一度はテレビを通してそ
の強さに触れたことがあるのではないかと思います。その白鵬関にメンタル面のサポートをされてきた
内藤堅志さんの観た、
「白鵬関の強さ」の秘訣を紹介したいと思います。
内藤さんがその強さを支える一つに挙げておられるのが、白鵬関の「対人関係」能力です。白鵬関は
誰に対してもたいへん素直に接し、人との交流をとても大事にされている力士だそうです。その背景に
あるのは、
「歴代の横綱は、みんな人の話を聴いて物事をおぼえていた」という教えをしっかり守ってき
たことです。白鵬関は、自身が尊敬してやまない大横綱であった故大鵬関や相撲界のOBの人たちとの
交流を通して聴いたことを、すぐに実践に取り入れようとする姿勢を持っているといいます。また、相
撲以外の分野で働く人や様々な立場の人の話にも真摯に耳を傾け、成長の糧にしようとする、
「傾聴」姿
勢も併せて持っていたそうです。こうした白鵬関の素直さは、やがて先輩や仲間からかわいがれ、さら
には厳しい稽古と相まって、その成長は加速度を増すばかりだったといいます。
「後の先(ごのせん)
」という言葉があります。昔の大横綱であった双葉山関が得意としていた立ち会
いの駆け引きのことです。相手より一瞬あとに立ちながら,当たり合ったあとには先をとっている相撲
で、出足が本物なら,一瞬先に立った相手に対して,遅れて立ったほうが低くいい角度で入ることがで
きるという技です。白鵬関もこの技を重視しているそうですが、日常生活の中でも、先ずは相手を受け
入れる、相手の話に耳を傾けようとする姿勢を強く打ち出していることにとても感心しました。
白鵬関が強くなれた要因は、人とのつきあい方、接し方、つまり人間関係を大切にしてきたことでは
ないかと思います。近年、日本の学校教育は、如何にして子どもたちに学力を身につけさせるかが議論
の中心になっています。しかし、本当に大切なことは、その学力を支えるのはその人が持つところの様々
な「人間力」ではないかと思います。白鵬関の強さのある部分は遺伝子的なもので説明されるかも知れ
ませんし、人並み以上の稽古だと言えるかも知れませんが、むしろそれ以上に、相手を受け入れるとい
う「生き方」にその強さの秘訣を見る思いがします。
すべての子どもたちが必ず持っているところの個々の「強み」。目に見える強みもあれば、外観からで
は見えにくい「強み」もきっとあると思います。素晴らしい能力を有することも「強み」であるのと同
時に、
「素直に人の話に耳を傾ける」という地味ではありますが大切な強みを、大人も子どもも共に身に
つければと思います。
校長
五十嵐 信博