●特集 / 04 年の注目企業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・日本バイリーン メーカーとして存在感示す研究開発 −今秋の量産化をめざす「光触媒担持不織布」 − 日本バイリーン㈱研究開発部 担当課長 臭気判定士 中村 達郎氏 日本バイリーンは昨秋,独自の粉体加工技術により光触媒粒子を不織布表 面に直接付着させることに成功した。その特長と開発の背景を,今後の市場展 布」として,国内および海外で特許を 出願している。 開と併せて,同社研究開発部担当課長の中村達郎氏にお聞きした。 従来より数段優れる耐久性 従来製品の問題点を解決 ー御社では昨秋,光触媒機能を もたせた不織布を開発されました が,どのような経緯を辿られたので しょうか。 中 村 光触媒を応用した製品の実 用化が進んでいるが,最近では不織 があげられる。繊維内部に練り込ま れたり,バインダーで覆われた粒子 には光が当たらないから当然,光触 媒機能が発揮できない。 ー従来製品と比べて,どのよう な特長があるのですか。 中 村 「光触媒担持不織布」 (写真 1)とバインダー含浸品のSEM写真(写 第二は,バインダーが光触媒によ 真 2)を比較してもらえれば一目瞭然 りすぐに劣化することである。その で,同重量の酸化チタンを使用してい 結果,粒子が繊維から短期間で剥が るにも関わらず,表面に付着している れ落ち耐久性が著しく劣る。 粒子量に圧倒的な差がある。 布や織物など多孔質の有機系素材に これらの問題点を逆説的に捉える 繊維表面に酸化チタン粒子が隙 光触媒機能をもたせたいという要望 と,バインダーを使用せず,かつ繊維 間なく密着した写真が顧客に与える が増えている。 表面に多くの光触媒粒子を付着させ インパクトは大きい。 「光触媒担持不 ることができれば,不織布に十分な光 織布」の優れた機能を,何よりも雄弁 触媒機能をもたせることができる。 に物語っているからだ。 その場合,光触媒粒子を紡糸工程 中に繊維に練り込むか,あるいは後 加工で粒子をバインダーを用いて繊 われわれはこれを開発テーマに その優れた機能の客観的データ 維表面に接着させる方法が一般的に 掲げ研究に取組み,特殊な熱処理に を得るために,バッチ法によるアセ 用いられており,当社でもこうした より繊維表面だけを溶かし,そこに トアルデヒドの脱臭試験を行い,得 方法で顧客の要望に応えてきた。 酸化チタンの粒子を付着させる技術 られたデータをグラフ化したのが図 を確立した。 1 である。 しかし,練り込みやバインダーに よる後加工では,光触媒機能を発揮 酸化チタン粒子を繊維の種類を ある一定の臭気除去率に達する させるうえで以下の 2 つの問題点が 問わずに,このような形で繊維表面 脱臭速度を比較すると,両者には5倍 ある。 に付着させる技術はこれまでなかっ 以上の開きがあることが分かる。つ 第一に,光触媒機能を発揮する粒 たもので,当社ではこの製法と不織 まり, 「光触媒担持不織布」を用いれ 子の繊維表面への付着が少ないこと 布への付着状態を「光触媒担持不織 ば,同一の臭気除去能力を発揮させ るための酸化チタン量が,単純計算 で従来の5分の1以下で済む。言い換 えれば,同重量の酸化チタンを用い て従来の 5 倍以上の臭気除去能力を 発揮させることができるのである。 また現在,当社の研究所で「光触媒 担持不織布」と未加工の不織布を用 写真 1 光触媒担持不織布の SEM 写真 76 写真 2 バインダー含浸品の SEM 写真 いて防汚性テストを実施している。 NONWOVENS REVIEW 製品にまで仕上げて販 より有害物質の分解に役立つ環境に 売することになる。 やさしい不織布ができる。もし抗菌 この光触媒加工は, 不織布物性をほとんど 図 1 バッチ法によるアセトアルデヒドの脱臭試験 剤を担持させれば,抗菌作用のある 不織布ができる。 変えないので,フィル 要するに繊維の表面を機能性粉 ター媒体に使用しても 体で覆うことで,繊維の表面を改質 集塵効率や圧力損失が して新しい機能をもたせる,という 低下することはない。 考え方である。 また開発した技術 このような加工技術の原点には, 屋外に放置して半年が経過したが, は,繊維への後加工だから,不織布に われわれが通常,入手できる繊維の 未加工不織布が真っ黒になっている 限らずカーテンなど織物への応用も 種類よりも,機能性粉体の種類の方 のに対し, 「光触媒担持不織布」はも 可能だ。 がはるかに多いということがある。 との真っ白な状態を保っている。 それと同時に, 「光触媒担持不織布」 とバインダー含浸品を比較した耐久 ー 量産体制も視野に入れられ ているのでしょうか。 中 村 本格的な生産設備の立上げ 繊維にはない機能・用途を機能性 粉体に担わせるために,われわれは フッ素ガスやプラズマなど化学・物 性テストも行っている。バインダー含 は,投資金額も含めて現在検討中で, 理的方法を用いて繊維表面を処理を 浸品は 2ヵ月で粉落ちがあったのに対 商品化の動向をにらみながら今秋あ する技術を開発してきた。 し, 「光触媒担持不織布」は6ヵ月が過 たりにはメドをつけて,量産体制に ぎた現在でも変化が見られない。実験 もっていきたいと考えている。 が確かめられている。 ー 普及の鍵を握るコストは従 来品と比較してどうですか。 くる。活性炭と活性炭繊維の関係か らも明らかなように,粉体を繊維状 は現在も継続中なので,少なくとも従 来品より 3 倍以上の耐久性があること もちろんそこには採算性も絡んで 繊維の表面処理の一環として ー今回開発された加工技術は, にするには莫大なコストがかかる。 光触媒粒子のように粉体表面が機 多くの可能性を秘めているように思 能性をもつ場合は,高い経費をかけ われます。 て光触媒繊維をつくる必要はなく, 中 村 光触媒に使用する酸化チタ 中 村 「光触媒担持不織布」は,酸 ンも,その接着剤に使用する特殊な 化チタンを担持させ光触媒機能を 機能する部分だけを繊維状にする方 バインダーも高価な材料なので,原 もった不織布ができたというより が,はるかに安くできる。 材料費だけを見てもコストメリット は,むしろそうした技術を開発した は大きい。 ことの方が主眼で,われわれは繊維 また, 「光触媒担持不織布」は加工 性や生産性にも優れるので,用途に の表面処理の一環として位置づけて いる。 繊維表面を粉で覆ってやればいい。 ー 最後に研究開発部がめざさ れる方向をお聞かせください。 中 村 われわれがこのような研究 開発を進めているひとつの理由に, よってはかなりのコストダウンが可 繊維の表面処理は,当社の研究開 不織布市場でのアジア諸国の追い上 能で,最終製品としての価格競争力 発部が一貫して追究してきた分野 げがある。生産にそれほど高い技術 も十分にあると考えている。 で,今回開発した粉体の担持もその を要しない不織布が大量につくら うちのひとつの技術といえる。 れ,日本国内で安価に流入してきて ー 具体的にどのような用途を 想定されているのでしょうか。 繊維に粉体を担持させることの いる。 中 村 いまはまだ,顧客のニーズ メリットは第一に,その表面積の向 この攻勢に対抗するひとつの手 にマッチングするかリサーチをして 上にある。一般的に不織布の表面積 段が,彼らが真似のできない高い技 いる段階だが,具体的な商品化の話 はグラム当たり 0.1 ∼ 0.3 ㎡だが,粉 術を必要とする不織布をつくること もいくつか進んでいる。 体の担持により同10∼20㎡に高める にある。こうした高度な不織布技術 ことができる。 を構築していかないと,メーカーと 用途によって顧客に原反で売る ケースと,当社で最終製品まで仕上 そして,担持させる粉体が今回の しての存在価値を失いかねないとい げるケースが出てくる。例えば空調 開発品のように光触媒機能を有する う危機感からも,われわれは研究開 フィルターに関しては,当社で最終 酸化チタンであれば,光触媒作用に 発志向をより一層強めている。 Vol. 14 No. 4 77
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