コーティング PcBN 工具を用いた焼入れ鋼の切削加工

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あいち産業科学技術総合センター
研究報告 2014
研 究 ノート
コーティング PcBN 工具を用いた焼入れ鋼の切削 加工
河 田 圭 一 * 1、 児 玉 英 也 * 1、 島 津 達 哉 * 1
Cutting of Hardened Steel by Using Coated PcBN Tool
Keiichi KAWATA *1 , Hideya KODAMA *1 and Tatsuya SHIMADZU *1
Industrial Research Center *1
研削加工により仕上げられている高硬度部品の製造工程では、加工時間の短縮やコストの低減のため、
研削工程を代替できる切削加工技術の開発が求められている。そこで、本研究ではレーザによる工具刃先
成形技術を用いた焼入鋼の超精密切削加工技術の開発を行っている。レーザで成形されたコーティング
PcBN 工 具 の 摩 耗 特 性 に つ い て 調 べ た 結 果 、① コ ー テ ィ ン グ が 施 さ れ た BNC200 の 方 が 、コ ー テ ィ ン グ の
な い BN2000 に 比 べ 、逃 げ 面 摩 耗 幅 お よ び 仕 上 げ 面 粗 さ と も に 小 さ く な る 傾 向 を 示 し 、② 逃 げ 面 摩 耗 幅 は
BNC500 が 最 も 小 さ く な り 、 BNC100 お よ び BNC200 は 同 程 度 で あ る こ と が 分 か っ た 。
1.はじめに
ングである。また、比較としてコーティングを施してい
半導体製造装置や工作機械などに使用される高精度
ない BN2000 による実験も行った。それぞれの工具はナ
な高硬度部品は、通常研削加工により仕上げられている。
ノ秒レーザを用いて図2に示すように刃先を形成した。
しかし、研削加工は加工時間が長くかつコストが高いの
本実験では、すくい面のみをレーザで加工したためコー
で、研削工程を代替できる切削加工技術の開発が求めら
ティング工具では母材の cBN が露出していることが分
れている。そこで、本研究では、レーザによる工具刃先
かる。どの工具においても刃先に欠けは見られず、シャ
成形技術を用いた焼入鋼の超精密切削加工技術の開発を
ープなエッジが形成されていることを確認した。
行った。
被削材
これまでの研究では、レーザにより刃先形成した
PcBN 工具が、研削で刃先を形成した工具よりも焼入鋼
の超精密加工において高品位な仕上げ面を得られること
を確認した
1)
。さらに、PcBN の材種により工具摩耗が
大きく異なることを明らかにしてきた。しかし、サブマ
Fx
Fz
イクロメートルの形状精度が求められる高精度部品の加
工では、工具摩耗が形状精度に大きく影響するため、よ
り摩耗の小さい工具や加工方法が要求されている。そこ
図1
で、本年度はより摩耗の低減が期待できるコーティング
PcBN 工具の摩耗特性について調べた結果を報告する。
表1
被削材
工具
2.実験方法
切削実験は、図1に示す超精密加工機を用いて行った。
切削動力計により加工中の 3 成分(X、Y、Z 方向)の力
を測定した。加工条件を表1に示す。被削材はφ45mm
とし、切削速度の変化を小さくするため外周 4mm 部分
を正面切削した。
加工実験の様子
すくい角
傾斜角
先端 R
切り込み
送り
切削速度
切削油剤
加工条件
SUS420J2(HRC53) φ45mm
住友電工ハードメタル製
BN2000、BNC100、BNC200、BNC500
ネガ 12°
30°
0.8mm
10m
5m/rev
283m/min (2000rpm)
油膜付水滴(水 1.2L/h 植物油 50mL/h)
コーティングが施された PcBN 工具は BNC100、
BNC200、BNC500 の 3 種類を用意した。BNC100 は
TiCN 系、BNC200 と BNC500 は TiAlN 系のコーティ
*
1 産業技術センター 自動車・機械技術室
3.実験結果及び考察
3.1 コーティングの影響
29
すくい面
約 1000m 加工後の逃げ面摩耗幅を測定した結果を図
すくい面
6に示す。逃げ面摩耗幅は BNC500 が最も小さくなり、
BNC100 と BNC200 は同程度であった。その時の刃先
を SEM により観察した結果を図7に示す。逃げ面摩耗
逃げ面
逃げ面
部に付着している凝着物が BNC100 や BNC200 に比べ
(a)BN2000
(b)BNC100
すくい面
BNC500 では少ないことから、摩耗が抑えられたと考え
られる。図8に各工具における 1000m 加工後の仕上げ
すくい面
面粗さの測定結果を示す。粗さは BNC500、BNC200、
逃げ面
逃げ面
(c)BNC200
(d)BNC500
SEM による刃先の観察
図2
コーティングの有無が逃げ面摩耗幅と仕上げ面粗さ
に与える影響について調べた結果を、図3と図4に示す。
逃げ面摩耗幅 [μm]
BNC100 の順に小さかった。
40
30
20
10
0
逃げ面摩耗幅はマイクロスコープ、仕上げ面粗さは干渉
BNC100
図6
式非接触三次元粗さ計により測定した。コーティングが
施された BNC200 の方が、コーティングのない BN2000
BNC100
凝着
BNC200
BNC500
逃げ面摩耗幅の測定結果
BNC200
凝着
BNC500
凝着
に比べ、逃げ面摩耗幅および仕上げ面粗さともに小さく
なる傾向を示した。このことから、コーティング工具は
焼入れ鋼の超精密加工において部品の加工品質を向上さ
図7
せるうえで有効であることが分かった。
50
40
30
20
10
0
BN2000
300
仕上げ面粗さRz [nm]
仕上げ面粗さRz [nm]
逃げ面摩耗幅 [μm]
60
250
200
150
100
50
0
BNC200
BN2000
図3 逃げ面摩耗幅
SEM による加工後の刃先観察結果
250
200
150
100
50
0
BNC100
BNC200
図4 仕上げ面粗さ
図8
BNC200
BNC500
仕上げ面粗さの測定結果
3.2 コーティング種類の影響
それぞれのコーティング工具による切削抵抗の変化
を図5に示す。切削抵抗は図1に示す方向を測定した。
4.結び
レーザ成形されたコーティング PcBN 工具の摩耗特性
切削距離とともに工具が摩耗するため、切削抵抗は増加
について調べた結果、以下のことが分かった。
した。加工初期はどのコーティングも同様な増加傾向で
(1)逃げ面摩耗幅および仕上げ面粗さは、コーティングの
あったが、切削距離 300m 以降では BNC500、BNC100、
施された BNC200 の方が小さくなる傾向を示した。
(2) 逃 げ 面 摩 耗 幅 は BNC500 が 最 も 小 さ く な り 、
BNC200 の順に切削抵抗は小さかった。
15
BNC100 と BNC200 は同程度であった。
5
Fx [N]
5
BNC100
BNC200
BNC500
0
0
300 600 900 1200
切削距離 [m]
(a)Fx
図5
Fz [N]
4
10
3
付記
2
BNC100
BNC200
BNC500
1
0
0
300 600 900 1200
切削距離 [m]
(b)Fz
切削抵抗の測定結果
本研究は、平成 25 年度戦略的基盤技術高度化支援事
業(経済産業省)において実施した。
文献
1)河田,石川,児玉,島津:あいち産業科学技術総合セ
ンター研究報告,2,32(2013)