PD-1の知的財産保有で存在感際立つ小野薬品

亨
置
PD-1の知的財産保有で存在感際立つ小野薬品
ーニボルマブとの併用療法を求める動きはさらに活発化一
果を強調してぃる。確かに13年度は長期収載品の
13年6月以降上昇し続ける株価
売上げ減少に対して新薬群の成長が桔抗したた
小野薬品工業の株価は、 2013年3月までは5000
だし、14年度の第2四半期を見る限り当期業績は
円の水準を脱することはなかなかできなかった。
苦戦していることから完全復活とはいえない状況
しかし、同年6月、米国臨床腫癌学会(ASCO)に
となっている。長期収載品の売上げは想定以上と
おいてニボルマプ(オプジーポ)の結果発表を期
なる20%超の大きな下げ幅。今まで堅調であった
待して市場はニボルマプを認識、上げ調子となっ
新製品についても薬価改定と消費税増税に伴う3
ている 15年1月30白の終値は 1万2500円の前日
月の仮需の反動に加え、競合品とは競争激化とな
の終値から50円高 5日移動平均は 1万2378円、
り2ケタの減収減益に甘んじた。それでも株価は
25日移動平均は 1万1607円とさらなる展開を含ん
上昇理由はもちろん、ニポルマブ(オブジーポ)
でいる時価総額は 1兆4730億円となった。株価
の成長に対する期待感である
収益率(PER)1訂21.5倍まで買われている状況だ。
肪がんに対して効果を示したニボルマブ
2012年3月までの株価の低迷は、政府の後発医
薬品使用促進策によって長期収載品の販売が落ち
ニボルマプは、ヒトPD (programmeddeath)
たことが理由だ後発医薬品は、自社創製品を複
1に対する遺伝子組換えヒト1gG4 モノクローナ
数揃えることで高収益企業
図
として評価されてきた同社
-19'.移動均
の収益を蝕んだ。ただし、
26週移
均
出来高('均)
稔om
120叫
同社は前もってこの危機に
ニボルマプの結果を米国臨床腫学会で発表
TI 000
対処すべき積極的な導入戦
10000
9000
略を展開していた。 H年5
9000
月14日に開催した13年度の
7000
通期の決算説明会で相良暁
6帥0
50帥
社長は事業改革について
40帥
「09年度に90%あった長期
収載品の売上げ比率が、12
900.000
年度に50%半ぱとなり、 13
600.000
00000
200.000
年度は如%後半となり、 4
10/2/8 10n応 11/1/4 11/6/6 11/11々8 12/6/4 12/1ν26 13/6/3 13/12々 14/6/2 14/11^
年間で半分になった」と成
表1 業(1FRS)
期
14/1H
期初予想
予15/3
売上収益
62,381
聞,100
129,400
△11.8
△ 9.フ
国際医薬品情報 2015.2.9
営業利益
3,026
10,300
13,100
△79.9
△50.4
税引前利益
4,697
H,750
15,700
△71.8
△46.フ
(単位:100万円、%)
親餓の所有割:母属する四半鮴崖
3,281
8,600
10,900
△71.5
△46.4
ル抗体 PD-1は、活性化したりンパ球および骨
今年1月12日には、 BMSはシアトルジェネン
髄系細胞に発現するCD28に属する受容体である。
ティクスと、再発・難治性ホジキンリンパ腫およ
PD-1は、抗原提示細胞に発現するPD-L1およ
び、びまん性大細胞型B細胞性りンパ腫を含む再
びPD-L2と結合し、りンバ球に抑制性シグナル
発・難治性B細胞・T細胞非ホジキンリンパ腫を対
を伝達してりンパ球の活性化状態を負に調節して
象に、シアトルジェネンティクスのADC薬ブレ
いる PD L1を強制発現させたがん細胞は、抗
ンツキシマプベドチン(アドセトリス)とニボル
原特異的CD8陽性T細胞の細胞傷害活性を減弱
マブの併用療法を第1/2相で検証する臨床試験
させることがわかり、 PD-1/PD-L1経路は、
提携契約を締結さらにBMSは翌13日に、イーラ
がん細胞が抗原特異的なT細胞からの攻撃等を回
イリリーとの間で、ニポルマブとりりーのガルニ
避する機序の1つであることが明らかとなった。
セルチプ(LY2157299)との併用療法を第 1/2
PD-1に関する知的財産を保有している小野薬
相試験で検討し、進行性(転移性および/または
品は05年5月、ヒト型抗体開発システムである
切除不能)雁芽腫、肝細胞がんおよび非小細胞肺
「UⅢMab」を運用するメダレックスと提携した。
がんに対する治療の選択肢の可能性を評価する契
その研究成果によって創製された抗体がニポルマ
約を締結した。このようなニボルマブとの併用療
ブである。 09年7月にはブリストル・マイヤーズ
法を巡る提携の活発さも、同社の株価を支える材
スクイプ山MS)がそのメダレックスを買収。メ
料となっている
ダレックスが保有していたニボルマプの北米の権
利がBMSに引き継がれることになった。
また15年1月にはニボルマプの肺肩平上皮がん
に対するCheckmate-017試験の前向きな試験中
ニボルマプの開発で特筆すべきは、肺がんで効
止が発表された。このCheckmate-017試験は、
果が得られたことにある。ニボルマブの開発で
治療歴を有する進行期の肺肩平上皮がんの患者を
は、免疫療法がより効きゃすい悪性黒色腫や腎細
対象にした非盲検無作為化臨床試験(n=272)。
胞がんの臨床試験が先行していた経緯がある。12
オプジーポを3昭/蚫を2週間に1回静脈内投与
年のASC0において、肺がんの第1相試験におけ
する群、またはドセタキセルフ5叫/11fを 3週間に
る奏効率が18%と発表 13年の世界肺がん学会
1回静脈内投与する群のいずれかに割拘付けられ
(WCLC2013)では、長期観察の結果として奏効期
ナ、主要評価項目は全生存期間。独立データモニ
間は74.0週と効果が持続的であることが示され
タリング委員会による評価で、ニボルマプ投与群
た今まで肺がんで有効性を示すことができた免
が対照群に対して全生存期問を有意に延長したと
疫療法は無いこと、既存の治療を受けた肺がん患
結論付け、臨床試験を早期に終了したのである。
者でも奏効率を示したことから、ニポルマブがー
BMSはPD-1抗体が肺がんに対して生存期間の
気に注目を浴びることになった
有意性を初めて示したこれらのデータを保健当局
その後、14年6月にBMSはノバルティスと、ニ
と共有するとしている。
ボルマブとノバルティスの3種の分子標的薬と非
非小細胞肪がんでは6つの第3相試験が進行中
小細胞肺がんに対する併用療法の第1相試験の開
で、そのうち4つはニボルマプの単剤投与での評
発契約を提携、また、同月、ヤンセンとの間で、
価試験治療歴のある患者にしてはCheckmate-
同社のイプルチニブと非ホジキンリンパ腫に対す
017試験以外に CheckMate-057試験、 check・
る併用臨床試験(第 1/2相)で提携している。
Mate-153試験の2 つが、化学療法による治療歴
さらに、12月には小野薬品、 BMS、協和発酵キリ
がない患者ではCheckMate-026試験が進行中で
ンの3社間で、オプシーボと、協和発酵キリンの
あるまた、抗CTLA-4 抗体のイピリムマプ
抗CCR4抗体モガムリズマプの日本における併
(YeNoy)との併用で小細胞肺がんのCheckmate-
用療法の第1相試験の契約を締結した
156試験、肺肩平上皮がんのCheckmate-104試験
2田5.2.9
田際医薬品情報
推定550億円とすれぱ、同社の売上高は2000億円
という2つの第3相試験が実施されている
の大台を大きく超え、営業利益も800億円に到達
肢がん市場とニボルマブのボテンシャル
すると計算できるニボルマプの貢献度が低い14
年度が業績の底ということになるであろう
WH0の2012GLOBOCANプロジクトのデータ
ベース(h杜Pゾ/globoca11.iarc.fr/)によると、 12年
には、全世界で182万4700人が肺がんに櫂患し、
高まる被買収りスク
158万9800人(男性109万8600人、女性四万12卯人)
業績が右肩上がりとなる同社であるが、そのー
が死亡した肺がんは部位別では最も多く、がん
方で買収りスクが高まることも考えられる小野
による総死亡者数の19.フ%を占める。男女別にみ
薬品を買収する自的を考えてみると、①国内の販
ると、男性では総死亡者数の23.6%となり最多、
売網の獲得②収益の補完③パイプラインの獲得④
女性では138%を占めて、乳がん、大腸がんに次
新薬創製能力などを挙げることができょう
いで多いがんとなるこの肺がんの櫂患率から見
日本国内の販売網の取得であれぱギリアド・サ
てもニボルマプに期待がかかるのは当然のことで
イエンシズにその二ーズが高いと思われていた。
あろう。ニボルマプの年間の薬剤費が1000万円と
体力的にも適しており、アステラス製薬が敵対的
して、158万人のうち先進国の患者を中心に考え
買収を仕掛けていたCVセラピューティクスを買
40万人の1割の4万人に処方されるとしても売上
収するホワイトナイトの経験もある。しかし、ギ
げは4000億円の売上げとなる。現在、多くのがん
リアド社は一昨年に日本法人の設立を選んだ。日
腫の臨床試験が実施されている(表2)これら
本進出を決定した時点ではニポルマブの価値を見
の適応の取得に成功すれぱ、売上げトップクラス
切ることができなかったのかもしれない一方
のべバシズマプ(アバスチン)と同等のポテンシャ
で、ギリアド社は14年12月、小野薬品が創製した
ルを持っていると考えられるちなみにべバシズ
ブルトン型チロシンキナーゼ田T脚阻害剤であ
マプは13年に前年比9%増の62億5400万スィスフ
るONO-4059の権利譲渡の契約を締結している。
ランを売り上げている
権利の範囲は日本、韓国、台湾、中国、 ASEAN諸
5年後の19年度には小野薬品のニボルマプの売
国を除く全世界現在、 ONO-4059は欧州で慢性
上げを400億円、 BMS社からのロイヤリティーを
リンハ性白血病および非ホジキンリンパ腫を対象
表2 ニボルマプの開発状況
開発番号
製品名
一般名
ONO-4538 ニポルマブ
MDX一Ⅱ06
欧": opdivo
悪性黒色肌
非小細胞肺がん伐次治療以降
非小細胞肺がんn次治療
腎細胞がん
曾がん
頭頚部がん
雁芽肌
食道がん
卵巣がん(医師主導)
びまん性大細胞型B細胞りンパ閥
胞胞性りンパ胆
ホジキンリンパ皿
作用機序
抗PD 1抗体
起源
自社メダレノケス
日本
発売 M/帰
PhⅡ
PhⅢ
PhⅢ
PhⅢ
PhⅢ
欧州
アジア
申請中(恥IS)
申1胖(韓圓
申翫判田ISI
PhⅢ(BM5)
Ph皿田MS)
PhⅢ山NS)
PhⅢ旧MS}
PhⅢ恨MS)
申読判田{田
Ph皿山MS)
PhⅢ(台陶
Phn BMS
"Ⅱ BMS
刊】Ⅱ BMS
Ph Ⅱ B入IS
PhⅡ BMS
PhⅡ BMS
Ph l
Ⅱ
Phl/Ⅱ
Phl/Ⅱ
Ph l /Ⅱ
Ph l
Ph l
Ph l
Ph l
Ph l
Ph l
米国
迅速承認
"/1!、 NS}
PhⅢ(BMS)
PhⅢ旧NS)
PhⅢ恨MS}
PhⅢ恨MS)
固形がん(トリプルオ、ガティブ乳
がん、胃力U、騨がん、小細胞肺
がん,勝胱がん)
大腸がん
軒細胞がん
慢性骨筋性白血病
C型肝炎
出所:会社蛮料
国際医薬品情報
2015.2.9
一一一
BMS9365聞
オプジーボ
適応症・薬効
門Ⅲ(台潮
とした第1相試験を実施中である
収益の補完、パイプラインの獲得となれぱ、
2.64%、その他国内法人が25.60%、個人その他が
5.66%となっており、外国人が27.65%とその比率
ポルマプの共同開発を行うBMSが最も二ーズが
は高くない。自己株式も10.03%保持している。
高いだろう今後、長期間にわたり年間数百億円
ちなみに、日本の証券取引所が14年6月に公表し
レベルのロイヤリティー収入を支払わなけれぱな
た13年度株式分布状況調査の調査結果では、外国
らないし、BMS製品とニポルマブの併用を全世界
法人等の株式保有比率は、前年度比2.8野上昇し
で自由に動かすことができる。しかし、今のとこ
て30.8%。製薬企業でみると、アステラスが
ろは契約ベースでの展開が図られている。Ⅱ年9
52.60%、参天製薬が45.00%、武田が28.40%、大
月に締結したライセンス契約では、小野薬品は北
塚HDが28.3%、エーザイは23.8%となっている。
米以外の地域のうち、開発および商業化の権利を
しかし一方で、何が起きても不思議ではない時
留保する日本、韓国、台湾を除く全世界において
代でもある。一般論として経営者は独自運営を貫
独占的な権利をBMSに供与した。さらに14年7
くから、買収となれぱ敵対的買収となることは避
月には新たな契約を締結し、小野薬品が独占的に
けられない。敵対的買収に備え、今後に積み上が
保有していた日本・韓国・台湾の地域においても
る現金はさらなる自己株式の購入に回すこともー
共同で開発を進めることになった。この契約に
考ではないだろうか小野薬品の借入金は4億
は、ニボルマブとイビリムマプの併用に加え、
3900万円、親会社所有者帰属持分比率(自己資本
BMSの開発品であるりりルマブ、ウレルマプ
比率)は兜.フ%現金および現金同等物は937億
(BMS-66聞13)、 BMS→鋤16の単剤、併用試験も
円を保有。優良企業と評価できる数値であるもの
含まれている。契約は14年7月から製品を販売し
の、優良企業だからこそ買収りスクは付きまとう
ている期間となっている。また、 BMS製品である
経営の難しさであり、そこには研ぎ澄まされたハ
関節りウマチ治療薬であるアハ'タセプト(オレンシ
ランス感覚が必要になるわけだ。
ア)の共同販促を行っており、友好的にも見える。
利益処分の方法には、企業に残すか、株主に返
では、日本の業界再編で小野薬品が台風の目と
すかの2つである利益が同等で内部留保が大き
なるだろうか。1300億円の売上げで時価総額1兆
くなれば株主資本利益率(R0助を悪化させる。
4000億円にまで膨れ上がった現在、体力的に触手
さらに、買収の標的になる可能性を高めてしまう。
を伸ばせる企業を探すのは難しいさらに、仮に
株主還元においては、配当か自社株買いかの選
小野薬品を買収したとしても、BMSとの契約に支
択肢がある。注目するのは自社株買いで取得した
配権変更条項(チェンジオプコントロール条項)
株式には様々な利用方法があり、会社にとっても
が入っていると思われ、BMSとの研究開発が白紙
戦略的な活用ができるということた自社株買い
にもなりかねない。強いて候補企業を探すとして
によ0て市場に流通する株式が減ることで企業買
も、自社の抗がん剤と併用して劇的な効果が見ら
収のりスクを下げることができる取得した自社
れる企業に絞られてくる。
株の使い方については、①特定の第三者に売却す
また逆に、長期収載品の売上げ比率の低下を実
ることでその第三者との関係を強化できる②株式
現した小野薬品がいま、国内企業を買うメリット
交換によるM&A③市場に売却して改めて資金調
は少ない。買収するなら海外展開へと繋がる企業
達④役員や従業員のストックォプションに使うな
が最低条件となるだろう。
どの活用が考えられる。
今後の財務戦略は
株式の所有者別の株式分布状況 a4年9月30白
現在)を見ると、金融機関が2839%、証券会社が
今後の小野薬品の業績は大いに期待できるとこ
ろである。収益が年々改善される中でどのような
事業戦略を打ち出していくのか、その戦略を支え
る資本政策・財務戦略にも注目が集まる
2015.2.9
田際医薬品情叛