「視写の授業」はどういうゲームだったか ―ある定時制高等学校国語科の実践をたよりに― 伊藤晃一 1 研究の概要 本研究は、私が教員(国語科)として勤務している A 定時制高等学校をフィールドとし て行う。定時制高等学校という特殊な教育現場においては、そこで行われる授業もまた、特 別な工夫が必要であるように思われる。学習におけるさまざまな困難をもつ生徒たちにと って、楽しく、学び込めるような授業を実践することは可能だろうか。可能であれば、それ はどのような手立てによってなのであろうか。 一つの方法として、授業をゲームとして捉え、授業実践開発する方法を構築することを試 みたい。ゲーミフィケーションやゲームニクスなどを参照し、ゲームの特徴を授業に活かす 研究や、教室では複数のゲームが起きているとし教育実践を批判的にみる研究があるが、前 者は、ゲームの特徴を特別活かしてはいないように思われる授業をも積極的にゲームとし て捉え考察することで、既存の授業研究にはない観点を探るべきであるし、後者は、批判さ れたゲームをどうしたらよいゲームに変えていけるのかという視点を加える必要がある。 これからは、より積極的に授業をゲームとして捉えて、新しい授業を実践開発してゆく研究 が必要である。 ここでは、実際に A 定時制高等学校にて私が行った授業をゲームとして捉え直し、それ が生徒たちにとってどのようなゲームであったか考察することを目指す。 2 今回の発表内容 1)私が教員として勤務しており本研究のフィールドともなる、A 定時制高等学校の授業の 特殊性について述べる。その際、定時制高校が辿ってきた歴史的背景を踏まえながら、現在 の定時制高校の授業成立における課題を明確にすることを試みるとともに、今後、どのよう な考えのもとどのような授業を実践していくべきか一つの考えを提示する。 2)授業をゲームとして捉え、考察するための手立てとして、先行研究を検討する。ゲーミ フィケーシィンをはじめ、ゲームの特徴を授業に積極的に活かそうとする研究、また、「隠 れたカリキュラム」 (a Hidden Curriculum)を代表とする、教室では複数のゲームが起きてい るとし、授業で学ばれることが教師が意図したものと同じではないとするような教育実践 を批判的にみる研究を踏まえ、より積極的に授業をゲームとして捉え、授業を実践開発して ゆく研究の必要性を示す。 3)実際に私が A 定時制高等学校にて授業者として行った「視写の授業」という国語科の 実践事例を紹介する。 「視写の授業」では、半年かけて一冊の本を原稿用紙にミスなく書き 写す課題を生徒に課した。授業者の意図と、生徒の変化の関係を中心に説明する。 4)3)で示した「視写の授業」を、2)で示すようにゲームとして捉え、それが生徒にと ってどういうゲームであったのかを考察する。 2
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