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一般連続体仮説と選択公理
alg-d
http://alg-d.com/math/ac/
2015 年 12 月 20 日
定義. 無限濃度 κ に対して次の命題を CH(κ) で表す.
κ ≤ µ ≤ 2κ =⇒ κ = µ または µ = 2κ
定義. 次の命題を一般連続体仮説 (Generalized Continuum Hypothesis) という.
任意の無限濃度κに対して CH(κ).
補題 1. κ + 1 < 2κ .
証明. κ + 1 = 2κ と仮定する.|X| = κ となる集合 X と ∞ ∈
/ X となる ∞ を取れば,全
単射 g : P(X) −→ X ∪ {∞} が取れる.g(X) = ∞ としてよい.f : κ∗ −→ X ∪ {∞} を
{
f (α) :=
g(Aα )
∞
(Aα ⊂ X のとき.ここで Aα := {f (β) | β < α})
(そうでないとき)
で定める.α < β < κ∗ が f (α), f (β) ̸= ∞ を満たすならば f (α) ̸= f (β) である.よっ
て,κ∗ の定義から,f (α) = ∞ となる α < κ∗ が存在する.このとき γ := min{α < κ∗ |
f (α) = ∞} と置けば f |γ : γ −→ X は全単射である.故に X は整列可能であることが分
かる.従って κ = κ + 1 = 2κ となり矛盾する.
補題 2. κ ≥ ℵ0 ならば 2κ ≰ κ<ω .
証明. 2κ ≤ κ<ω と仮定する.|X| = κ となる集合 X を取れば,単射 h : P(X) −→ X <ω
が存在する.W := {(Y, R) | Y ⊂ X は無限集合,(Y, R) は整列順序 } と置く.(Y, R) ∈
W を取る.全単射 k(Y,R) : Y −→ Y <ω が取れる.
. .
. ) 順序数・濃度の簡単なまとめの命題 6 の証明から分かるように,全単射 Y ×Y −→
Y が標準的に取れる.これを使えば順序数・濃度の簡単なまとめの命題 11 の証明と
1
同様にして全単射 k(Y,R) : Y −→ Y < ω が取れる.
D(Y,R) := {x ∈ Y | ある Z ⊂ X が存在して h(Z) = k(Y,R) (x) かつ x ∈
/ Z}
と定義する.D(Y,R) ∈ P(X) であるから h(D(Y,R) ) ∈ X <ω である.
ここで h(D(Y,R) ) ∈ Y <ω と仮定すると,k(Y,R) が全単射だから,ある y ∈ Y により
k(Y,R) (y) = h(D(Y,R) ) と書ける.すると D(Y,R) の定義より
y ∈ D(Y,R) ⇐⇒ ある Z ⊂ X が存在して h(Z) = k(Y,R) (y) かつ y ∈
/Z
⇐⇒ ある Z ⊂ X が存在して h(Z) = h(D(Y,R) ) かつ y ∈
/Z
⇐⇒ y ∈
/ D(Y,R)
となり矛盾する.故に h(D(Y,R) ) ∈
/ Y <ω である.
よって有限列 h(D(Y,R) ) には X \ Y の元が少なくとも一つ現れるから,一番最初
に現れたものを g(Y, R) と書く.こうして写像 g : W −→ X が定義されるが,これは
(Y, R) ∈ W に対して g(Y, R) ∈ X \ Y を満たす.
今,κ ≥ ℵ0 だから N ⊂ X としてよい.すると写像 f : κ∗ −→ X が

f (α) := g(Xα , Rα )

ここで Xα := N ∪ {f (β) | β < α} として
 Rα は 0 < 1 < · · · < f (0) < f (1) < · · ·

から定まる Xα の整列順序とする.
で定まる.この f は単射だから κ∗ の定義に矛盾する.
定理. CH(κ) ならば κ2 = 2 · κ = κ.
証明. CH(κ) とすると κ ≤ κ + 1 < 2κ から κ = κ + 1 である.よって
κ ≤ 2 · κ ≤ 2 · 2κ = 2κ+1 = 2κ
となる.2 · κ = 2κ と仮定すると補題 2 に矛盾するから,CH(κ) により κ = 2 · κ である.
よって
κ ≤ κ2 ≤ (2κ )2 = 22·κ = 2κ
である.κ2 = 2κ と仮定すると補題 2 に矛盾するから,CH(κ) により κ = κ2 である.
系. 一般連続体仮説 =⇒ 選択公理
定理. CH(κ) かつ CH(2κ ) ならば 2κ = κ∗ .
2
∗
κ2
証明. 2κ ≤ 22
である.
∗
. .
. ) |X| = κ となる集合 X を取る.|P(Γ(X))| = 2κ である.∆ ⊂ Γ(X) を取る.
α ∈ ∆ に対して Sα := {R | R はある Y ⊂ X の整列順序で (Y, R) ∼
= α} とすれば
∪
Sα ⊂ P(X × X) である.写像 f : P(Γ(X)) −→ P(P(X × X)) を f (∆) :=
Sα
α∈∆
と定義する.この f は単射である.
CH(κ) により κ + 1 = κ,κ2 = κ だから
2κ ≤ 2κ + κ∗ < 22
κ
κ
κ
+κ∗
κ
= 22 · 22 = 22
κ
∗
κ
κ2
= 22 · 2κ ≤ 22 · 22
+2κ
= 22
κ+1
κ
= 22
となり,CH(2κ ) より 2κ = 2κ + κ∗ である.故に κ∗ ≤ 2κ だから κ < κ + κ∗ ≤ 2κ + 2κ =
2κ となるので,CH(κ) により κ + κ∗ = 2κ である.故に 2κ = κ∗ である.
定義. 次の命題を Aleph Hypothesis という.
任意の順序数 α に対して 2ℵα = ℵα+1 .
明らかに,ZFC では「一般連続体仮説 ⇐⇒ Aleph Hypothesis」である.
定理. ZF において次が成り立つ.
1. 一般連続体仮説 =⇒ 選択公理
2. Aleph Hypothesis =⇒ 選択公理
3. 一般連続体仮説 ⇐⇒ Aleph Hypothesis
証明. (1) 既に示したが別の証明方法として,選択公理が次の命題と同値であることから
も従う: 任意の濃度 κ に対して「κ ≤ µ0 ≤ 2κ , κ ≤ µ1 ≤ 2κ なる濃度 µ0 , µ1 は比較可
能」である.(濃度の比較可能性を参照.)
(2) 選択公理が「整列集合の冪集合は整列可能」と同値であることから従う.(整列可能
定理についてを参照.)
(3) 1,2 により明らか.
※ 一般連続体仮説と Aleph Hypothesis の特殊な場合として,連続体仮説 (CH(ℵ0 ))
と 2ℵ0 = ℵ1 があるが,この二つは ZF で同値ではない.
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参考文献
[1] A. Kanamori and D. Pincus, Does GCH Imply AC Locally?, Paul Erds and His
Mathematics, Bolyai Society Mathematical Studies, volume II, 413–426. Berlin,
Springer (2002), http://math.bu.edu/people/aki/
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