我が心の長野駅佐々 悟一

我が心の長野駅
佐々 悟一(長野市)
「汽車を待つ、あなたを待つ」
このコピーを僕は40年前デザイナーの時に、長野駅前の喫茶店の新聞広告のキャッ
チで用いた。その店は駅の目の前で汽車を待つにも、人と会うにもとても便利でよく利
用した。今はもう無く、ただ思い出だけが交錯する。
駅というと人の出発点、また、人との出会いの場という思いがすごく強い。初めて海を
見たのは小学6年生の臨海学校である。長野駅から蒸気機関車で能生まで行った。こ
の時汽車に初めて乗った。駅のホームは石炭の燃えるにおいが充満していたが、決して
嫌な臭いではなくいい匂いと思えた。そして、汽車に乗る、海を見る期待に胸をわくわく
させた。茶色になった長野駅で写した小さな写真が微笑んでいて、記憶をよみがえらせ
る。また、初めて東京に行ったのも中学生の時の修学旅行である。関西方面も高校の
修学旅行で、長野駅からであった。
「さあ始まるぞ」、ガクンとあの汽車が動き出す緩衝
の瞬間が愛しい。いまだに電車ではなく、汽車としかいえない自分がいて笑ってしまう。
駅での出会いも色々あった。初恋の彼女はいつも汽車に乗ってやって来た。さあ会え
るのはもうすぐだ、早く汽車が駅に着いて停まってくれないものかと思った。映画をみた
り、喫茶店に寄ったり。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。その彼女との別れを
見送ったのも長野駅だった。振り向かない後姿が泣いていた。今は元気だろうか。
僕は今、25年前に家を出たきり戻ってこない妻のことを思う。ひょっとしたら北陸方
面にいるかも知れない。まもなく金沢延伸にもなるので、新幹線という汽車に乗って帰
って来てくれればいいな、と期待してしまう。その時は長野駅も新しくなっているので、
迷わないように待ち続けたい。
これからも生きている限り、僕と長野駅の関わりは続くに違いない。