顧客の言うままに作ると たいてい大失敗します - Tech-On!

全員集合!サービスロボット
Innovator
山崎文敬
顧客の言うままに作ると
イクシスリサーチ 代表取締役
氏
たいてい大失敗します
高速道路などの点検に使うメンテナンス用ロボットなどの開発で実績を上げているイクシスリサー
チ。
背景にあるのは、
顧客の現場を徹底的に分析する開発スタイルだ。
大学院の在学時に同社を立ち
上げて以来、
一貫して裏方としてロボットの開発を請け負い続けてきた山崎氏が
「現場で使われるロ
ボット」
を開発するための極意を語った。
(聞き手=中島 募)
>> インタビューの全文を日経テクノロジーオンラインでお読みいただけます(http://techon.jp/article/MAG/20150310/408340/)
(写真:陶山 勉)
NIKKEI ELECTRONICS 2015.04
SID=41d9e7e87b55f34a35b6f5729c492796a88a95c4ebe1b326 無断複製・無断転載禁止 日経BP社
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Breakthrough
─ロボットといえば「自律制御」というイメージが強いで
新規の若手もあまり入ってこないのです。
すが、御社は手で引っ張って動かす手動のロボットも開発
─「だったらロボットで完全自動化すれば、人を減らせて
ロボットを完全に全自動で稼働させるのは、技術者にと
多くの場所を点検できる」と考えられます。
って永遠の目標です。しかし、顧客は本当にそれを求めて
私の経験上、それをやると必ず失敗します。点検員の数
いるのでしょうか。
「業務に役に立つロボットは何か」を考
が減っているのは事実ですが、
「ゼロになるかもしれない」
えた場合、無理にロボット単体で業務を遂行させなくても
のは将来の話です。今の時点で、現場で働いている点検員
いいのではないか。いろいろな失敗を体験して、そう感じ
の人たちは間違いなく居るのです。ロボットで完全に自動
るようになりました。
化すれば、
現場の人たちは自分の仕事がなくなるので当然、
特にメンテナンス業界では、むしろ全自動でない方が現
導入に反対します。現場が導入に反対するロボットは、ま
場に受け入れられやすかったりします。メンテナンス業界
ず普及しません。
でロボット導入の検討が始まった主な理由は、人手不足で
もちろん将来は、完全な自動化が必要になるかもしれま
す。設備の老朽化が進む一方で、熟練した点検員の多くが
せん。しかし、今はその時ではない。
「現場に受け入れら
定年を迎えています。しかも現在のメンテナンス現場は、
れるロボット」を考えぬいた結果、私が出した答えが点検
いわゆる3K(きつい、汚い、危険)のイメージが強いので、
員の手足となる「道具」です。つまり手が届かない高所や
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ロボットは
あくまで道具です
しています。
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目に見えない場所を、人に代わってロボットが点検する。
こうした道具があれば、点検員が高いところから転落する
事故を防いだり、暗くて危険な場所に行く必要をなくした
りできます。
「ロボットはあくまで道具で、点検の主体は
人」という考え方です。その方が点検員の経験が生かせる
し、彼らにとってもやりがいがあります。
─コスト面での導入メリットはありますか。
ロボットの良い点は、点検した場所をGPSなどの仕組
みを活用して自動記録できることです。この位置情報と画
像などの点検データを紐付けてデータベース化すれば、点
検データの整理はあっという間に終わります。点検が終了
した後、すぐに報告書が完成するのです。報告書作成の時
間が大幅に短縮されるので、点検員はより多くの場所を点
やまさき ふみのり
1974年、
山口県生まれ。
早稲田大学大学院に在学していた1998年、
趣味のロ
ボット開発の資金を捻出するためにイクシスリサーチを設立。
2000年に科学
技術振興事業団
(現科学技術振興機構)
のプロジェクトで2足歩行ロボット
「PINO
(ピノ)
」
を開発した実績も持つ。
検できるようになります。そうすれば、トータルの点検コ
ストの低減につながります。
ットを稼働させなければいけません。つまり効率的に稼働
「業務全体を効率化する」というコンセプトで考えると、
する環境が整っていないのです。ですから今の技術では、
実はロボットに大した機能は必要ないことが多いと感じて
どうしても人間よりも作業効率が落ちることが多い。顧客
います。単純な機能のロボットでも、GPSなどの機能を最
が言う「より高速に点検する」というニーズを真に受ける
大限に生かして業務フローを組み立てれば、業務を効率化
と、大概の場合は企画倒れに終わります。思うほど速く点
できるのです。実はロボットに対する顧客のニーズは、本
検できなかったり、速いけれど点検精度が極端に低かった
当の意味でのニーズではないことが多い。彼らの頭の中に
りするのです。
あるロボットのイメージに基づくニーズと、実際のロボッ
トが貢献できるニーズというのは必ずしも一致しないから
─開発時に心掛けていることはありますか。
です。だから我々はまず、顧客が言うニーズを疑ってかか
私は、顧客からの問い合わせがあると、まず「現場を見
る必要があります。顧客から言われるままにロボットを開
せてください」と申し出ます。ロボットを熟知した我々が
発するとたいていの場合、大失敗するからです。
現場を見て、顧客が気づいていない潜在的な「ニーズ」を
掘り起こす必要があるからです。潜在的なニーズと、顧客
─ロボットといえば鉄腕アトムのような超高性能なロボ
ットをイメージしがちですよね。
の言うニーズを照らし合わせて最適解を見つけ出します。
「何をすれば業務のパフォーマンスが向上するか」を見極
「ロボットは人間よりも性能が優れている」と思ってい
めて、開発するロボットの仕様を提案するのです。ロボッ
る人が多いです。だから「人が1時間かかる作業を、ロボッ
トではどうやってもパフォーマンスが向上しないと判断し
トなら30分でできるだろう」と考えたりする。もちろん環
たら「無駄なのでやめましょう」と申し出ることもありま
境が整っていれば、
ロボットは人よりも速く作業できます。
す。開発したロボットが役に立たないのは、何よりもつま
しかしインフラ設備の点検では、さまざまな環境下でロボ
らないし寂しいですからね。
NIKKEI ELECTRONICS 2015.04
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