地方公営企業経営戦略策定の指針

新・地方自治ニュース 2015 No.22 (2016 年2月 25 日)
地方公営企業経営戦略策定の指針
総務省自治財政局は、2014 年8月に公営企業について「公営企業の経営に当たっての留意事項」
の通知を行い将来に向けて安定的に事業経営を継続していくための中長期的な基本計画である「経営
戦略」の策定を地方自治体に要請している。この要請を具体化するため、経営戦略の策定に関しての
実務指針となるガイドラインを策定し「経営戦略」に関する基本的考え方、「投資試算」及び「財源
試算」の将来予測方法、経営健全化及び財源確保の具体的方策、各事業の特性を踏まえた策定上の留
意点、そして「経営戦略ひな形様式」等を示すことにより、公営企業全体として実効性のある経営戦
略の形成と一層の経営基盤の強化等を図ることとし、2016 年1月 26 日に「経営戦略」の策定推進
(http://www.soumu.go.jp/main_content/000396239.pdf)について通知を発している。
本ガイドラインでは、第1に経営戦略の「計画期間」に関する基本的考え方を示しており、投資・
財政計画を含め経営戦略計画期間は 10 年以上を基本とし、個々の地方自治体の状況や事業の普及状
況、施設の老朽化状況、経営状況等を踏まえて、10 年以上の合理的な期間を設定することが必要と
している。ただし、市町村合併や広域化・共同化等の具体的検討を進めている地方自治体等個別の事
情がある場合でやむを得ず 10 年未満の計画期間とする場合には、その理由を住民・議会に説明する
ことを求めている。
第2に経営戦略の「投資・財政計画」で求められる「収支均衡」に関する基本的考え方を示してい
る。この収支均衡の意味について法適用企業では「純損益」、法非適用企業では「実質収支」が計画
期間内で「黒字」となることとしている。計画期間内でこれらが赤字となる場合は、当該赤字の部分
を「収支ギャップ」として認識している。一方で「黒字」とは、事業、サービスの提供を安定的に継
続するために必要な施設・設備に対する投資を適切に見込んだ上での「黒字」であるとしている。
第3に「投資試算」及び「財源試算」の将来予測と「収支ギャップ」解消の基本的考え方について
は、「投資試算」及び「財源試算」に関して、漫然と将来の支出・収入を予測するだけでは十分では
なく、少なくとも現時点で反映可能な経営健全化や財源確保に係る取組を踏まえるべきとしている。
その上で、料金引上げや投資のあり方の見直し等を複合的に検討し、将来予測のシミュレーションを
数パターン行うなどして実現可能な方策で「収支均衡」を図ることが理想としている。そして、「収
支ギャップ解消」に向けた取組の方向性等が記載されていることが必要であり、収支均衡した投資・
財政計画の策定が理想であるが、一方で、料金水準の大幅な引き上げを行わなければ収支均衡しない
場合等、必要な意思決定をするまでに長期間を要することから、収支が均衡した投資・財政計画が短
期間で策定できない事態も考えられるが安易に繰入金を増やすことで収支を均衡させることは適当
ではない。全事業の経営戦略を早期に策定し少なくとも収支ギャップの解消への取組みの方向性や検
討体制・スケジュールを記載し、経営戦略を策定することが必要である。
第4は、住民・議会への説明の必要性である。投資試算及び財源試算の将来予測や収支ギャップの
解消には、個別の地方自治体や事業の実情に応じた方法が考えられる。本ガイドラインでは、個々の
地方自治体や事業は、自らが採用した将来予測方法の理由や収支ギャップの解消の方向性等について、
住民・議会に対して説明する事を求めている。公営企業は、住民生活に密着したサービスを提供する
主体であり、住民等からの料金収入をもって経営を行う独立採算制を基本としていること等に鑑み、
経営戦略は、まずは、経営健全化に向けた議論の契機とするためにも、広く住民・議会に対して、そ
の意義・内容等を公開することが必要であるとしている。なお、公開の方法や内容は、各地方自治体
や事業において、住民・議会に対して理解を得られるように適切に判断していくことが必要である。
また、3~5年ごとの見直し(ローリング)が行われた際も、同様に公開することが必要である。地
方自治体化からの情報提供と説明に対して、地方議会、住民も自らの生活を担う地方公営企業の機能
をいかに持続させていくか議論し共に考えていくことが重要となる。
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