経営学Ⅰ 経営戦略101 経営戦略とは • 企業経営の長期にわたる成長や発展には、様々な要因が関わっている。 それらの中で、経営者が行う最も重要な意思決定が、経営戦略の決定な のである。つまり、企業が何を生産・販売しどのような顧客と取引するの かを選択し、そして、企業はそのビジネスつづける為に必要な資金・人 材・資源を獲得し、自社内でどのように加工して商品をつくり、どのように して誰に販売するのか決定することを経営戦略の決定あるいはドメイン (生存領域)の決定と呼ぶ。 • このドメインの決定には3つのレベルがあります。 – 第1は「企業戦略(Corporate Strategy)」 • 新たなドメインの決定と必要な諸資源の獲得・配分方針を決定する – 第2は「事業戦略(Business Strategy)」 • 与えられたドメインの中で、いかに競争優位を達成するかを決定する。例えば、低 価格な商品を供給してマーケットリーダーとなるか高付加価値商品を開発して他 社との差別化を図る。 – 第3は「機能戦略(Functional Strategy)」 • 財務、研究、開発、生産、マーケティングなど、それぞれの機能ごとに目標と方針 を設定する。 経営戦略 企業戦略 • 企業戦略はその企業のターゲットとなるドメインの新たな設 定をするが。このドメインを定義するのにおもに2通りの方法 がある。第一は製品中心である。ここでは、自社が供給して いる製品は、どのようなものか?という観点から、事業を定 義する。第二は、顧客中心である。ここでは、顧客が購入し ているもの(ニーズ)はなにか?という観点から事業を定義す る。注意する点として、製品中心であれ顧客中心であれ一点 にのみ偏った定義は失敗する確立が高くなる。両方の視点 からドメインを定義することが大切である。また最近では技術 面も加えて定義するケースも多い。 • 例 – 映画事業 (製品中心) – 20代世代に(顧客)、インターネットで(技術)エンターテイメント(製 品)を供給する。 経営戦略 企業戦略 • 製品や顧客等の視点をマトリックスにして見ると、 その企業のドメイン策定に役立つ。 製品 現 新 市場浸透 製品開発 市場占有率の増大と成長を目指す 新製品開発戦略 フルライン戦略 市場開発 多角化 顧客ニーズ 現 新 新顧客・マーケット開発 グローバル化 経営戦略 ビジネス・プロセス • 企業がそのドメインを定義するもうひとつの方法はその製品・市場分野でビジネスプロセス のうちのどの部分を自社で担当するか定義する方法がある。垂直統合(Vertical Integration)戦略とは、原材料の調達や研究開発から、生産・流通機能をへて最終製品の 販売に至る1連のビジネスプロセスの中で、自社が現在担当している以外の新しい機能領 域を新たに取り込み直接管理化におく戦略行動をいう。垂直統合の利点と考えられるもの は、市場取引にまつわる不確実性の削減があるが内部化されたプロセスが市場からの競 争にさらされずコスト高になりやすい。 原材料 川上統合 現在の事業 ビジネスプロセス 川下統合 最終消費者 経営戦略 戦略問題の認識 • • 経営者は通常次に上げる3つの段階を経て経営戦略を立てている。その段階は、 1)問題の認識・定式化、2)代替的戦略案の評価・選択、3)選択された戦略の実 施がふくまれる。 問題とは「現在の状況と望ましい状況との差異」であるが、企業は幾つかの要因 によりその業績が悪化してしまうことがある。その要因として、1)マクロ経済の動 態、2)人口動態、3)社会・文化の制度的システムの変化、4)技術の変化、5)製 品ライフサイクルの終焉などがある。 市場規模 導入期 成長期 成熟期 衰退期 成長率 時間 経営戦略 戦略問題の認識 • • • 企業は現在の業績悪化が続くとそれに対して対応をしなくてはならなくなり新たな 事業機会を探ります。さらに、業績悪化はなくとも企業は新たな事業機会に立ち 向かう必要が出ることもあります。こうした事業機会は、1)外部環境要因、2)余 裕資源の発生、3)新たな経営資源の獲得などにより発生することがある。 例えば、マクロ経済が悪化により現在の企業業績に悪い影響をおよぼしても、今 まで消費者が見向きもしなかった低コストの商品の需要が高まり新たなビジネス チャンスがうまれることもある。 企業が事業を続けるとそこに余裕資源が発生する事がある。その一つの要因と して経験曲線効果がある。この経験曲線効果とは、同じ商品について累積生産 量が2倍になるごとに、単位あたりのコストが一定割合で低下するという関数関 係を意味する。 金額 単位あたり費用曲線 累積生産量 経営戦略 戦略問題の認識 • さらに企業は既存のビジネスを追及して行く 過程で、そのビジネス以外でも転用できる転 用できる経営資源を学習・獲得することがあ る。この余裕資源はそれお有効に活用する 可能性、すなわちあらたな経営戦略の展開を 生む要因になる。 経営戦略 経営戦略案の評価・選択 • 企業は新たな経営戦略案を評価するのに幾つかの方法を使用するが、 特に次の3点に重視する。その3点は、新規ビジネスの魅力、既存のビ ジネスあるいは経営資源との関係、競合他社との競争優位性である。そ の為に利用する手法として、ROI(Return on Investment),シナジー効果、 PPM (Product Portfolio Management)がある。 • 新たなビジネスを展開すると、それに必要な経営資源を獲得し戦略を実 行するために資本投下を必要とする。この資本投下に対する利益の割 合=ROI(投資資本利益率)が高い戦略案は、ビジネスとしての魅力が 高いということになる。 新しい戦略を実施する際、あらかじめある種の経営資源を持っている企 業と、それを持っていない企業との間に、大きな成果の違いが生まれるこ とがある。このような現象は「シナジー効果」と呼ばれている。シナジー効 果として、1)販売シナジー、2)生産シナジー、3)技術シナジー、4)投資 シナジー、5)マネジメントシナジーがある。 経営戦略 経営戦略案の評価・選択 • • PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)は、ボストンコンサルティンググループとGEが開発した戦 略の評価手法である。PPMは複数の事業の組み合わせを、企業の希少資源の配分問題という視点か ら評価する手法である。事業評価は、個々の事業の魅力度(一般に成長率)とその事業の競争上の地 位(一般にマーケットシェア)を利用する。 それぞれのセルには名前がつけられている。 – 金のなる木(Cash Caw) – 花形(Star) • • 成長率は低いが自社のシェアは高く、そこからの収入は高い。新たな投資の必要が低い。 成長率も自社のシェアも高い、収入は高いが、シェアを維持するために追加的な投資も多く必要とする。 – 問題児(Wild Cat) – 負け犬(Dog) • • 成長率は高いがシェアは低い事業で、投資の必要性は高いが収入も比較的に少ない。 成長率もシェアも低く新たな投資すべき事業としては考えられない。 高 問題児 花形 負け犬 金のなる木 事業の成長率 低 低 相対的マーケットシェア 高 キャノンの多角化戦略 キャノンの企業規模は97年には単体で売上高1兆5000億円、従業員数1マン8000人、連結では2兆8 000億円に及んでいる。カメラメーカーの中でもキャノンの多角化の成功は際立っている。 キャノンはカメラで成功したあと電卓、コピー機、電子会計機などの商品の多角化を進めた。しかし、す べて順調であったわけではなかった。特に電卓事業は72年の「カシオショック」で大きな痛手を負ってい る。カシオは6桁電卓を1万2800円という当時としては破格の低価格で投入し電卓を一気に一般消費 者向けの商品にしてしまった。キャノンは高級カメラのブランドイメージを重要視し、さらに、文房具の販 売チャネルがないこともあり、一時電卓事業から撤退を決定したが、カシオの大成功をみて早急にパー ソナル電卓の開発・販売をする。しかし、この商品が致命的な品質不良を起こし、さらに、その対応にも 誤り、市場から一時撤退を余儀なくされている。しかし、キャノンはこの電卓での経験からエレクトロニク スの技術と市場へのアクセス手段を得ることで、その後、コピー機、プリンタ、半導体製造装置などで大 きな成功を収めることになる。 マクドナルド・ケース • マクドナルドは世界的に最も消費者から高く評価されているハンバー ガー・レストランである。過去10年間にマクドナルドのマーケットシェアは アメリカ市場で2パーセント低下している。このマーケットシェア低下はマ クドナルドの店舗数が同時期に50パーセント増加している中で起こって いる。どうしたら、マクドナルドがそのマーケットシェアを回復できるのか、 その回答策として、マクドナルドは新たなハンバーガー作りのシステムを 開発した。新たなシステムでは、マクドナルドは商品を注文ごとに一つ一 つ調理することに変更しました。過去のシステムでは、一定の数量のハ ンバーガーをまとめて調理していましたが、この新たなシステムはOneOrder-at-a-Timeとよばれ、幾つかの利点が期待されている。大きな利点 としてコスト削減とフードのクオリティの向上があります。マクドナルドの経 営者であるMichael Quinlanはこの新システムに大きな期待を持ってい ますが、かれは慎重なマネージャーでもあり、このシステムにより新たな 問題点が発生する可能性もあると考えています。そこで、彼はこのシステ ムに関する評価をあなたに依頼しました。このシステムによって起こりう る3つの問題点を考えてください。そして、その問題点に対する対応策も 考えてみてください。 ジレット新戦略・女性製品マーケット・ ケース • Gilletteは安全剃刀のマーケットリーダーとして1903年から男性用安全 カミソリのトップメーカーの地位を確保してきた。しかし、Gilletteは新たに 女性の足をターゲットに新事業を立ち上げる決定を下した。Gilletteは19 75年まで、完全にこのマーケットを無視してきました。1975年に、Daisy Razorという女性用の製品を市場に投入しましたが、Gilletteは、この商 品に対し最小の投資しか行わず、結果非常に少ない販売に終わってい る。1992年に、新たな商品であるSensor for Womanを発表した。この 商品は女性エンジニアーにより開発され、Gilletteがより真剣に女性用の 安全剃刀市場に投資する姿勢を見せました。1998年には、女性用安全 剃刀商品のプロモートに41億円もの追加投資を行い、さらに2001年か ら2002年にはこの額が150億円になり新たな女性用Venus シェービン グ・システムのプロモーションにアメリカとヨーロッパ市場で投資されまし た。この結果、今日Gilletteの売上の20パーセントは女性用製品によっ て作られている。これは、Gilletteがアメリカの安全剃刀市場で67パーセ ントの占有率を維持する大きな要因となっている。 参考文献 • 現代経営学を学ぶ人のために、赤岡功、世 界思想社、1995 • はじめて経営学を学ぶ、田尾・佐々木・若林、 ナカニシヤ出版、2005 • 経営学をやさしく学ぶ、山口大学経済学部経 営学科、中央経済社、2005 • Modern Management Ninth Edition, Samuel C. Certo、Prentice Hall、2003
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